第2話 渡り廊下の先はダンジョン?
弾丸型のドアを前にビビり屋の彼女はより強く俺の腕にしがみつく。
彼女のたわわは俺の二の腕をやわらかく包み込む。彼女の肌の表面はうっすらと汗ばみ、谷間は蒸れている。現在地下一階。季節は冬。ほのかに蒸気が上る。
こうしていると非常に照れくさく、じゃなかった、大変歩きづらく数少ない従者としての任務に差し支えが出るため、従者の俺は主人に提案を出す。
「あんまり強く抱きつかれると腕もげるんだが?」
「もげても! 治してあげるからね!」
「相変わらず俺の話は聞いてくれないか」
「今度はちゃんと慎重に開くんだよ!」
「はいはい」
俺は今度は言われたとおりにドアをゆっくりと開く。
嫌な予感がするからだ。お遊びはここまで。ここから従者らしく、男らしく、彼女を身を挺して守る騎士にでもなろう。
半開きになった時、ドアの隙間から無数の影が飛び出てくる。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「安心してください、ただのコウモリです」
ドアの影から向こうを覗く。すると先程までの渡り廊下とまるで別世界の薄暗い洞窟が広がっている。
「もぅゃだ……ぉぅちかぇる……」
「何いってんだ、ここがお前の家だろがい」
この城は魔法で満ちている。脳みそお花畑の魔女が調子に乗って「リフォームよ〜」と思いつくままに無計画に創り上げてしまったためにこの城は半分がダンジョンと化している。魔物は沸かないがコウモリのような空を飛ぶ生き物がたまに紛れ込んだりする。ネズミもどこからか紛れ込んでくる。生き物の驚異はその程度なのだが生きとし生けるものの中で神に最も近いとされている彼女はそれでもちびるほどにビビってしまうのである。
「ちびってないわい! まだ我慢してるし!」
「もしかして俺の思考を読みました? イヤンエッチ」
「顔にそう書いてあったの! 魔法使わなくてもそれくらいわかるし!」
「じゃあ腕離してもらっていいですか? 言わなくてもわかるでしょ」
「一人で行けって言うの!?」
「違いますよ…………ほら」
俺は自分の手のひらを見せた。
「……しがみつかれるより手を繋ぐほうが幾分動きやすくなるので」
するとどうだ、メディアは昔の少女のような明るい笑みを浮かべ、腕をしがみつくのを止めて、俺の片手を両手で掴んだ。
「それじゃもう片方の手でロウソク持ちますのでお願いします」
「しょうがないな〜〜〜出でよ、ロウソク!」
彼女が指を鳴らすと空中に桃色の魔法陣が浮かび、中心からロウソクとロウソク台がセットで現れる。
俺はそれを掴むと魔法陣が消える。
「次は火をお願いします」
「ほいほーい」
今度は人差し指を振ると指先にマッチほどの火が生まれる。
「動かないでね〜……よっと」
そして指を傾けると火は指先を離れてロウソクの芯へと飛び、着火する。
「ふふん、どうだ」
胸を張るが先は美しく垂れたままだ。
「初歩的な魔法でドヤ顔しないでください」
「おっとオースティンくん。ひがみ? 魔法一個も使えないからってひがみはよくないよ〜」
「それじゃあとっととダンジョン攻略へと向かいますか〜〜」
俺は薄暗いダンジョンへと生意気な魔女を引きずり込む。
「ごめん! ごめんて! 謝るから! もっとゆっくりぃいいいい!」
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