131
「どうぞ、こちらへ…」
ルルアの母、リリアさんに連れられ歩く俺達。ルルアと手を繋ぎ前を歩くリリアさんの背中を見つめる。
「ナギ達がね、奴隷にされたルルアを助けてくれたんだよ!」
「そう…ちゃんとお礼をしなくちゃね」
「…うん!」
集まってきていたクルド村の住人達も各々散らばっていく。俺は周囲に気を配りながらリリアさんについていく。
「…ナギ……」
「?…」
不意に、隣を歩くノノが小さく声を掛けてくる。その視線は何かを訴えかけているようで…。ノノも何か感じたようだな。
「この村…なんか…」
「あぁ…単純に俺達が警戒されているってだけじゃなさそうだ……ノノも周囲に気を配っておいてくれ」
「いや…それもそうなんだけど…なんて言うか…」
「?…」
「昔のノノと…同じ感じがするの…」
「昔の…?」
小声で言葉を交わす俺とノノ。ノノも不穏なものを感じているようだが…昔のノノって…つまり……。
「どうぞ…お入りください。ご夕飯はまだですよね?食べていってください」
一軒の家の前で立ち止まり、扉を開くリリアさん。開かれた扉にルルアが駆け込んでいく。
「ただいま!!お父…さん?」
中は薄暗く、人の気配はない。ルルアは家の中をキョロキョロと見渡し…
「お母さん…お父さんは?」
「っ……お父さんは森の奥へ、仲間と狩りに出ているの…数日もすれば戻ってくるはずよ…」
「そう…なんだ……あ、ナギ達も入って!」
ルルアに言われるがまま、家の中へと入る俺達。…簡素な部屋で、そこまで広くない。部屋の中央に木のテーブルと椅子、石造りの小さな暖炉、隅には棚が並んでいるが、その棚にはほとんど物が無く、空いたスペースが多い…。
今のリリアさんの反応…
「どうぞ、掛けてください…」
そういいながら、天井から吊り下げられたランプに火を灯す。薄暗い部屋がぼんやりと温暖色の灯りに照らされる。そのまま暖炉の方にも薪と火をくべ、次第に部屋は温まっていく。
「すぐにご夕食の支度をしますので…」
そう言うと家の奥へと入っていくリリアさん。
「お母さん?…大丈夫?」
「ええ…大丈夫よ。あなたが帰ってきてホッとしたわ…」
ルルアが母の後を追い、奥へと入っていく。
「…なぁ、ルルアの母ちゃん…なんか元気ないな」
マイルがぼそりと呟く。…リリアさんに限ったことではない。この村全体に、重く暗い空気が充満しているような…そんな雰囲気だ。俺は声をひそめ、マイルに話す。
「マイル…この村には何かある」
「?…何かって…」
コンコン――
「「!!」」
ドアをノックする音が響く。俺達は会話を中断し、ドアに目を向ける。
「はい?」
ノックの音を聞き、リリアさんが奥から出てきてドアへと向かう。
「冒険者様、ルルアをお助け頂きありがとうございます。大したものではございませぬが、この村の特産の果実酒にございます。是非御賞味下さいませ」
ドアが開かれ、入って来たのはこの村の村長だった。名前はニッシュ=コーレック、レベルは8…。
「あ、いや…俺達酒は飲まないので」
「なんと!…それは失礼しました。ですが他に渡せるものもございませんで…」
「お気になさらず!お礼など必要ないので…」
「ですがそれでは…さほど強い酒ではございませんし、甘味もあり飲み易いものですので、一応置いて行きますゆえ…」
そう言って果実酒の瓶をテーブルに置き、頭を下げ家から出ていく村長ニッシュ。
「ではリリア、しっかりともてなすのじゃぞ…粗相のないようにな」
「はい…」
ニッシュが出ていき、扉が閉められる。
『マスター、クルド村の住人十数名を解析完了。ご報告致します』
!…何かわかったか、アド?
『解析の結果、この村の住人は著しく闘気、つまりはAPが低下しております』
どういうことだ!?
『闘気とはすなわち、身体的エネルギーとも言えます。それがここの住人は1人を除いて欠乏している状態のようです』
身体的エネルギー…つまりは、疲弊しているってことか?
『原因はいくつか考えられますが…私の【診断】スキルの結果、充分な栄養補給を取れていないことが原因だと推察します』
!…栄養失調……アド、1人を除いて、と言ったな?それは誰だ?
『クルド村村長、ニッシュ=コーレックです』
嫌な予感は更に深みを増し、悪意は、闇夜に紛れるように、俺達に忍び寄っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます