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「もうクタクタだぜー!!腹減ったー!!」


「そうだな、早く宿を取ろう」



俺達はセンターギルドを後にし、宿屋 月跳ね兎へと向かっていた。



「お腹…すいた…よね?」


「……?」



ノノが獣人族の少女に声を掛けるが、少女は首をかしげるだけで、とぼとぼと俺達の後をついてくる。うーむ…ガザックから助け出したのはいいが、どう接したものか…。



「いらっしゃーい!!あ!お兄さん達、今日も来てくれたんだ!!」



月跳ね兎へと入ると、従業員のミアが出迎えてくれた。室内の暖かい空気が肌を撫でる。



「!…ねぇ、その子…」



急にミアの表情が厳しくなる。



「奴隷…買ったの?」



ミアが俺を厳しい目付きで見てくる。



「…あ!いや、これは…」

「ご主人様…助けてくれた…ご主人様、殴らない……」


「!!」



獣人族の少女が小さく言葉を発する。あ、そういえば一応俺がこの子の主人ってことになってるんだっけ?



「え?…そうなの?」



俺達は経緯をミアに話した。



「すごーい!!じゃあお兄さん達がこの子を救ってくれたんだね!?ありがとう!!」



ミアの表情がほころぶ。良かった…ミアからしたら、同じ獣人族の奴隷を見て、いい思いはしなかったんだろうな。



「でも、だったら名前変えてあげてよ…クズ猫じゃかわいそうだよ」


「!!」



そんなことが出来るのか…俺はツールボックスを開き、パーティメンバーリストからクズ猫を選択。



――――――――――――――――

  奴隷の名前を変更しますか?

   Yes / No

――――――――――――――――



Yesを選択すると、新しい名前の入力画面が表示される。



「えーっと…」



俺は獣人族の少女に目を向ける。少女は少し怯えたような目で見つめ返してくる。確か、小さな子供と話す時は…目線の高さを合わせてあげるといいんだっけ?…



「あ…あのさ、君、名前は?」



俺はかがんで少女に話しかける。



「…クズ猫」


「あ…いや……そうじゃなくて、クズ猫になる前…君のお父さんとお母さんがつけてくれた名前は?」


「!!…」



少女の目が大きく見開かれ…じんわりと涙が浮かんでくる。え!?何か悪い事言ったか!?



「る…ルルア」


「そっか…じゃあルルア、俺はナギだ。よろしく」



俺はルルアと入力し、名前を変更。



「ル…ルア?……ルルアは…ルルアで良いの?…」


「あぁ、だって…それが君の名前なんだろ?」



少女もとい、ルルアの目から涙が一筋零れ落ちる。



「はい!…ご主人様!」



ルルアが初めて笑顔を見せる。ノノとミアが涙ぐみ、うんうんと頷いている。



「…よし!!お兄さん達、部屋は二部屋で良い?ご飯は、食べるよね!?…沢山サービスしてあげる!!」



ミアが涙を拭い、元気に声を張り上げる。



「はい、宜しくお願いします」


「今日は、スペシャル夜定食を半額で出しちゃうよ!…ご注文は?」


「じゃあそれを、で」


「はいはーい!!待っててねー!すぐ準備する!!」



ミアが急いで奥へと入っていく。俺達は近くのテーブルへと腰掛ける。



「………」



ルルアはそんな俺達を見つめ、一人立っている。



「ルルア?…座りなよ」


「え?…」


「はい…こっちこっち」



ノノがルルアを誘い、隣の椅子へと腰掛けさせる。ルルアは困惑したようにキョロキョロとあたりを見回している。



「はーい、お待たせー!!スペシャル定食だよー!!」


「お!ホントに早ぇ!!腹減ったー!!」



ミアが料理を運んでくる。



「今日はコロコロ鶏のトマト煮込み!パンとサラダに、魚介のスープも付けちゃうよー!!」


「おぉー!!うまそー!!!」



ミアは俺達4人の前に料理を並べると、笑顔を振りまき戻っていく。



「「「いただきます」」」



俺達は早速料理に手を付ける。うん…うまい!このトマト煮込み、トマトの柔らかい酸味と旨味がジューシーな鶏肉と相まって……?



「どうした?ルルア?」



一向に料理に手を付けようとしないルルア。



「えと…ご主人様?」


「!…それはルルアの分だよ。食べな?」


「え!…ルルア…お金……」


「お金?…俺が払うけど?」


「!!…ルルア、奴隷…こんなに…」



ルルアはじっと料理を見つめて動かない。



「なーに言ってんだ!ルルアはオレ達の奴隷じゃないぞ?…友達だ!そうだろ!?ナギ?」


「トモ…ダチ?…」


「あぁ、そうだよルルア…気にする必要はないから、食べな?」


「ルルアちゃん…一緒に食べよ?」



ノノがルルアに笑顔を向ける。ルルアはまだ困惑した様子で、そっと木のスプーンを手に取る。



「…うん」



俺の顔を伺うルルアに頷き返すと、ルルアはようやく一口、料理を口に運んだ。



「……」



一口、また一口…



「…う……」



ルルアの手が小さく震える。



「……うぅ…グスっ…おいしい…です…ご主人様……うっ」


「だから、ナギでいいよ」



ぼろぼろと大粒の涙がルルアの両目から溢れ出す。時折、嗚咽を漏らしながらルルアは食べ続ける…



「う…うわあああぁぁぁぁぁん!ああああぁぁぁああ!」



ルルアは遂に大声で泣き出してしまう。よほど辛い思いをしてきたんだろう…。ノノが目に涙を浮かべながらルルアの背中をさする。



「ルルアちゃん…もう…大丈夫だからね!」


「ひっく…ありがとう…ございます…うわあああああぁぁぁ!」



俺達はルルアが泣き止むのを待ち、ゆっくりと食事を楽しんだ。

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