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「ルルアももうすぐ10歳になるんだな…」
ドルージはそう言うと果実酒を口に含み、風味を楽しむ。
「…やっぱり、香りが薄いなー」
「仕方ないさ…出来の良い酒は全部奴らに持っていかれちまったからな」
ルーシュとドルージは静かに言葉を交わしながら酒を飲む。ドルージはグラスを手に持ったまま立ち上がり、家の中を見渡す。
「おっ!懐かしいなー、名も無き英雄の物語か!」
ドルージが本棚にあった一冊の絵本を手に取る。
「子供の頃よく読んだよなー!この絵本の英雄に憧れて、ごっこ遊びしてたな!」
「あぁ…その絵本はルルアも好きでな」
「へー!かっこいいもんなー、英雄…」
ドルージは絵本を開く…
♦
『名も無き英雄』
むかしむかしのこと
この世界に住まうものたちは、よく争いを起こしていました。
人族、獣人族、竜人族、魔人族…様々な種族の人々が同じ世界に住んでいる。
ただ、それだけのことなのに争いが無くなることはありませんでした。
星の数ほどの人々が暮らす世界。
争う理由も星の数ほどあるのです。
そんな世界のとある国で、いずれ“英雄”と呼ばれることになる男の子が生まれました。
ですが、その男の子はお父さんもお母さんも知りません。
自分の名前も知りません。名前があるかどうかもわかりません。
皆が争いに夢中で、男の子は生まれて間もない頃に捨てられてしまったのです。
それでも男の子は必死に生きました。皆が命を奪い、奪われる中、男の子は自分の命を一所懸命に拾います。
そして、彼は大きくなりました。
彼は世界を旅してまわります。旅をしながら、色んな種族の人達とお話しました。
彼は魔人族にたずねます…
「あなたはなぜ争うのですか?」――「髪の色が違うからだ」
彼は竜人族にたずねます…
「あなたはどうして争うのですか?」――「瞳の色が違うから」
彼は獣人族にたずねます…
「どうして争うのかだって?…アイツらが奪うからさ」
彼は人族にたずねます…
「なぜ争わなければならないの?」――「私達と違うからさ」
なんてつまらない世界なのだろう。彼はそう思いました。
彼は考えました。そして彼は思い付きます。
皆が仲良くなれる、とっておきの方法を……
♦
ドルージは数ページだけ流し読みしてパタリと絵本を閉じる。
「…この物語みたいな英雄が現れてくれたら良いのにな」
ドルージは悲しげな笑みをルーシュに向ける。
「英雄…か」
ルーシュの頭にルルアとの思い出が蘇る…
♦
次の日…
「…シケてんなー。今日の税はこんなもんか!?」
今日もシェンフールの男達が村にやってきて、取り立てを行っている。村の中央に陣取っている男達に、村人がそれぞれ
「……よし!」
「アナタ?…」
ルーシュは気合を入れるように一言放つと、男達のもとへと向かっていく。そして…
「お願いがあります!!」
「あ?…」
ルーシュは地に膝を着き、頭を下げる。
「私の娘が行方不明になっております。…どうか、探しに行かせてください!」
「は!?お前、何言ってんだ!?この村から逃げ出すとどうなるか…」
「必ず戻ります!もちろん、アナタ方の事はセンターギルドにも口外しません!…どうか、どうか娘を探しに行くことをお許しください!!」
ルーシュは地に額を擦り付け、懇願する。シェンフールの男の一人が剣を抜いてルーシュに近づく…
「アナタ!!」
リリアが慌ててルーシュに駆け寄ろうとしたその時。
「私も、お願いしたい!!」
「!!?」
ルーシュの隣で、膝を着き頭を下げる男。
「お前…」
それはルーシュの友、ドルージだった。
「私の息子も、隣の男の娘と一緒に行方知れずになっています!…どうか、村へ出て探すことをお許し頂きたい!!」
「ドルージ?…」
ルーシュは混乱する。それもそのはず…
ドルージに息子などいないのだから。
「はぁー…馬鹿言ってんじゃねぇよ。そんなもん信じると思ってんのか!?まだ逃げ出そうと考えるヤツがいるとは、“見せしめ”が足りないみてぇだなぁ!!」
二人を見下ろす男が剣を振り上げる!!
「待て」
「!!」
紫の頭髪に、複数のピアスが目立つ男、ザイが言葉を発する。
「子供を救いたいだなんて、泣けるじゃねぇか…おい、剣を下ろせ」
「は、はい!」
ザイに制され、男は振り上げた剣を鞘に戻す。
「そ、それでは…お許し頂けるのですか!?」
「あぁ、良いだろう」
「!!」
ルーシュとドルージは顔を見合わせて喜ぶ。
「だが…村から出れるのはどちらか一人だ」
「「!」」
「今からお前等二人で“ゲーム”をしてもらう。勝った方が村を出ることを許してやろう」
「そ…」
「それで構いません!ありがとうございます!!」
ルーシュの言葉を遮り、即答するドルージ。
ドルージ…お前、一体何を考えてるんだ?
ルーシュは隣で頭を下げる親友の横顔を見つめていた。
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