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「んー…ないなー」



一通り”ツールボックス”を触ってみたが、ログアウト出来そうなものはなかった。

だが二人から説明を受けながらさんざん弄繰り回したお陰で、ツールボックスで出来ることは大体把握出来た。



「…よしわからん!とりあえず戦いに行こう!」


「まぁ、そうだな。考え込んでも仕方ないし。もしログアウトできなくても家族が起こしてくれるだろ」



俺達は止めていた足を再び動かし、出口へと向かった。


扉を開き外へと出る―――――――




「…うわぁ」



俺達は言葉を失う。朝の陽ざしが目を刺激し、さわやかな風が頬を撫でる。どこからか甘い匂いが漂ってくる。夢の中とは思えない…五感全てがここは現実の世界だと語りかけてくるようだ。


因みにこの世界は、現実世界とは違う時間設定がされているようで、現在この世界の時刻は午前七時半を過ぎたあたり。ツールボックスを開くとデジタル表記の時計も表示さるようで、そこで時間を把握した。



「うおぉぉぉぉ!すげええぇぇぇぇ!!」



扉の先には広場があり、沢山の露店が立ち並び、大勢の人が行き交っている。二羽の小鳥が頭上のすぐ近くを滑空していく。建物内の空気と入れ替わるように、冷たい外気が肺を満たしていく。


ホントに来たんだ…ニューワールドの世界に!!



「マジすげええぇぇぇ!冴木さんは本物だった!夢じゃなかったあぁぁ!…あ、夢の中なんだっけコレ?…夢すげえぇぇぇぇ!!!」



マイルが訳の分からないことを叫んでいるが、今は許そう。これは、感動して然り、だ。



「ナギナギっ!お店が、いっぱい!!」



いつもボソボソ喋るノノも珍しく興奮しているようだ。無理もない。



「…見て回ろうか」



そう言うとノノはぶんぶんと何度も頷いた。…赤べこみたいだ。






「ほへー…」



露店では様々なものが売られていた。見たこともない色とりどりの果実、腕輪やネックレス等のアクセサリー、何かの動物の牙や角など、その種類は多岐にわたる。



「ん?…美味そうな匂い!」



不意にマイルが駆け出していく、慌てて後を追う俺とノノ。



「おおーっ!!美味そう!…そいえばなんか腹減ったな。ん?…夢の中って腹減るのか?」



それは串に刺してこんがりと焼かれた魚だった。魚を見つめながら、マイルが何やら考え込んでいる。香ばしい匂いはここから漂うものだったようだ。狂暴そうな牙を生やした良くわからない魚だが、炭火と魚の焼ける香りは確かに食欲をそそられる。



「おう兄ちゃん!食ってくかい?」



露店の主がマイルに声を掛ける。



「え!?食えるのか!?」


「は?…何言ってんだ?焼き魚は食うものだろうよ?」


「食う!!」


「ノノもっ…食べるっ!」


「毎度!じゃあ60Gな!」


「あ…」



目を輝かせるマイルとノノの前にポップアップが表示される。


そこには、『所持金が足りません』という文字が…

あぁ、こいつら3000Gきっちり使った方々ね…



「……なぁ、ナギ」



二人がゆっくりとこちらを向く。



「な、なんだよ…」



二人の目が怪しく光る。



「ナギ―!!奢ってくれー!ナギは装備買ってないからまだお金あるだろう?」


「ナギっ…ノノに、貢ぐっ!」



二人が飛びついてきて懇願する。いやいや待て待て!



「俺も金はないんだよ!」


「嘘をつくなー!ピエロに貰った3000Gが残っているはずだー!!」


「ナギ!…嘘は食い逃げの始まり」


「うおぉぉぉ、離れろ!てか食い逃げしてでも食うつもりか!?」



やっとのことで二人を引き剥がし、俺はツールボックスを開いて所持金を二人に開示する。




「へ?…所持金50G?」


「なん…で?」



二人がキョトンとした目を向けてくる。が、それはすぐに狂気の目と変わり…



「いつの間にこんなに無駄遣いしたんだあぁぁぁ!なぎいぃぃぃぃ!!そんな子に育てた覚えはないぞおおおおぅ!!」


「育てられた覚えもないわあぁ!離れろー!!」


「ノノの、ノノの…ノノの魚どうするんだあぁぁぁぁぁ!!」


「知るかあぁぁぁぁ!あと”の”が多いわぁ!!」





ひとしきり暴れた二人はやっと俺から離れる。く、くそぅ…無駄に疲れた…。



「かくなる上は、金稼ぎじゃあぁぁぁ!!」



マイルが叫ぶ。



「稼ぐ?…どうやって?」


「バカヤロウっ!!古来より、ゲームの世界では魔物を倒すとなぜかお金が降ってくるという謎現象が起こるのが世の常なんじゃいっ!!」


「…魔物をちぎっては投げ、ちぎっては投げ…魚をちぎっては食べ、ちぎっては食べ…ふははははは」


「…ふ、二人が壊れた?」



あ、こいつ等はもともとか。



「そうと決まれば”ベン”は急げだぁ!!」


「は?…便?…腹でも痛いのか?」


「おっさん!!魔物を狩れる場所を教えてくれ!!」


「お?…あ、ああそれならこの道まっすぐ行ったところの門をくぐった先に草原がある。そこなら弱い魔物が生息してるが…」


「おっけーわかった行ってくるううぅぅぅ!!」



物凄い勢いで駆け出す二人。




「…あ、いやおい待てよ!」



俺も慌てて二人を追いかけた。



「あ、おい!!でも地面に”穴”が開いてるとこには近づくなよー!!!」



露店の店主が何やら叫んでいたが、俺達の耳には届かなかった。

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