138
「…立て、二人とも」
ザイはルーシュとドルージを立ち上がらせる。
「な、何をすれば…」
「そうだなぁ…」
ザイはニタニタと笑いながら村人から集めた貢物に目を落とす。
「お、良いのがあったぞー…」
ザイが手にしたもの、それは古びた二振りの剣…。誰かが森で見つけてきたのであろう、おそらくは冒険者か旅人の遺失物。かなり年季が入っていて刃も所々欠けているが、まだ剣としての役割を果たせる代物だ…。
「お前等二人で殺し合え…生き残った方はこの村から出してやる」
「そ、そんなこと!…」
「わかりました」
「!?…ドルージ!?」
ドルージはザイが投げてよこした剣を拾い上げ、一振りをルーシュに差し出す。
「お前!…何考えてるんだ!?」
「いいから戦えよ…ルーシュ。俺はこの村を出て子供達を探しに行く。…安心しろ、俺が勝ってもルルアは俺が連れ帰ってやる」
「何言って…」
「ヒャハハハ!いいじゃねぇか!面白れぇ!!…おい、場所を開けろ!」
ザイが人だかりを下がらせる。ドルージはルーシュから距離を取り、剣を構える。
ドルージ…どうして?……
「剣を抜け、ルーシュ!」
「こんなこと…やめろ、ドルージ!どうして!?…」
「うるさい!!」
ドルージが剣を振り上げ突進。慌てたルーシュは態勢を崩しながらも、何とか剣でドルージの一撃を受け止める。二人は鍔迫り合いに…
「ドルージ!…やめてくれ、なんでこんなこと…」
「…もう、ウンザリなんだよ!俺はこの村から出ていく!」
「え!?」
二人は剣を交えながら、小声で言葉を交わす。
「最初はお前と一緒に村を出て逃げ出そうと思ったが…こうなった以上、お前を殺してでも俺は出ていく!」
「そんな!…ぐっ!!」
ルーシュはドルージに弾き飛ばされ、よろめく…そこへドルージの追撃が!
「うわっ!!…やめてくれ!ドルージ!!」
横へ転がり攻撃を回避するルーシュ。
ドルージ…あんなに優しかったお前が、どうして…
そんなにも追い詰めらえていたのか?…ドルージ……
「戦え!ルーシュ!!…お前は親友だった、せめて本気で戦って…死んでくれ!!」
ドルージが剣を振り回し、ルーシュを攻め立てる。ルーシュの目に涙が浮かぶ…
本気なのか?ドルージ…お前と殺し合いなんて…
ルーシュとドルージでは圧倒的な体格差がある。剣術の覚えなどない二人の戦い…単純な力比べでルーシュがドルージに敵うはずもなかった。
「ぐっ!!」
ドルージの勢いに押され、尻もちをついてしまうルーシュ。
「…あばよ、ルーシュ……」
そこへすかさずドルージが剣を振り上げる!
「やめろおぉぉぉぉおお!!!」
ルーシュは涙で滲んだ目を閉じ、死を覚悟した…だが…
「…ゴフッ……」
無意識に突き出した腕に伝わる感触…。ルーシュが恐る恐る目を開けると…
「え?……」
ルーシュが突き出した剣は、ドルージの胸を貫き…
「…行け、ルーシュ」
「ドルージ?…お前!」
胸を貫かれた親友は、優しく微笑んでいた。
「…ルルアを連れ戻せよ…ルーシュ……」
「おま…わざと?……どうして!!?」
目の前の光景に困惑するルーシュ。ドルージが非力な自分に負けるわけがない。わざと…自分の刃を受け入れたのだ。数秒経ってそのことに気付くルーシュ。
「ホ…ントは一緒にルルアを探しに行ってやりたかったが……アイツ等がそう簡単に村から出るのを許すはず…ないよな。まぁ、俺みたいなボンクラ一人の命で…ルルアと村を救うチャンスが貰えるなら…儲けもんだろ」
「なに…なに笑ってんだよお前!!」
先程までの鬼の形相はどこへやら、いつものような優しい微笑みを浮かべるドルージ。
「まぁ、丁度良かった…そろそろ腹の減り具合も限界だったしな……俺は先にあの世で美味い酒と肴で…一杯やっとくから…よ。お前は…のんびり来いや」
そこまで言うと、ドルージは血を吐いて倒れこむ。
「……ドルージ?…おい……おい!!」
ドルージは静かな微笑みをたたえたまま、こと切れていた。
「そ…んな…」
ルーシュは赤く染まった自身の掌を見つめる。そんな…何が…どうなって……どうして、こうなった?…
「ハハハ!…おめでとう!ユーアーウィナー!!」
ザイが薄っぺらい拍手をしながら笑う。周りの男達もゲラゲラと笑っている。
「アナタ!!」
呆然としているルーシュに、リリアが駆け寄る。
「ドルージは…わざと…死んだ?……そんな…」
ルーシュはどこか遠くを見つめたまま、震えだす。
『行け、ルーシュ』
今はもう動かない、親友の言葉が頭に響く。
「笑うな!!」
「あ?…」
「こいつを…こいつを笑うんじゃない!!」
ルーシュは涙をぼろぼろと零しながら叫ぶ。
「…あぁ、悪かったよ。ほら、約束だ…行けよ」
ザイが顎で村の門を示す。
「リリア…荷物を持ってきてくれ」
「そんな!…こんな状態で!?何も今行かなくても!」
「このチャンスを逃すわけにはいかない!…ドルージの命が無駄になる!!」
「……っ!」
リリアは涙を堪え、ルーシュの荷物を取りに走る。
「約束だ…無事に村から出してもらうぞ?」
「あぁ…こう見えて俺は約束を守る男だ、安心しろ」
ルーシュはザイを睨みつける。そこへリリアがルーシュのリュックを抱えて戻ってきた。
「アナタ…どうか無事で…」
「あぁ、必ず戻る…」
ルーシュは荷物を受け取り、立ち上がる。
「…行ってくる」
「あぁ…行けよ。センターギルドに通報しやがったら…村の連中がどうなるか、わかってるよな?」
「そんなことはしない…約束する」
「…よし」
男達が道を開け、ルーシュは村の門へと進む。
すまない…ドルージ!!お前の覚悟は、無駄にはしない!!
ルーシュは村の外へと踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます