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「隠蔽の…スキル」


「でもよー、なんで皆そんなに隠したがるんだ?ジョブが知られるとそんなに不都合なのか?」



マイルが疑問を浮かべる。それは、おそらく…



「プレイヤーキラー…ですか?」


「!…アンタ、本当に察しがいいねぇ!」



俺の言葉にアリシアさんが目を丸くする。



「どういうことだ?」

 

「隠すということは、そうしなければならないリスクがあるということだ。ステータスを隠す…その対象はステータスを見れる存在、つまり俺達人間だ。この世界で人が人に害を及ぼす…真っ先に思いつくのはPK、ようするにプレイヤーキル…」


「賢いねぇ!なんで君みたいな優秀そうな人材が“下級剣士”なのかねー…」



アリシアさんが見定めるようにこちらを見てくる。そこには触れないで欲しいんだけどな…。



「んー?ステータスを隠すとプレイヤーキラーから襲われにくいってことか?…なんで?」


「プレイヤーキラーが横行するのは、それを行うに値するメリットがあるからだ。そしてそのメリットはPKの対象となるプレイヤー、つまり獲物によって変わってくる…その恩恵の大小がステータス画面から判別できるってことだ」


「ん?つまり、どういうことだ?」



俺は数秒思考した後、答える。



「…プレイヤーキルをすると、倒した相手の‥ジョブの魔石が手に入る?」



アリシアさんがぱちぱちと拍手する。



「ホントにすごいねぇ!その洞察力、ウチのギルドに欲しいわー!」



やっぱりか!

“魔石”…この世界でジョブを変更するのに必要となるアイテム。俺が“最も手に入れたい”アイテム…。でもプレイヤーキルってのは、気が乗らないなー。



「まぁ、PKで魔石がドロップするのはかなり低確率らしいけどね。それでも高ランクのジョブに転職できる魔石はそうそう手に入らないからね…PKをしてでも手に入れたいって輩はゴロゴロいるのさ」


「な、なるほどー…」



そうか、アリシアさんと出会った時のフードを被った二人組もその類の連中か…。でも、今のアリシアさんの発言…魔石の入手方法はPKだけじゃないってことだな、良かった。



「だから、ノノちゃんやマイル君みたいなレアなジョブを手に入れたルーキーは狙われ易いから、【隠蔽】のスキルはとりあえず習得しとかないとね」


「え?オレも?」


「そうだよー…冒険者のほとんどがDかCランクのジョブだからね。Bランクのジョブなんてギルドの主力クラスだ。その上のAランクともなればギルドの頭を張れるくらいの性能だよ」


「え?オレってもしかして凄い?」



確かに…ジョブのランクによる能力の差の大きさはこれまでの戦闘で実感できた。ノノの人形術師ドーラ―の実力はずば抜けていたからな…。



「まぁ、逆にナギ君みたいなEランクジョブも珍しいけどね…大体皆低くてもDランクのジョブは適正出るし…正直、Eランクなんて初めて見たし」


「……」


「あ、ごめん、怒った?…いや、ナギ君能力高そうなのにちょっと不思議に思ってさ!ごめんね?」



考え事をしていた俺にアリシアさんが慌てたように謝罪する。



「あー!怒ってなんかないですよ!寧ろ感謝しています。色々教えてもらって助かります」


「でもジョブにはAの上のSランクもあるんだよな?」



いいぞ、気まずい空気をマイルが話題を変えてくれたおかげで脱することが出来た。



「Sランクねー…それこそ幻級だよー?なんせこのアルバ大陸では、まだ7人しかSランクのジョブを手にした人はいないって話だからねー」

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