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4か月前 クルド村



「ルルアを探しに行かなくては!!」


「一人でなんて危険すぎるわ!…相手は奴隷商なのでしょう!?ならず者の人攫ひとさらいや用心棒も雇っているはず…」



純白の髪に、猫を思わせる耳。獣人族のリリアは不安そうな声を上げる。



「でも、こうしてる今もルルアは辛い想いをしている…早く行かないと!」



リリアに対し言葉を返すのは、ブラウンの髪に、青味がかった瞳の男。ルルアの父、ルーシュである。既にルルアが失踪して、3日が経っていた。クルド村周辺の森を村人総出で捜索したがルルアの姿は無く、代わりに“”が見つかる。


その場にルルアの付けていた髪飾りも見つかったことから、人攫いに連れていかれたと断定。村人達の間には諦めの空気が漂っていた。ルーシュとリリアの二人を除いて。



「せめて、人を集めて…街に出て、ギルドの冒険者に依頼するのは!?」


「そんな金がどこにあるんだ?…それにならず者や転移者ストレンジャーを相手にする可能性があるとなれば、村の皆も力を貸してはくれない…ボクが村を出るしかない」


「なら、私も!…」


「ダメだ…リリアは村にいてくれ。もしもあの子が帰ってきたら君がいてくれなきゃ」



話しながらルーシュはリュックに荷物を詰めていく。



「そんな!…私だけ待っているだなんて!…」


「頼むよリリア。君まで危険な目に合わせるわけにはいかない。それに、ルルアは賢い子だ。上手く逃げ出してひょっこり帰ってくるかもしれないだろ?」



ルーシュは無理に作った笑顔をリリアに向ける。それでもリリアの不安は拭えない。



「大丈夫、街に着いたら一応センターギルドにも立ち寄ってお願いしてみるよ。必ずあの子を連れて帰る…だから待っていてくれ、リリア」


「アナタ…」



二人は抱き合う。小さく震えるリリアの背中をルーシュが優しく撫でる。



「きっと大丈夫。あの子には精霊の加護が付いてる…生きているさ」


「…うん」



ルーシュはリリアの耳元で囁くと、ゆっくりと離れる。



「…行ってくるよ」


「必ず…必ず帰ってきて!」


「あぁ、約束する」



その時だった。家の外から悲鳴が上がる。



「なんだ!?」



二人は慌てて外へ出る。村の入り口の方に人だかりが…クルド村の住人達と、見知らぬ数十人の男達。



「ぐ…うぅぅぅ…」



男達の前に倒れる一人の村人。その背中にはナイフが突き立てられている。



「はぁぁぁい獣人の皆さん、よく聞いて下さい。今からこの村は俺達“シェンフール”の支配下に置かれまーす」



紫色の頭髪に濁った瞳の男が前に出て、倒れている村人を踏みつける。



「な、なんだお前達は!!?」

「転移者か!?この村に何の用だ!?」

「ふざけるな!この村から出ていけ!!」



村人達は口々に怒りをぶつける。だが、見知らぬ男達は意にも介さない様子でへらへらと薄ら笑いを浮かべている。



「あのなぁ…お前等自分達の立場が分かってないみてぇだな?」



紫の髪の男、ザイは腰に差した剣を抜く。それは蛇のように曲がった刀身をしていた…ザイはそれを踏みつけている男に突き刺した!!



「ぐわああああぁぁぁぁああ!!!」


「きゃあぁぁぁああ!!」

「やめろぉぉぉお!!」



刺された男の苦痛の叫びと共に、複数の悲鳴が上がる。



「う…ぐ…」



刺された男は光となって霧散。跡形もなくその姿は消えてしまう。



「な…なんてことを!」


「いいかー?俺等はお前達の命なんて何とも思ってねぇ。逆らう奴は全員殺してやるから前に出ろ……それとも、俺達と戦争してみるか?半人半獣のクズ共」



ザイが冷ややかな視線を村人達に向ける。



「いやあぁぁぁああ!!あなたああぁぁぁぁああ!!」



殺された男の家族であろう者の悲鳴が響く。その声を聞きながらザイはニタニタと笑う。



「ふざけやがって!!お前達の好きにさせるか!!」

「そうだ!!これ以上この村の者に手を出すならタダじゃおかないぞ!!」



複数人の村の若者達が、農作業用の斧や鎌を手に前に出る。



「だ、ダメだ!」

「あ、アナタ!!」



それを見たルーシュは走り出す。



「おいおいー…それは勇気とは言わねぇぞ?無謀って言うんだよ」


「「「うおおぉぉぉおお!!」」」



若者達が一斉にザイに襲い掛かる!!



「やめろ!!」



走りながらルーシュが叫ぶが、その声は届かない。



「…ゴルト」



ザイが静かに呟くと、後ろに控えていた異様に図体の大きい、全身を鎧に包んだ男が躍り出る!!



「なっ!!」



一瞬だった。大男が背中の大斧を手にしたかと思うと5人の村人を一閃。




「そ…んな」



村の若い男達は、悲鳴も上げられぬままに、光となって消えていく。その光景を目の当たりにし、ルーシュは足を止める。


こんなにも…人の命は脆いのか?……こんなにも我々の命は軽いのか?


ルーシュの頭に、そのような考えが浮かんだと同時に、再び辺りは悲鳴に埋め尽くされる。


これが…転移者ストレンジャーなのか?……


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