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「ブオオォォォオオ!!」



両手を大きく広げ、立ちはだかる巨大な熊。キンググリズリー。レベルは24…このリラの山道で一番の強敵だ。あ、サイクロプスは除いてだけど。



『敵個体の解析終了。高い物理耐久を持っていますが、火属性に極端に弱いようです。動きを止め、マスターの【フレイムスロウアー】の行使を推奨します』



頭に【管理者アドミニスタ】改め、アドの声が響く。


【管理者】のスキルの性能を試しつつ、リラの山道を進んできたが、このスキル、想像以上に優秀だったな。俺自身の【解析】スキルは失われたが、代わりにアドが自動で相手を解析し、的確な情報を教えてくれる。戦闘中にステータスの詳細画面を開いてテキストを読む必要がなくなったのもデカい。



「ノノ!拘束しろ!」


「了解!【魔法静糸リードバインド】!」



ノノがスキルでキンググリズリーの動きを封じる!



「ルルア!マイル!炎で攻撃だ!」


「りょーかい!【炎剣】!」

「うん!【ファイア】!」

「【ファイアーボール】!」



俺、マイル、ルルアが同時に自身のスキルで攻撃!

キンググリズリーは消滅し、リザルトが表示された。



『お見事です、マスター。私が提案した策よりも、マスターの消費MPを抑えられています。流石です』



あ…いや、充分に役目は果たしてくれたよ、アド。



『マスターの思考力に近づけるよう精進致します』



あ、はは…気にしないで。

しかし、ホントに流暢りゅうちょうに色々話せるんだな…。割と何でも答えてくれるし…どのくらいの質問にまで対応できるのだろう。


アド…この世界は一体なんなんだ?現実世界との違いは?



『質問の意図が理解できません』



流石にこれは無理か…。なら…バトス=ローガンという人物は何者だ?



『申し訳ございません、マスター。私はマスターの精神から生まれた存在。マスターの知らないことは私も知り得ていません。私はマスターとの視界の共有が可能であり、マスターが視界に捉えたものに対し解析、鑑定を行い、そこから得られた情報をお伝えすることはできますが、それ以外の未知に対しては情報を持ち合わせておりません』



なるほど…【管理者】といえど、全知ではない、か。



『申し訳ございません』



気にするなアド、充分力になってくれてるよ。

実際、戦闘面においてはかなり楽になった。敵の解析のみならず、自身のスキルのクールタイムのカウントまでアドはこなしてくれる。俺は敵の動きや戦況の把握に、より集中出来るようになった。単純に考える頭が2つになったようなものだ。



「しっかし、ほんとにスゲーな、ナギのスキル。オレまたレベル上がったぞ?」



うれしい誤算は【管理者】だけではなかった。俺が新たに習得したスキル【付与者あたえるもの】と【急速成長】…。【急速成長】は俺自身の、【付与者】は俺とパーティを組んでいるメンバーのレベルアップの速度を上げるという効果。俺達がまさに望んでいたようなスキルだ。


これらのスキルのお陰で、現在俺はレベル31、マイルとノノは30にまでレベルが上がった。今朝出発してから6時間程が経過しているが、これまでとは比べ物にならないスピードでレベルアップしている。これなら、俺達の目標に近づく大きな助けとなる。


何が原因でこうなったのかは分からないが…大きな進歩だ。既に“鋳薔薇の女王クイーンローズ”には目を付けられているだろうし、これから敵も増えていくだろう。


このタイミングでステータスが大幅に強化されたのは有難い。



「ルルアたん!…あれ!」


「?…あ!出口だ!!」



ノノとルルアの声に前方に目を向けると、両側を高い山脈に囲まれ、薄暗い山道の終点が…その先に開けた土地が広がっているのが見えた。



「おっしゃー!山道突破だー!!」



俺達は遂に、果てしなく長く続いたリラの山道さんどうを抜け出た。


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