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「あ…ありがとうございます!」



男は俺の手を掴み立ち上がる。俺はステータスを確認。



――――――――――――――――

 ロッツ=ランド  Lv8

 [行商人]  NPC

――――――――――――――――



小柄で黒髪、まだあどけなさの残る少年のような顔。羽飾りのついたハンチキャップとモスグリーンのマントを身に着けている。ロッツは深々と頭を下げた。



「おつかれー!ナギ!」


「ナギすごいっ!!」



マイルとルルアが歩いてきて、声を掛けてくる。



「ナギもオレ達のサポートなしで余裕で戦えるようになってきたな!」


「うん…ギルドマスターらしく…なってきた」


「あ、はは…やめてくれ」



確かに、最初の頃はゴブリン1体ですらいい勝負してたからなー…。



「ところで、大丈夫か?アンタ」


「あ!…これはとんだ失礼を!僕はロッツと申します!しがない行商人です。…この度は助けて頂き、ありがとうございます!」



ロッツは再び深々と頭を下げる。



「あぁ、気にしないで下さい。困った時はお互い様です」


「おぉ…なんとお優しい!ですが、受けた恩を返さずは商人の名折れ。何かお礼を…」


「いえ、本当にお気になさらず!たまたま近くにいただけですから…」


「はー…転移者ストレンジャーにも、このような出来たお人もいらっしゃるのですね…」


「え?」


「あ!いえ!!すみません!!…その、我々行商人を襲うような転移者の方もいらっしゃるので、つい!…失言でした!!」



またまた頭を下げるロッツ。NPCを襲うプレイヤーか…まぁ、ガザックのようなプレイヤーもいるわけだし、仮想現実だと悪人プレイだなんだと、人格が豹変するなんてのはよくある話だ…そんな輩がいてもおかしくはないが…。




「安心しろよ!オレ達は襲ったりしないからよ!」


「ええ!それはもう!!感謝しております!…まさかこの平原でゴブリンの上位種と出くわすことになるとは。本当に危ないところでした。改めて…ありがとうございます!」


「いいですよ、ホントに。気にしないでください」



腰の低い人だなー。商人らしいといえばらしい、かな?



「で、ロッツさんはこんなとこで何をしてたんだ?」


「ルドの街から荷を運んでおりました。ローユの街に向かってる道中です。皆様のお陰で積荷も無事です」


「!…俺達もローユの街に向かってるんです!」


「なんと!…それでしたら!!」




ロッツがポンと手を打った。








「すみません。積荷もあって、狭いですよね?…」



ロッツが手綱を操り、2頭の馬を走らせながら言う。



「いえ!こちらこそすみません。ローユの街まで送って頂けるなんて…助かります」


「いえいえ!僕としても、皆様と一緒なら安心ですし!このくらいのお礼はさせてください」



あの後、ロッツの提案で俺達は馬車の荷台へと乗せてもらい、ロッツと共にローユの街へと向かっていた。積荷もある分、そうスピードは出ていないが、歩きに比べればはるかに速い。この分だと、予定よりいくぶんか早くローユに着けそうだ。


荷台には多くの木箱や麻袋が積まれている。マイルは荷馬車のカーテンの隙間から外をキョロキョロと眺め、ルルアはノノの膝を枕にすやすやと眠っている。


一定のリズムで響く馬の蹄の音と、カラカラと回る荷馬車の車輪の音がどこか心地いい。なんか、俺も眠くなってきた…かも。



「あと一時間もすれば、ローユに着きますよ!それまでお休みになってください」



そんな俺の気持ちを察したかのように、前方で馬を操るロッツが話す。あと1時間か…陽が落ちる前には着きそうだな。



「なぁなぁ!ロッツさん!オレに馬の乗り方教えてくれない!?」



マイルが荷台から身を乗り出し、ロッツに問う。



「え?…あぁ、良いですよ!基本くらいなら教えてあげられるかもしれません」


「おっ、マジで!?やりぃ!!」



マイルがロッツの横へと移動する。…少し、眠るか。


俺は心地よい風を感じながら、眠りの中へと入っていった。

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