132


アド…この酒、解析できるか?

俺は村長の置いていった果実酒の瓶を見つめながら、アドに指示を出す。



『【鑑定】スキルによってアイテムの解析も可能です。解析…終了。ニッシュ=コーレックの言う通り、果実酒のようです』



…不純物はなしか?



『現在私の【鑑定】スキルはLv1ですので、高度な調合の毒薬等の場合は判別できませんが、鑑定の結果は不純物は確認できませんでした』



…飲まない方が良いな。ここの住人は栄養失調をきたす程に食に苦しんでいる。だが、あの村長だけはその症状が見られない…か。あの村長には何かある…それもこの村のと直結する何かが…。



「ナギ…」



ノノが不安そうな視線を送ってくる。



「あぁ…飲むのは無しだ」


「それより…この村……」


「あぁ、何かある…のは間違いない。少し探ってみたいけど…」


「ルルア、先にお風呂に入ってしまいなさい」


「「!」」



リリアさんの声が聞こえ、話を中断する。はーい、と返事をし、ルルアが駆けていく。



「……不穏な空気だな、おい。オレこのままルルアをこの村に置いてくってのは出来ねぇぞ?」



ルルアの姿が見えなくなるのを待って、マイルが言う。



「分かってる…とにかく情報を集めたい。でも村の人達に警戒されないよう、慎重に行動するべきだ」


「うん…ルルアたんのこともあるし…」


「俺達だけになれる時間が欲しい…」

「待て!ナギ!」



急にマイルが話を制する。



「……どうした?」


「いや、なんか…」

「お待たせしました」


「「「!!」」」



リリアさんが料理を運んできたので言葉を止めるマイル。リリアさんはテーブルに料理を並べていく。こんがりと焼かれた塊肉、スープにパン、マッシュポテト…。



「ルルアを助けて頂いて本当にありがとうございます…どうぞ……召し上がってください」


「……リリアさんは食べないんですか?」


「っ…」



テーブルに並べられたの料理を見ながら俺は尋ねた。リリアさんの顔が強張る。



「私は…もう、食事は済ませましたので……」


「では…ルルアを待ちますよ。ルルアも夕食はまだ食べていませんので」


「い、いえ…あの子のことはお気になさらず、どうぞ先に食べてください」



…流石に苦しいですよ、リリアさん。



「まともに、食べてないんですよね?」


「っ…」


「だけど、俺達にはこれだけ豪華な食事を提供する…何が目的ですか?」


「目的だなんて…」



リリアさんの体が小さく震えだす。



『卓上の料理の解析が完了しました。強力なを検出』



そうか…ありがとう、アド。



「言い方を変えましょう…睡眠薬入りの料理を俺達に食べさせて、どうするつもりなんですか?」


「っ!!…」



リリアさんの表情が青ざめていく…。



「す、睡眠薬!?マジかよ…」


「……」



マイルは驚きに目を見開き、リリアさんは顔を伏せ、黙っている。なぜ…何が起こっている?この村で…



「…俺達はルルアを信じています」


「!!」


「ルルアが俺達を騙すとは考えられない。ルルアはこの村に帰りたいと、泣いていました…この村での生活を思い出して、楽しそうに話してくれました…元々こんな村では無かったはずだ」



リリアさんの目から一粒の涙が落ちる。…教えて下さい、リリアさん。



「この村に問題が起こったのは、ルルアが人攫いにさらわれた後、ですよね?…この村を訪ねた者にこんな事をしなければならない、何かが起こった。違いますか?」


「…っ……」



最早涙を堪えきれず、ぼろぼろと溢れ出す。リリアさんはその場に崩れ落ちた。そして…



「申し訳ございません!冒険者様!」



リリアさんは床に頭をつけ、続ける。



「こんな事頼めるような立場でないことは分かっていますが、お願いがございます!!」


「お願い…というのは?」


「どうか、ルルアを連れてお逃げ下さい!この村には、もう未来はございません!!」


「「「!!!?」」」



リリアさんは床に頭を擦り付け、懇願する。



「どういう事ですか!?」


「お願いします!時間がありません!ここにいてはルルアも…殺されてしまいます!」


「殺される!?」


「私の夫…あの子の父親も殺されてしまったのです!どうか、ルルアをお救い下さい!!」



これは…想像以上に、ヤバそうだ。この村が抱えている問題は一体…



「どういう…事?…お母さん」


「「!!!」」



そこにはいつの間にかルルアが立っていた。髪も濡れたまま、ルルアは虚な表情をしている。




「お母さん?…お父さんが、死んだって…どういう事?」


「ル、ルルア‥」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る