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戻ってきた…この世界に。



「………」



簡素なベッド、シンプルな造りの部屋。隣のベッドではマイルが眠っている。俺は体を起こし、ツールボックスを開く。時刻は午前7時12分。俺達がログアウトしてから、約5時間がこの世界では経過したことになる…。


前回ログインしている間に、この世界では三日間が経過。だが現実世界では一晩…約6時間程度しか経過していなかった。今度は現実世界で一日を過ごし、ログイン…ニューワールドではその間に5時間が経過……


…変化する時間の流れ……ここだけがを否定する…。仮想現実とは思えないほど現実味を帯びているこの世界、だが時間の流れは…ような、システマチックな世界……



「ハー…」



俺は思考に行き詰まり、ため息をひとつ。…それにしても、やはり夢の中とは思えない程鮮明な感覚。朝の陽ざし、冷たい空気、小鳥のさえずり…



「んっ?……」



隣でマイルが身体を起こす。



「お!?きたきたー!!ニューワールド!!…あ、おはよーナギ」


「おはよ」


「よし!今日も頑張っていきますかー!今日はどうする?」


「そうだな…」



ピコン―——


「お?」



電子音が響き、メッセージの着信を知らせる。俺達はメッセージを開く。



――――――――――――――――――――

   差出人:VRPG運営局


 VRPG ニューワールドへのログイン、誠に

ありがとうございます。今回のプレイ時間は

”10日間”です。時間まで心行くまでお楽しみ下さい。

制限時間が0になる前に宿やギルド拠点に

お戻り頂くことをオススメ致します。


    それでは、よい夢を―――― 

――――――――――――――――――――


「っ!?…」


「おいナギ!10日間だってよ!!やったな!!なんか得した気分!」



マイルは暢気のんきにはしゃいでいるが…ホントにこの世界での10日間が現実世界での1晩に集約されるのだろうか?…アリシアさんの話だと、10日以上の期間もあったとは言っていたが…



「10日間か…」



ルルアを親元へ送り届けるという、現在の俺達の目標…10日間という猶予ゆうよは大きい。実行に移すべきか?…



「ナギ、マイル…」



ドアをノックする音と共に、ルルアの声が聞こえてくる。部屋のドアを開けると、ルルアとノノが立っていた。



「ナギ…プレイ時間…」


「あぁ、10日間…実行に移すには絶好のチャンスだ」



ルルアがじっと俺を見つめてくる。



「…帰ろうか、ルルア」



ルルアの表情がぱあっと明るくなる。…わからない事を考え続けていても仕方がない。今は目の前の少女を助ける事に、集中しよう。



「…出発は明日。今日一日でしっかりと準備をして、無事にルルアをクルド村まで送り届けよう!」


「「りょーかい!!」」


「ナギ、ノノ、マイル…ありがとう!」



ルルアは嬉しそうに笑顔を向けた。






「おう、来たか、ルルア」


「おはよう!ハリスさん!マイネさん!」


「おはよう、ルルアちゃん。今日も頑張ってね」


「うんっ!」



月跳ね兎で朝食を済ませた俺達はセンターギルドへ。ルルアが元気にカウンターにいるハリスさんとマイネさんに挨拶する。



「ハリスさん、明日クルド村に向けて立とうと思います」


「なんと…もう行くのか?」



俺はハリスさんに今後の計画を話した。



「うむ…そうか…しかし、ルルアには魔法の才がだなぁ…」


「ハリスさん!ルルアちゃんを冒険者にしたい気持ちはわかりますが、ワガママを言わないで下さい!」


「ぬ…」



口惜しそうなハリスさんをマイネさんがいさめる。



「わかったわい!…今日一日で出来る限りのことは教える。村に帰った後も護身の術として、魔法は役に立つはずじゃ」


「うんっ!ありがとうハリスさん!!」


「うむ」


「こんな意地悪おじさんにお礼なんていいのよ?ルルアちゃん」


「なっ…誰が意地悪おじさんじゃ!!」



マイネさんとハリスさんのやり取りを見て、俺達は笑い合った。



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