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「センターギルドの“十本指トゥハンズ”…無色のハリス。これは一筋縄にはいきませぬぞ、シン殿?」


「俺が足止めする…離脱の準備を進めろ、セーミス」


「…承知致しました」



シンとセーミスが警戒態勢を取り、セーミスはシンの後方へ回る。辺りを照らす上空の大きな月に薄い雲がかかり、一瞬、月明かりが陰る。先に動いたのはハリスさんだった!



「何度も言わすな小僧共、逃がさんと言うておるじゃろ……【消失箱クリアキューブ】」



ハリスさんが自身の胸の前で地面と水平に両の掌を合わせる。鋭い眼光をシンに向けながら、合わせた掌をゆっくりと開いていく。



「!!!」



何かを感じ取ったのか、シンは瞬発的に後方へと大きく跳躍。その瞬間、先程までシンが立っていた場所におよそ30cm四方のが出現した。磨かれたガラスで出来たような半透明の立方体。突然宙に現れたその箱は、小さく震えるような重低音と共に消え失せる。なんだ?…今の?……



「ほう…なかなか良い勘をしとるの」


「アナタが相手では、気を抜くわけにはいかないでしょう…」


「ふん…じゃが、まだじゃ!」



再びシンが表情を変えて疾駆する。そんなシンを追うように現れては消える半透明の立方体。



「くっ!…【連投速刃ラッシュナイフ】!」



シンは回避行動を続けながら、数十本のナイフをハリスさんに向かって投げつける!



「【断絶ディヴィジョン】」



ハリスさんは静かに指先で線を描くように地面に向けて手を払う。シンの投げたナイフがまるで見えない壁に弾かれたように地に落ちていく。凄い…あのシンを、その場から動くこともなく圧倒してる…。



「シン殿!」

「む?…」



突如、シンとハリスさんの間に割って入るようにセーミスが地面から姿を現す。



「ここは実験体共コイツらに任せて退きましょう!!」



セーミスが手を翳すと、先程俺とマイルが倒したものと同じようなキメラグールが2体現れた!2体のキメラグールはそれぞれ大きな斧と剣を振りかざし、ハリスさんに襲い掛かる!



「…【消失箱クリアキューブ】」


「ガッ!?」

「ウゴッ!?」



ハリスさんは身じろぎもせず、静かに唱える。2体のキメラグールの頭が半透明の立方体に包まれる…。短い重低音。



「なっ!?」



2体のキメラグールは、糸が切れたように倒れ伏した!



「引っ込んどれ…小僧」


「っ……空間ごと削り取る魔法…なんと凶悪な」



ハリスさんに睨まれ、冷や汗を浮かべるセーミス。俺とマイル二人がかりでも苦労したキメラグールをあっさり一蹴って…



「バケモンかよ…あのじいちゃん」



俺の隣でマイルが苦笑いしながら呟くように言った。



「さて…そろそろ大人しくしてもらおうかの」


「!?」



不意に、ハリスさんの姿が消え失せる。次の瞬間には、シンの背後へと移動していた!シンの表情が驚愕の一色に染まる。咄嗟に身を翻すが…



「【消失箱】」


「ぐっ…あ!」



回避行動を取ったシンだったが、半透明の立方体がシンの左腕を捉え、消失。肩から肘までを失い、肘から先の腕がボトリと地に落ちる!



「くっ!!」



落下したシンの左腕は光となって消滅。シンは顔を歪めながらも距離を取る。



「…今のも反応するか。流石じゃのぉ」


「防御不可の空間魔法…まったく、規格外にも程がある」



再び睨み合う形となったシンとハリスさん。張り詰めた緊張感がこっちにまで伝わってくる。その時、セーミスが動きを見せた。



「おのれハリス=ウースラッド!こうなったら…」

「おっと、邪魔しないでくれる?」

「!!!」



セーミスの背後にいつの間にか移動していたフィル!

フィルは宙に浮かび、凶悪な笑みを向ける。



「キサマっ!…」


「君の相手は僕だからさー…これ以上茶々入れられると後からうるさいから、あのジジイ。…それに、君には訊きたいこともあるんだよね」


「邪魔をするなエルフ族!…【廻り穿つ槍スピラ・ハスタ】!」



セーミスが振り向き様に魔法を放つ!

突き出された掌から黒い槍が飛び出し、高速で回転しながらフィルへと飛来する!



「…【廻り穿つ槍スピラ・ハスタ】」



相対するフィルの掌からも回転する槍が出現!

翡翠色のその槍は、セーミスが放った黒い槍と衝突し、互いに弾け飛んだ!



「そう、それそれ…ねぇ、なんで君…使のかな?エルフ…には見えないよね、君」



フィルが冷ややかな視線をセーミスに向ける。その凍てつくような空気にセーミスの表情が引き攣る。



「…っ…ほ、ホホ。誇り高き同属の魔法を使われて、怒りを隠せませんかな?」


「あぁ、いや…僕にそういうの無いから。だし」


「はて…忌みな事を申しますなぁ、若きエルフ殿…」



向かい合う二人の間に張り詰めた空気が流れ、両者とも警戒の色を崩さない。



「まぁ、君には関係ない事だよ。僕とエルフ族アイツらの問題だからね。まぁエルフの魔法なんて、ほんとは見るのも使うのも嫌なんだよね。まぁ、今のはわざと君と同じ魔法を使ったけどさ…」



フィルの眼光が鋭さを増す。



「こっからは、僕のでいかせてもらうよ…」



フィルが宙を蹴り、一気に距離を詰めた!




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