第4話 つまらないくだらない喧嘩
ちょっとした冒険の末、俺たちは無事にトイレにたどり着いた。しかし俺の仕事はまだ終わりではない。ご主人が用を終えるまでしっかりと待たなくてはいけない。
「ねえ、オースティン。ちゃんといるよね」
「いますよー」
「どっかに行っちゃやだからね」
「どこかになんか行きませんよ」
「えへへ、そっか……」
「そうですよ」
しばし沈黙。二十秒経過したくらいだろうか、
「ねえ、オースティン。ちゃんと」
「いますよ! だから早く済ましてください! 何回目ですか、このくだり!!」
「おこんないでよ! 仕方ないんじゃない! いろいろと引っ込んじゃったの!」
「そもそも寝る前に飲み物は控えてといつも言ってるでしょ! それに明日、もう今日になっちゃいましたけど朝早くからロリコン卿が訪問する大事な約束があるからお酒を控えてくださいと口酸っぱく言いましたよね!?」
「私は悪くない! 悪いのはおいしいチーズとサラミとワインなの!」
「大人げない責任転嫁はやめろや酒くず!!!」
「うえぇんオースティンが意地悪言うぅ」
「時間がある時、自分の部屋近くにトイレを設置するようリフォームお願いしますよ」
「えええ、やだー……精神衛生上良くないぃ」
精神衛生上良くないというなら俺にも言いたいことがある。メディアの隣の部屋は必ず俺の部屋になっている。さらに彼女の部屋のドアは俺の部屋のドアと直接繋がっており、廊下を介せずに通れるようになっている。それは俺の部屋からも同じだ。だから夜にこっそりと寝ている彼女に忍び寄れるわけであり……。
「……深く考えるのはやめておこう」
「なにか言った? オースティン」
「何も。そろそろ終わりませんか?」
「あ、なんか戻ってきたかも……」
「そうですか、それは何より」
ようやく今宵の任務も終わりを迎えられそうだ。そう安心するのも束の間。
「ねえ、オースティン。お願いがあるんだけど」
「はい? なんですか」
「……耳をふさいでいてほしいの」
「は?」
「その詳しくは言えないんだけどちょっと五分くらいの間ね」
「あぁ、なるほど。小水の音を聞かれたくないと」
「オースティン!!! ほんとあなたってば女心がわからないの!!!! この唐変木! 変態! 朴念仁! 人でなし!」
「あ、はい、そうですね、俺、人でなしですから」
「あ、ごめん、オースティン。今のは私の失言ね、すぐに取り消すから」
「大魔女様が俺なんかに気を使わないでくださいよ。それと俺は大魔女様も認める人でなしなんで一人のか弱い女性をトイレに置いて自室に戻りたいとおもいまーす」
「ちょっと待って、オースティン! 本当に危険だからどこにも行かないで!!」
大人げない俺はトイレを離れて廊下を進み始めた。
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