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「皆言いたいことはあるだろうけど、まずは本人達の主張を聴かないとね」



アドルフ様の威圧感に全員口を噤む。しばらく間を置いたのち再びアドルフ様が口を開いた。



「そうだね…それじゃあまず、君から話を聴こうか。……序列72位の“赤槍あかやり”…カルラ君だね?」



全員の意識がカルラに集中する。頼むから滅多なこと言わないでよ…カルラ。



「アタシもハリスと同意見だよ。アタシらが現地に着いた時には既にクルド村で戦闘が行われていた。もしアタシらが行ってなきゃクルド村は甚大な被害を受けていただろうね…成果だと言うなら、それこそが成果だと思うけど?」



強気な態度と口調で堂々と話すカルラ。

…うん、お前の心臓どうなってんの?毛だるまなの?ちょっとは脱毛処理したら?



「では、今回の件では処罰に値しない…と?」


「しないね!処罰するにしても、ハリスだけで良いんじゃないかい?」

「なぬっ!?おいカルラ!?」



十本指の一人の質問に臆すことなく即答するカルラ。ハリスを安売りする様なその発言に戸惑うハリス…ぷぷ、ちょっとウケる。



「既に戦闘が行われていたというのは…報告にあった転移者ストレンジャーのことだね?なぜ彼等はシェンフールと戦闘に?」


「さあね、詳しいことは知らないよ。ただ、アイツ等は人攫いに捕まって奴隷となった獣人族の子供を助けた。その子を故郷に帰すためにクルド村に向かっていた…その後の経緯いきさつは知らないね」



アドルフ様からの問いにも平然と答えるカルラ。もうほんと、逆に関心するわーそのLLサイズ態度。



「なるほど…それで君達はその転移者達と共闘する形となったわけだね。実際にシェンフールと刃を交えて何か思うところはあるかな?」


「ないね!次に会ったらぶっ飛ば…」

「あぁっと!そこに関しては僕の方から!」



これ以上カルラに任せておけない!

僕はカルラを遮って言葉を挟んだ。



「えーっと、君は…序列59位、“緑啄木鳥グリンフェザー”…フィル君だね?」


「はい…正直、敵の戦力は強大です。今回、を起こした張本人、“抹消者”シンとも遭遇しましたが、やはりその実力はセンターギルドのマスタークラスと同等以上です」


「ハッ!そりゃあ59位にはちと荷が重いだろ!」



…うるさいな。悪かったね、59位で。



「…ギド、静かに。済まないフィル君。続けてくれ」


「はい…問題はシェンフールの戦力がそれに留まらないという点です」


「それ以上の戦力を保持していると?」


「はい。報告にも上げましたが、シェンフールと行動を共にするセーミスと名乗る現地人ドラフト。また、“抹消者”シンを遥かに凌ぐ、正体不明の実力者とも接触しています」



僕はセーミスというエルフの魔法を扱う現地人と謎の仮面を着けた男の姿を思い起こす。正直…あの白面男は別格だ。ハリスの攻撃を軽くあしらったあの実力…アレは、そーとーヤバイ。



「現地人が、シェンフールとねぇ…」

「それこそ、今回取り逃がしたのは痛手では?…」

「そもそも奴等の目的はなんだ?…」

「そんなに騒ぐ程の相手なのか?」



室内に小さなざわめきが起こる。ここでハリスが一歩前に出る。



「問題はまさしくそこじゃ」


「…続けたまえ、ハリス」


「犯罪ギルドシェンフール…その名を耳にするようになった当初は、武器や違法魔具の小規模密輸。闇市での人身売買の顧客斡旋あっせんと…まぁ、その辺のチンピラ集団が悪さをしとる、くらいの認識じゃった」



ハリスの言葉に全員が耳を傾ける。



「じゃが奴等の規模は急速で拡大。その所業も過激になっていき、極めつけに一年前のあの事件じゃ…」


「だからオレらセンターギルドがシェンフールの討伐及び壊滅に乗り出して動いてるところだろうが」


「まだ分からんのか。問題はそこじゃと言っておるんじゃ」


「?…」



ハリスは目を閉じ、一呼吸置いて続ける。



「おかしいとは思わんか?“あの事件”から一年…センターギルドが情報を集め、シェンフールを追った。その一年、あれ程過激を極めておった奴等に辿り着くことはおろか、尻尾さえ掴めなんだ…巷では『シェンフールは解散した』と噂される程に、奴等は息を潜めた」


「それで今回ようやく掴んだシェンフールの情報を、アナタが台無しにしたということになるのでは?」



十本指の一人から横槍が入るが、ハリスは眉一つ動かさない。



「もし、時をかけ奇襲作戦を実行していたとしても無駄骨じゃったろうな…」


「あ?…何が言いたい?」


「ギドよ、シェンフールの頭の名前は知っておるか?」


「あ?知らねーよ。シェンフールのボスは正体不明、表に出てきたこともねぇだろ?」


「そうじゃ…では、組織の人数は?」


「…知らねぇ」


「では、奴等の現在の目的は?…どうやって傘下に入る人間を集めている?…現地人と行動を共にしている理由は?…本拠地は?…」


「………」



ハリスの問いに答えられる者はいなかった。ハリスは続ける。



「そう…これこそが問題なのじゃ。ワシ等は奴等を知らん…知らな過ぎる。甘く見ていた、とも言えるかの。今回の一件で、想定していたよりもずっと…シェンフールは脅威じゃと感じた。姿を見せず組織を操る頭の存在、底の見えぬ戦力、センターギルドの追跡を逃れる程の情報操作、奴等に加担する謎の現地人…ただの悪ガキ集団の芸当ではない…」


「シェンフールは、“組織”として高いレベルにあると?」


「その通りじゃ…奴等は思った以上に組織立って動いておる。それも、、の…」



含みのある言い方をして鋭い眼差しを向けるハリス。…おいおい、マジで言ってんの?その言い方じゃ…



「あのぉ、なんか今のぉ?…っていう風に聞こえたんですけど~?私の思い過ごしですか~?」



甘えたような、間の抜けたような女性の声。アホみたいな喋り方だけど、この人も“十本指”の一人。まぁ…ボクコノヒトモニガテダケド。



「思い過ごしなら…いいんじゃがの……」








センターギルド…



“序列3位”



ハリス=ウースラッドは静かに、そう言葉を返した。








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