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「どうぞ、こちらへ…」



ルルアの母、リリアさんに連れられ歩く俺達。ルルアと手を繋ぎ前を歩くリリアさんの背中を見つめる。



「ナギ達がね、奴隷にされたルルアを助けてくれたんだよ!」


「そう…ちゃんとお礼をしなくちゃね」


「…うん!」



集まってきていたクルド村の住人達も各々散らばっていく。俺は周囲に気を配りながらリリアさんについていく。



「…ナギ……」


「?…」



不意に、隣を歩くノノが小さく声を掛けてくる。その視線は何かを訴えかけているようで…。ノノも何か感じたようだな。



「この村…なんか…」


「あぁ…単純に俺達が警戒されているってだけじゃなさそうだ……ノノも周囲に気を配っておいてくれ」


「いや…それもそうなんだけど…なんて言うか…」


「?…」


と…同じ感じがするの…」


「昔の…?」



小声で言葉を交わす俺とノノ。ノノも不穏なものを感じているようだが…昔のノノって…つまり……。



「どうぞ…お入りください。ご夕飯はまだですよね?食べていってください」



一軒の家の前で立ち止まり、扉を開くリリアさん。開かれた扉にルルアが駆け込んでいく。



「ただいま!!お父…さん?」



中は薄暗く、人の気配はない。ルルアは家の中をキョロキョロと見渡し…



「お母さん…お父さんは?」


「っ……お父さんは森の奥へ、仲間と狩りに出ているの…数日もすれば戻ってくるはずよ…」


「そう…なんだ……あ、ナギ達も入って!」



ルルアに言われるがまま、家の中へと入る俺達。…簡素な部屋で、そこまで広くない。部屋の中央に木のテーブルと椅子、石造りの小さな暖炉、隅には棚が並んでいるが、その棚にはほとんど物が無く、空いたスペースが多い…。


今のリリアさんの反応…



「どうぞ、掛けてください…」



そういいながら、天井から吊り下げられたランプに火を灯す。薄暗い部屋がぼんやりと温暖色の灯りに照らされる。そのまま暖炉の方にも薪と火をくべ、次第に部屋は温まっていく。



「すぐにご夕食の支度をしますので…」



そう言うと家の奥へと入っていくリリアさん。



「お母さん?…大丈夫?」


「ええ…大丈夫よ。あなたが帰ってきてホッとしたわ…」



ルルアが母の後を追い、奥へと入っていく。



「…なぁ、ルルアの母ちゃん…なんか元気ないな」



マイルがぼそりと呟く。…リリアさんに限ったことではない。この村全体に、重く暗い空気が充満しているような…そんな雰囲気だ。俺は声をひそめ、マイルに話す。



「マイル…この村には何かある」


「?…何かって…」



コンコン――



「「!!」」



ドアをノックする音が響く。俺達は会話を中断し、ドアに目を向ける。



「はい?」



ノックの音を聞き、リリアさんが奥から出てきてドアへと向かう。



「冒険者様、ルルアをお助け頂きありがとうございます。大したものではございませぬが、この村の特産の果実酒にございます。是非御賞味下さいませ」



ドアが開かれ、入って来たのはこの村の村長だった。名前はニッシュ=コーレック、レベルは8…。



「あ、いや…俺達酒は飲まないので」


「なんと!…それは失礼しました。ですが他に渡せるものもございませんで…」


「お気になさらず!お礼など必要ないので…」


「ですがそれでは…さほど強い酒ではございませんし、甘味もあり飲み易いものですので、一応置いて行きますゆえ…」



そう言って果実酒の瓶をテーブルに置き、頭を下げ家から出ていく村長ニッシュ。




「ではリリア、しっかりともてなすのじゃぞ…粗相のないようにな」


「はい…」



ニッシュが出ていき、扉が閉められる。



『マスター、クルド村の住人十数名を解析完了。ご報告致します』



!…何かわかったか、アド?



『解析の結果、この村の住人は著しく闘気、つまりはAPが低下しております』



どういうことだ!?



『闘気とはすなわち、身体的エネルギーとも言えます。それがここの住人は1欠乏している状態のようです』



身体的エネルギー…つまりは、疲弊しているってことか?



『原因はいくつか考えられますが…私の【診断】スキルの結果、充分な栄養補給を取れていないことが原因だと推察します』



!…栄養失調……アド、1人を除いて、と言ったな?それは誰だ?






『クルド村村長、ニッシュ=コーレックです』



嫌な予感は更に深みを増し、悪意は、闇夜に紛れるように、俺達に忍び寄っていた。

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