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村人達の視線が言葉を零した女性に集まる。それはルルアの母、リリアであった。



「このままって…」


「今、私達の為に表で戦ってくれている子達を私達は陥れようとしました」


「っ!…」

「でも…それは…」



リリアの言葉を受け、村人達はバツが悪そうに視線を落とす。



「し、仕方ないだろ!そうしないと俺達は殺される!」


「そうだ!仕方…ないんだ!悪いのは転移者ストレンジャーだ!」


「今戦ってくれているあの子達も、そうですか?」



リリアは静かに、だが真直ぐに村人達へ言葉を投げかける。



「彼等だって!…もしこの戦いに勝ったとしても、見返りに何を要求されるか分からない!」


「そ、そうだ!…転移者は信用出来ない!!」


「ではアナタ達は今、その信用できない人達の言葉に従って大人しく守られている…ということですか?」


「っ!!…」



リリアは目を閉じ、思い起こす…。



『生きてくれ…リリア』



今は亡き伴侶の言葉。苦悩、後悔、恐怖……優しい思い出、娘の笑顔。

様々なものが込み上げ、震える手をリリアは固く握り込み…前を向く。



「私もルーシュを失いました…何も出来ないまま、何も変えられないまま…。もう嫌なんです!何も出来ないまま失うのは!」


「「「……」」」


「仕方ないから、諦めていいのですか!?…仕方ないから、仲間を失うのですか!?仕方ないから、次は何を…誰の命を諦めるのですか!?」



半ば叫ぶようなリリアの問いかけに、答えられる者は只の1人もいなかった。






「ガアアアァァァァア!」


「はぁ…はぁ…っ!!」



迫り来るアンデットを鉄人形で殴り倒す。ノノの疲弊はより色濃くなり、苦悶の表情を浮かべる。



「ナギ…マイル…」



遠目ではナギとマイルが謎の巨体を持つモンスターと戦闘を繰り広げている。防戦一方で苦戦している様子で、助けに向かいたいが…



「ノノさん!!」


「!?…リリアさん!?…外に出ちゃ…ダメ!!」



背後からの声に振り返ると、リリアが駆け寄ってくるではないか。他数名の若い獣人族の男達も扉から外に出てくる。



「なにして…」


「お嬢ちゃん…ひとつ聞かせてくれ。アンタは何の為に戦ってるんだ?」


「え?…」



1人の男に尋ねられ、目を丸くするノノ。数秒の思考の後…



「ルルアたんは…友達…だから…助けたい」


「………」



ここでノノは小さく笑う。



「だから…全部…自分の為」


「「!!」」


「下がって…外にいられたら…守りにくい」



獣人族の男達は顔を見合わせ、頷く。



「お嬢ちゃん!俺達も戦わせてくれ!!」


「え…!?何言って…」


「俺達も…自分達の為に、戦いたい!」


「ノノさん、此処は私達に任せて、ナギさん達を助けに行ってください!」



そう言って微笑むリリアだが、ノノは困惑する。



「そ…んなこと…」


「あの家の入口を守るくらいなら、俺達にも出来る!」


「人数も多い!交代しながらやれば持ちこたえることくらい出来る!だから、行ってくれ!そして…全部終わったら、ちゃんと謝罪させてくれ」


「あぁ…アンタらには、悪い事しちまったからな」



男達はそう言うと、それぞれ棒切れや鍬を手に、入り口を固める。村人達の目には決意が見て取れる。



「こんなこと頼めるような立場じゃないですけど…ルルアを、お願いします!」


「……わかった!…でもせめて…」



ノノはツールボックスを開き、操作する。



――――――――――――――――――

 選択したアイテムを破棄しますか?

       Yes / No

――――――――――――――――――



ノノはYesを選択。ノノの目の前に粗末な造りの剣や石斧が出現する。リラの山道のコボルトからドロップした武器…性能も大して良くはないが、無いよりはいいだろう。



「鍬よりかは…良いと…思う」


「!…ありがたく使わせてもらうよ」



男達は各々不格好な武器を手に取る。



「ガアアアァァ!」


「危ない!…」



襲ってきたスケルトンの一撃を1人の男が剣で受け止め、別の男が横から敵を石斧で叩く!



「「うおおぉぉぉぉ!!!」



敵が態勢を崩したところに、残った男達が総攻撃!

何度も武器を振り下ろし…スケルトンの骨だけの身体はバラバラになり、動かなくなった。


お粗末な連携ではあるが、これなら家屋に籠城しながら戦えば何とかなるかもしれない。ノノは獣人族の戦いぶりを見て、そんなことを考える。



「行ってくれ!お嬢ちゃん!」


「……うん…!」



ノノは小さく頷き、駆け出した。





時を現在に戻し…



「…【人形劇ドールアクター】!」


「!…ノノ!!」



俺の背後から駆け寄ってきたノノがスキルを展開させる。

人形のミハエルとコタローが独りでにゆっくりと身体を起こす。



「ノノ!?村の人達は!?」


「大丈夫!…皆…戦う覚悟…」


「……!」



遠目で獣人族達が武器を手に、家屋の入り口を守っているのが見える…。家から持ち出したのだろうか椅子やテーブル、棚等でバリケードを築き、それを盾に武器で牽制している。…悪くない、あれなら少しの間なら持ちこたえられる。



「だったら…」



ノノが戦線に加わったのは大きい。ノノの【人形劇】の攻撃範囲なら、ハリスさん達の周囲を充分にカバーできる。



「…タスク確定……ノノ!ハリスさん達の守りは任せる!」


「任せてっ…!」



ノノの【人形劇】の効果時間は5分。今はなんとか上手くやっているようだが、村人達の方も心配だ…。



「マイル…」


「おう!」



俺はマイルの横に並び立ち、キメラに目を向ける。



「コイツを5分で畳むぞ!」


「おっけい!!」


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