86
♦
食事を終え、宿の部屋へと入った俺は、ベッドに横たわり天井を見上げていた。シャワールームからはマイルの鼻歌が響いてくる。ルルアはノノと同じ部屋に宿泊させた。相変わらず“奴隷なのに部屋なんて”とか言っていたが、ノノが引っ張って連れて行った。
「…………」
俺はツールボックスからスキルリストを開く。
――――――――――――――――――――
【
近くにいるパーティメンバーのスキルを
複製し、発動する。
発動するスキルが武器を使用する類のもの
である場合。適切な武器を装備していなけ
れば不発となるが、その他特殊な発動条件
を無視して発動することが出来る。
消費:複製するスキルに準じたMP及びAP
CT:複製するスキルに準じた時間
――――――――――――――――――――
このスキル…いつの間にか俺のスキルリストに入っていた。ガザックはこのスキルのお陰で、マイルの【炎舞】をコピーして倒すことが出来たが…ファットグールを倒したときに習得したのか?…それにしても、取り込んだ魔石のジョブ以外の、【不限の器】の固有スキルを習得したのは初めてだ…。まだ俺のジョブは謎が多い…そして…
「ふーっ!さっぱりした―!!」
マイルが上半身裸でシャワールームから出てくる。
「お先!ナギも入って来いよ!」
「あぁ、そうする」
俺はシャワールームへと向かう。先程のルルアの言葉を思い出す。
『ルルアは…ルルアで良いの?…』
この世界のNPCにも過去があり、歴史がある。ルルアも“奴隷キャラ”として産まれたわけではなく、両親がいて、ちゃんとした名前が、奴隷となる前の思い出があった。この世界は…本当にただのゲームなのか?……
「ナギ―!!マイル!!」
「!?」
部屋の扉が慌ただしくノックされ、ノノの興奮したような声が飛び込んでくる。
「どうした?」
俺は部屋のドアを開ける。
「ごしゅ…ナギ…様」
「え?…ルルアか!?」
ノノの隣に立つルルア。だがその見た目は先程までとは別人のようだった。暗くくすんだ灰色だったはずの髪は、輝くような純白に。汚れていた肌も、今は綺麗になり、子供らしいハリツヤを見せている。恰好もボロキレのような服から、清潔な子供用のワンピースに着替え、なんとも可愛らしい少女の姿がそこにはあった。
「おぉー!!ルルア!めっちゃカワイイじゃん!!」
マイルが駆け寄ってきて目を丸くする。
「でしょでしょ?…お風呂入ったら、ルルアちゃん超美少女だった!…」
ノノも興奮気味に話している。しかし、見違えたなーこりゃ…。
「その服は?」
「ミアさんが貸してくれた…」
「あの…ナギ様」
ルルアがつぶらな瞳を俺に向けてくる。おー、なんだこの生き物…可愛い。
「ルルア、奴隷なのに…ご飯も、お風呂も…」
「ナギでいい。それにルルアはもう奴隷じゃない。俺達の友達だ…似合ってるな、その服」
「!…ありがとう…ナギさ…ナギ?」
「うん、ナギでいいよ」
ルルアは恥ずかしそうに俯く。
「オレはマイルだ。よろしくな、ルルア」
「私はノノ…よろしく、ルルアたん」
二人が顔を緩ませている。いや、たんって…
「ナギ…マイル…ノノ…?」
「うん、そうだよ」
ルルアが俺達を一人一人見ながら名前を呼ぶ。
「ルルア、がんばって働きます!…捨てないで」
「「「!!」」」
「捨てるわけない!…ルルアたんは誰にも渡さないっ…」
「てゆーか、働く必要もねぇっての!」
俺達はルルアに微笑みかける。ルルアは目に涙を浮かべながら、笑った。
その後、俺達は部屋でひとしきり会話を楽しんだ後、就寝した。
♦
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます