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「ぐあっ!!!」


「フッフッフ…まだまだ甘ーい!!!」



マイルに殴り飛ばされ、尻餅をつくクロム。…長い。


勇んで闘い始めた二人だったが、何故かスキルを使用しない純粋な武力だけの闘いになり…それが何故か最後にはお互いに武器を捨て、ただの殴り合いに…かれこれ20分以上は取っ組み合いを続けたマイルとクロム。


俺はその様子を傍観し、ノノとルルアは飽きたのか二人でふらふらと飛んでいる蝶を追いかけている始末。…てかクロムの仲間二人に至っては木に寄りかかって寝てるんですけど!?…なんでこうなった?



「くそ…強ぇな…」


「お前もなかなかやるが…このマイル様には勝てーん!!」



長く続いた殴り合いとはいえ、戦況はマイルが圧倒的に優勢…まぁ単純な肉弾戦でマイルに勝てる奴なんてそういないだろうなぁ。


マイルは中学の頃、と呼ばれる地元では有名な不良だった。中学二年の頃に、高校生10人を相手に一人で勝ってしまったという嘘みたいな本当の話がある。アホみたいに喧嘩強いんだよなーアイツ…まぁ、アホなんだけど。



「おらおらどしたぁ!?もう終わりか!?ツヨシー!!」


「くっ!……まだまだー!!」



いや終われよ。

でも、そんなマイル相手にここまでやり合ってるクロムもなかなかだな。



「うがっ!」



マイルのボディブローが綺麗にキマり、うずくまるクロム。



「ツ…クロムさん!!」

「大丈夫っすか!?」



あら、いつの間にか取り巻き二人が起きてる。なんか心配してる雰囲気出してるけど寝てたよね?さっきまで。



「クロムさん!コイツはヤバいっすよ!ここは退きましょう!」



おー、そーだそーだもっと言えー。



「バカ野郎…男がやられっぱなしで……帰れるかよ!!」



勢いよく立ち上がるクロム!…が



「ふんっ!!!」



そこへ無慈悲なマイルの踵落としが炸裂し、クロムの脳天を直撃!



「「ツヨシさーん!!」」


「だ…から……本名…言うなって…」



白目を剥いて倒れるクロム。おー、ただの打撃であんなにHP削れるの初めて見た…。



「「ツクロムさーん!!」」



ツヨシ出てきてるから、クロムの陰から顔覗かせてるから!



「お、覚えてろよー!」

「次に会ったらあぁぁぁぁ……」



クロムを引き摺りながら退散していくボンとキョン。…次会ったら何だったんだ?



「…フッ……」



いや“フッ”じゃねーよ、何を見せられてたんだよ俺は。



「ルルア―!オレのカッコいいところ見てたー!?」


「え!?…あ、終わった?…」


「あるえぇぇぇぇええ!?見てないぃ!?」



ホント…何だったんだよ、あの三人組は。俺は深いため息を吐き出しつつ、立ち上がる。



「行くぞー…」


「「はーい」」


「あれ?ナギさん?目が死んでいらっしゃいますよ?…あれ?」



俺達はようやくクルド村へ向け、再出発する。









俺達は今後、この“シェンフール”のメンバー、クロムという男と深く関わっていくことになるのだが…それはまだまだ先の話である。





30分後…



「おっ!!森を抜けたぞ!!」



視界の全方位を遮っていた木々が途切れ、開けた場所へと辿り着く。そして…



「……あ…」



ルルアの目に涙が滲む…



「あれが!」

「クルド村か!!」



俺達は遂に目的地であるクルド村を、その視界に捉えたのである。







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