16


「「おわあああああぁぁぁぁあああああぁああ!!」」



落下すること数秒。俺達の体はまだ落ち続けている。


まずいまずいまずいまずい!

どんだけ深いんだこの穴!


この世界に落下ダメージは存在するのだろうか…なんてことを考えるが、鮮明に感じるこの浮遊感と落下の感覚が命の危険を脳に伝えてくる。



「おい!!あれ!!」



マイルの声に下を見ると、青白い光が見える。


なんだ?…何か光源があるのか?


落下するにつれその光は大きくなり、見えてきたのは―――



「地面だー!!!」



この速度で地面に叩きつけられたら…

あ、やばい…死ぬ……



「【巨大化エキスパンション】!!」



ノノがつぎはぎだらけのウサギ人形を地面に向かって投げつける。


投げられたウサギ人形が突如、”巨大化”した。



「おわ!?デカくなった!?」



体長5メートルほどになっただろうか。巨大なウサギ人形の腹にボフンという音と共に俺達は落下した。


人形に詰められているであろう綿の感触。巨大なウサギ人形がクッションとなり、俺達の落下の衝撃を吸収した。



「い…生きてる」


「ああ…生きてたな」



不意にボンという音がして人形が元の大きさに戻り、俺達は地面へと落とされる。



「うっ」

「うげっ」



地面へ落ちた衝撃が体に伝わる。もしあの高さから直に地面に叩きつけられていたらと思うと…背筋が冷たくなるのを感じた。



「すげーなノノ!助かったぜ!!」


「そんなスキルまで持ってたのか」


「ふっふーん、レベルアップしたときに習得していたのだ。ミハエルに不可能はないっ」



得意気に胸を張るノノ。



「……へ?…ミハエル?」


「うん、この子の名前」


「……」



どうやらこのゾンビみたいなウサギはミハエルという名前があるようです…名前かっこいいな。見た目はこんななのに…



「さてと…ところでこれからどーする?」



無理やり話題を切り替えるかの如く、マイルが言う。


そうだ、生き残ったのはいいが先ずは状況を確認しないと…


俺達は周囲を見渡す。かなり開けた場所に落ちてきたようだ。地下深く、こんな場所でも視界を保てるのはこの不思議な”岩肌”のおかげだ。



「光ってるな…」



辺り一帯の岩の壁はぼんやりと青白い光を発しており、そのおかげで俺達はこの空間の全体像をつかむことが出来ていた。



「なあ、あれ…遺跡…か?」



この空間で一際異質な存在感を放つそれは、まさしく遺跡と呼ぶにふさわしく、石を積み上げて造られた門のようなものと石の扉。それらを構成する石も青白い光を放っている。淡く発光する空間の中にある遺跡、神秘的な雰囲気すら感じるこの空間。


こんな場所が穴から落ちた先にあるなんてな…


俺達はゆっくりとその扉に近づいていく。



「おわっ!?」



石の門をくぐったあたりで振動を感じる。どうやらこの遺跡が振動しているようだ。



「見てっ、扉が!」



ゴゴゴゴと重々しい音を立てながら石の扉が開き、振動は止まる。扉の先にはこれまた淡く光る石で造られた通路が伸びている。



『ナビゲーションシステムです』


「おわっ!」



不意に頭の中に響く女性の声。

んーこの突然聞こえる声は慣れそうにないな。



『ダンジョンを発見しました。ダンジョンには強力な魔物が生息していますが、レアアイテムなども多く隠されています。腕に自信があるのであれば、是非探索することをお勧めします』



「ダンジョンだってよ!…でも今は無理だよな?」



マイルの言うとおりだ。俺達はまだ駆け出しもいいとこだし、ろくに準備も整ってない。こんな状態で危険に飛び込むわけにはいかない。…いかないが



「でも、どうやって上に戻る?」


「……」



そう、俺達が落ちてきた穴は頭上遥か彼方。戻るという事は不可能だ。となると別のルートで街まで帰らなければならないのだが…この空間に道はない。目の前のダンジョンの入り口以外には…。



どおぉぉぉぉぉん!―――――



「!!?」



突如背後で大きな音が響く。振り返るとそこにはさっきの巨大芋虫が!



「なっ!追ってきやがった!!」


「ギショアアァァァアアア!!」



強烈な叫び声を上げながら芋虫が突進してくる!!


クソっ!考えてる暇はない!



「中に入れ!!」



俺達は滑り込むように石の通路へと突入する。後を追う芋虫の巨体は通路には入りきらず、遺跡に派手に激突した。その衝撃がグラグラと足元まで伝わってくる。



「ギシイィィ…」



諦めたように去っていく芋虫。そして…



「あっ!扉が!」



重たい音を立てながら、石の扉が閉まってしまう。慌ててマイルが駆け寄り、扉を押したり叩いたりしているがびくともしない。



「だめだこりゃ…開きそうにないな」


「内側からじゃ開かない仕組みなのかもね…」



どうする?とでも言いたげに二人が俺に視線を向ける。



「…はぁ、まあ仕方ないさ。これでどのみち進むしか無くなったんだ。やってやろうじゃないか……ダンジョン攻略!」




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