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「…立て、二人とも」



ザイはルーシュとドルージを立ち上がらせる。



「な、何をすれば…」


「そうだなぁ…」



ザイはニタニタと笑いながら村人から集めた貢物に目を落とす。



「お、良いのがあったぞー…」



ザイが手にしたもの、それは古びた二振りの剣…。誰かが森で見つけてきたのであろう、おそらくは冒険者か旅人の遺失物。かなり年季が入っていて刃も所々欠けているが、まだ剣としての役割を果たせる代物だ…。



「お前等二人で殺し合え…生き残った方はこの村から出してやる」


「そ、そんなこと!…」

「わかりました」


「!?…ドルージ!?」



ドルージはザイが投げてよこした剣を拾い上げ、一振りをルーシュに差し出す。



「お前!…何考えてるんだ!?」


「いいから戦えよ…ルーシュ。俺はこの村を出て子供達を探しに行く。…安心しろ、俺が勝ってもルルアは俺が連れ帰ってやる」


「何言って…」


「ヒャハハハ!いいじゃねぇか!面白れぇ!!…おい、場所を開けろ!」




ザイが人だかりを下がらせる。ドルージはルーシュから距離を取り、剣を構える。


ドルージ…どうして?……



「剣を抜け、ルーシュ!」


「こんなこと…やめろ、ドルージ!どうして!?…」


「うるさい!!」



ドルージが剣を振り上げ突進。慌てたルーシュは態勢を崩しながらも、何とか剣でドルージの一撃を受け止める。二人は鍔迫り合いに…



「ドルージ!…やめてくれ、なんでこんなこと…」


「…もう、ウンザリなんだよ!俺はこの村から出ていく!」


「え!?」



二人は剣を交えながら、小声で言葉を交わす。



「最初はお前と一緒に村を出て逃げ出そうと思ったが…こうなった以上、お前を殺してでも俺は出ていく!」


「そんな!…ぐっ!!」



ルーシュはドルージに弾き飛ばされ、よろめく…そこへドルージの追撃が!



「うわっ!!…やめてくれ!ドルージ!!」



横へ転がり攻撃を回避するルーシュ。


ドルージ…あんなに優しかったお前が、どうして…

そんなにも追い詰めらえていたのか?…ドルージ……



「戦え!ルーシュ!!…お前は親友だった、せめて本気で戦って…死んでくれ!!」




ドルージが剣を振り回し、ルーシュを攻め立てる。ルーシュの目に涙が浮かぶ…


本気なのか?ドルージ…お前と殺し合いなんて…


ルーシュとドルージでは圧倒的な体格差がある。剣術の覚えなどない二人の戦い…単純な力比べでルーシュがドルージに敵うはずもなかった。



「ぐっ!!」



ドルージの勢いに押され、尻もちをついてしまうルーシュ。



「…あばよ、ルーシュ……」



そこへすかさずドルージが剣を振り上げる!



「やめろおぉぉぉぉおお!!!」



ルーシュは涙で滲んだ目を閉じ、死を覚悟した…だが…



「…ゴフッ……」



無意識に突き出した腕に伝わる感触…。ルーシュが恐る恐る目を開けると…



「え?……」



ルーシュが突き出した剣は、ドルージの胸を貫き…



「…行け、ルーシュ」


「ドルージ?…お前!」



胸を貫かれた親友は、優しく微笑んでいた。



「…ルルアを連れ戻せよ…ルーシュ……」


「おま…わざと?……どうして!!?」



目の前の光景に困惑するルーシュ。ドルージが非力な自分に負けるわけがない。わざと…自分の刃を受け入れたのだ。数秒経ってそのことに気付くルーシュ。



「ホ…ントは一緒にルルアを探しに行ってやりたかったが……アイツ等がそう簡単に村から出るのを許すはず…ないよな。まぁ、俺みたいなボンクラ一人の命で…ルルアと村を救うチャンスが貰えるなら…儲けもんだろ」


「なに…なに笑ってんだよお前!!」



先程までの鬼の形相はどこへやら、いつものような優しい微笑みを浮かべるドルージ。



「まぁ、丁度良かった…そろそろ腹の減り具合も限界だったしな……俺は先にあの世で美味い酒と肴で…一杯やっとくから…よ。お前は…のんびり来いや」



そこまで言うと、ドルージは血を吐いて倒れこむ。



「……ドルージ?…おい……おい!!」



ドルージは静かな微笑みをたたえたまま、こと切れていた。



「そ…んな…」



ルーシュは赤く染まった自身の掌を見つめる。そんな…何が…どうなって……どうして、こうなった?…



「ハハハ!…おめでとう!ユーアーウィナー!!」



ザイが薄っぺらい拍手をしながら笑う。周りの男達もゲラゲラと笑っている。



「アナタ!!」



呆然としているルーシュに、リリアが駆け寄る。



「ドルージは…わざと…死んだ?……そんな…」



ルーシュはどこか遠くを見つめたまま、震えだす。



『行け、ルーシュ』



今はもう動かない、親友の言葉が頭に響く。



「笑うな!!」


「あ?…」


「こいつを…こいつを笑うんじゃない!!」



ルーシュは涙をぼろぼろと零しながら叫ぶ。



「…あぁ、悪かったよ。ほら、約束だ…行けよ」



ザイが顎で村の門を示す。



「リリア…荷物を持ってきてくれ」


「そんな!…こんな状態で!?何も今行かなくても!」


「このチャンスを逃すわけにはいかない!…ドルージの命が無駄になる!!」


「……っ!」



リリアは涙を堪え、ルーシュの荷物を取りに走る。



「約束だ…無事に村から出してもらうぞ?」


「あぁ…こう見えて俺は約束を守る男だ、安心しろ」



ルーシュはザイを睨みつける。そこへリリアがルーシュのリュックを抱えて戻ってきた。



「アナタ…どうか無事で…」


「あぁ、必ず戻る…」



ルーシュは荷物を受け取り、立ち上がる。



「…行ってくる」


「あぁ…行けよ。センターギルドに通報しやがったら…村の連中がどうなるか、わかってるよな?」


「そんなことはしない…約束する」


「…よし」



男達が道を開け、ルーシュは村の門へと進む。


すまない…ドルージ!!お前の覚悟は、無駄にはしない!!


ルーシュは村の外へと踏み出した。




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