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【フレアボム】!



眼前のグールが消滅。リザルトが表示された。最初のグールとの戦闘からかれこれ1時間は経過したか。時折遭遇するグールを討伐しながら、俺達は歩を進めていた。進むほどに強くなる刺激臭と、深くなる薄暗さが、俺達の不安を掻き立ててくる。



「思ったより、しんどいな…戦闘以上にこの臭いが…なんとも」



マイルの言う通り、この刺激臭と足場の悪い森の地形が、精神的にも身体的にも負荷をかけてくる。ステータスのHPでは見えない疲労感が、俺達にのしかかって来ていた。



「だーっ!くっそ!鼻が曲がりそうだ…」


「マイル!静かに…何か聞こえる」



ノノの言葉を受け、耳を澄ます俺達。



「グヴウウゥゥゥ…」

「ア゛アァァァァ…」

「ウウヴゥゥゥゥ…」


「「「!!」」」



まだ距離はあるようだが、奥から無数のグールの唸り声が。その声は10~20体?…いやそれよりもっと多いかも…。



「…まずくね?」


「でも…依頼はアンデットの殲滅…どうするナギ?」


「……静かに進もう、様子を探るぞ」



俺達は木の陰から陰へ移動しながら、静かに進んでいく。



「おいおい…なんだよ、あれ…」



そこには30体はいるだろうか…。レベル20前後の、無数のグールが集まり、重なり、屍の山が出来上がっているではないか。その山の周辺の草木は枯れはてており、半径15m程の腐敗地帯が形成されている。そこから放たれる強烈な腐乱臭…。



「あの数は…流石にキツイぞ…」


「うぅ…気持ち悪い…」



…どうする!?あの数に囲まれでもしたら終わりだ。とは言っても、あれがおそらく瘴気の原因…あれをどうにかしないと依頼の達成にはならない…どうする?


俺の残存MPが71…今の俺の下級魔導士状態の最大MPが86…【ファイヤーボール】の消費MPが4。【フレアボム】が7…火属性が有効だと言っても一撃で倒せるわけじゃないし、最大までMPが回復するのを待ったとしても、あの大群は…。



「…ヒット&アウェイ…だな」


「やっぱ…そうなる、よな?」


「地道に倒していくしかないな…グールは速くはない。あの集団に一撃加えて、即退却…集団から距離を保ちつつ、スキルのクールタイムとMPを管理しながら追ってきた奴を一体ずつ倒していくしかない…な」


「時間…かかる…ね」



俺達は小声で話しながらげんなりとした表情を見せあう。ハリスさん…確かに他の人がやりたがらない仕事でも良いって言ったけどさ…臭いし、メンドクサイし、気持ち悪いし、あと…臭いし。



「まぁ、文句言ってても仕方ない…MPが回復したら仕掛けるぞ」


「「はーーい…」」



そんな声出すなよ…俺だって嫌なんだから…こんなの。



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