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クランツの街が見えてきた。あの後俺達は遭遇するモンスターを狩りつつ、クランツ近郊まで帰ってきていた。



「おぉーい!!ナギくーん!ノノちゃん!マイルくーん!!」


「「「?」」」



遠くから俺達の名前を呼ぶ声。振り返ると青い髪の女性が駆け寄ってくる…。



「あ!アリシアさん!!」


「やっほー!聞いてるよー?注目されてるみたいだね!噂のスーパールーキーくん!!」



アリシアさんがバシバシと背中を叩いてくる。



「そんなに広まってるんですか?…」


「そりゃまー、ギルド初クエストでファットグール・グランデを討伐した有望株だし?…あ!中級剣士にクラスアップしてるじゃん!おめでとう!」



か…。広まっている噂というのが、それだけであるならいいが…ガザック達には俺のジョブの力を見せてしまっている。少なくともガザックのいる“鋳薔薇の女王クイーンローズ”という過激派ギルドには知られてしまっているはず…。


ガザック本人の恨みも買っているだろうし、気を付けておかないとな…。



「それに、これはあんまり知られてはいないだろうけど…あのガザックを倒したんだって?」


「!!」


「やっぱりホントなんだ!!すごーい!驚いちゃったよ!」


「どこでそのことを?…」


「これでも私のいるギルド、“革命のロザリオ”はクランツで1、2を争うギルドなんだよ?…その辺の冒険者より強力な情報網を持ってるんだよ」



これは想像以上に…。一体どこまで知られているのか…。



「で…どうやって倒したの?」


「!…あー、それは…」


「……なんてね、スキルやジョブの詮索はマナー違反だしねー!でも、やっぱり只者じゃなかったね、君達」



…良かった。強豪ギルドでも“ガザックを新人が倒した”という情報だけで、それ以上の情報は手に入れていないようだ…。だが、注目は集めてしまっている。いつまでも隠し通すことは難しいだろう…対策を考えなきゃな…。



「アリシアさんはここで何を?…」


「私はクエストの帰りだよ!…仲間はついでに薬草採集依頼も済ませて帰るってさ、真面目だよね~」


「あ、はは…」


「自由っすね…アリシア姉さん」


「まーねー!せっかくだし、一緒にクランツに帰ろうよ!色々話も聞きたいし!」



俺達はアリシアさんと共に、再びクランツに足を向けた。





クランツへと戻り、中心街を歩く俺達。



「ニューワールドで気絶?…無いわけじゃないわよ、“マジックゼロ”って症状がそれだね」


「マジックゼロ?…」


「そ!急激に大量のMPを消費してMPが枯渇すると、意識を失ったりすることがあるんだよ」



アリシアさんに俺がファットグールとの戦闘中に意識を失った話をすると、アリシアさんは答えた。Mゼロ…そんなものがあるのか、じゃああの時俺はそのMゼロの状態になって…



「…でもナギ君は純剣士系統のジョブだからMP消費するようなスキルは持ってないはずだよね?」


「っ!」


「んー?…」



アリシアさんがまじまじと俺の顔を覗き込む。う…ち、近い。



「なーんか怪しいなー…」


「あ、はは…」


「ま!詮索はやめにしよ!…あ、Mゼロ以外にもAPの枯渇によって起こる“アビリティゼロ”っていう症状もあるから気を付けるんだよ!?」


「アビリティゼロ…」


「そ!こっちは気を失うわけじゃないけど、体が鉛のように重たくなって、しばらく身動き取れなくなっちゃうから気を付けて!」



MゼロにAゼロ…話が聞けて良かった。今後の戦闘では気を付けないとな…。



「じゃ!私は一度ギルドの本部に戻るから!」


「あ、はい!ありがとうございました!」


「まったねー!」



アリシアさんは手を振り、去っていく。ホント、自由な人だなぁ…。



「…さてと、俺達はセンターギルドに戻ろう」


「おう!」


「ルルアたんが…待ってるっ」



俺達はアリシアさんの姿が見えなくなった後、センターギルドへと歩き出した。

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