161
「【
宙を滑るようにセーミスへと迫るフィル。目に見える風…とでも言うべきだろうか。とにかく、翡翠色の、風のように揺らめくそれがフィルの全身を包み、形を成し…
「くっ!」
セーミスは猛進するフィルに対し、地を転がるように回避!
フィルは勢いそのままに地を殴りつけた!
およそ人の拳が起こしたとは思えない程の衝撃音。フィルが殴りつけたその地面には、何かに削り取られたような窪みが形成されていた。
「…目に見える程の密度の風属性の魔力……」
間一髪、フィルの一撃を回避したセーミスは、フィルの姿を見て目をしかめる。フィルは翡翠色の流動的な魔力に身を包み…それはさながら翡翠色の鎧。
「【
セーミスが魔法を発動。黒い影のようなもので形成された鳥が5羽、滑空しフィルに迫る。しかしフィルは意にも介さぬ様子でその場で棒立ち。放たれた黒鳥がフィルに直撃するが、フィルの纏う風の鎧の前に弾かれ、消える。
「攻防一体の風魔法…流石にセンターギルドは粒ぞろいですなぁ」
「じゃあそろそろ降参して捕まってくれる?…いい加減エルフの魔法チラつかされるのもムカつくからさ」
「ホホ…まぁそう
フィルの頭上に魔法陣が出現。そこから無数の石礫が雨のように降り注ぐ!
「ウザイって…【
フィルの足元から裂くような突風が巻き起こる。吹き上げ、巻き込み、降り注ぐ礫の群れさえ搔き消した。フィルの眼差しは更に暗く、冷たく…。
「…凄まじく高密度の風魔法に正確無比な魔力コントロール。その上初動も速い…魔法に優れたエルフ族の中でも、ここまでの使い手はそういないでしょう。…面倒極まりないですよ」
♦
睨み合ったシンとハリスさんにまだ動きはない。互い牽制し合っているのか、刺すような空気感だけがその場を支配する。
「ふむ…ようやっと仕事しよったか、あの生意気小僧め」
フィルとセーミスの戦闘を横目で見て、ハリスさんが呟く。
「さて…シェンフールのシンよ。お主ら
「ご希望には添えそうにない…」
「じゃろうのぉ…」
“やれやれ”という風に
「仕方ないの…ならば、力ずくで…」
「帰るよ、シン」
「!!?」
突如…正しく唐突に、その男は姿を現した。黒いマントに身を包み、異様な仮面で顔を隠すその男。なんだこいつは?…どっから出てきた!?
「ボスが呼んでる。早くしないと怒られちゃうよ」
装飾一つない、穴の一つもない、白磁器のように白く顔全体を覆い隠す仮面。その仮面の奥から聞こえる声は、少年のように若い。次から次へと…なんなんだコイツら。
「あの仮面…穴空いてないぞ?…前、見えなくない!?息、苦しくない!?」
……いやそこじゃなくない?
隣で驚愕の表情を浮かべ緊張感をぶち壊すマイル。そんなことを考えている内に仮面の男はシンの横に並び立ち、ハリスさんに向き直る。
「ごめんね、無色のハリスさん。アナタを相手するにはまだちょっと早いんだ」
「誰じゃ…お前さんは?」
「んー…この世界は“答え”を求めてる」
「…ワシの質問の答えにはなっておらん」
「あはは!そうだね…まぁその内またお会いできますよ」
仮面の男の顔がこちらに向く。仮面で隠れてはいるが、明らかに俺を直視している。
「…君にもね。器のお兄さん」
「っ!?…アンタ、一体…」
「君もいずれは答えを出さなくちゃいけない…願わくば、その答えがボク達と重なるものであることを祈るよ」
さっきからコイツは何を言ってるんだ?…コイツは…何を知ってる!?
俺は男のステータスを確認しようとするが、仮面の男のステータス画面は文字化けしたような意味不明の文字列だけで、名前すら判別出来ない。仮面の男はパチンと指を鳴らす。すると仮面の男の背後に空間に穴が開いたかのような黒い渦が出現する。それを見てハリスさんの表情が険しくなる。
「いかん!」
「今日の所は、そろそろ失礼させてもらうよ。セーミス、君もご苦労だったね、帰ろう」
仮面の男の声を聞き、セーミスはフィルとの戦闘を中断し、地面へと姿を消す。数秒の後、仮面の男の傍らへと姿を現した。
「ホホホ…良いタイミングでした。なかなか手こずっていたところでして」
「うん、君にも死なれたら困るからね、セーミス」
「なに逃げようとしてるの?」
風の鎧を纏ったフィルが猛進!
セーミスに向けて拳を振り上げる!
「がっ…!?」
だがそこに白銀のオーラを纏ったシンが割って入り、短剣でフィルを斬りつけた!
刃は風の鎧をいともたやすく切り裂き、フィルへと届く!
「フィル!」
フィルは地に叩き落され、苦痛に顔を歪めている。すぐさまハリスさんがフィルを庇うように前に出る。
「行くよ、二人とも」
セーミスがニタニタと笑みを浮かべながら、背後の黒い渦の中へ消えていく。
「待て!忘れモンじゃ!【
ハリスさんが手を翳す!
ハリスさんの正面に魔法陣が出現し、そこから飛び出したのは、隕石。その赤く赤熱した隕石は真っすぐに仮面の男に向かって飛んでいく!
「へぇ、シンのスキルを…」
仮面の男が徐に手を伸ばし、飛来する隕石に触れる。
「なっ…!」
その瞬間、巨大な隕石が粉々に砕け散り消滅!
仮面の男には傷一つ付いていない。
「それじゃあ、またね」
その一言を残し、なんともあっさりと、仮面の男とシンは黒い渦と共に姿を消した。
♦
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます