第34話 番外編「確定悪役令嬢」1

【告知です!】


 6/30にこちらの作品のコミカライズ1巻が発売になります! わーい!


 推定悪役令嬢は国一番のブサイクに嫁がされるようです 1

 著者:菓月 わわの

 原作:恵ノ島すず

 キャラクター原案:藤村 ゆかこ

 B's-LOG COMICS  発売日:2023年06月30日

 定価:759円(本体690円+税)  判型:B6判

 商品形態:コミック  ISBN:9784047375369

 (敬称略)

 

 近況ノートに詳細を記載しているので、どうぞよろしくお願いします。


【以上告知でした】


【以下番外編です】



 ――――――――――――――――――――



 私が死にかけたことを重く見て辺境伯領までやって来た実母がようやく王都に帰ってくれた数日後、八月下旬の昼過ぎ。

『相談したいことがある』と談話室に呼び出され、本題に入ろうか入るまいか悩んでいる様子のルース様ととりとめもない雑談を続けること、約一〇分。


「相談、というのは、その、……実は、私の弟が、うちにやって来たそうなのです」


 ようやくルース様にそう切り出された私は、首を傾げる。

 サントリナ辺境伯家に、そんな人がいるとは聞いていないのだけど……?


「ルースの、弟……?」

「父親違いの、とは付きますが、ええ、一応は弟のようです。母が牢獄に入って初めて知った存在ですが。歳は一五で、この春にエマも通っていた王都の魔導学園に入学したばかりとか」


 そんな答えが返って来て、納得する。

 確かにあの襲撃の日に、お義母様がそんなことを言っていたわ。

 今一五歳か。ルース様とは、一三歳差くらいある兄弟なのね。さほど馴染みもなさそう。


「えっと、その弟さんが、どうしてこちらに来たのかしら?」

「それが、母の現在の夫もこの度の事件に関わっていたことが判明し捕縛され、保護者不在になったらしいのです。赤の他人と追い返したいところですが、一応血縁的に一番近いのは私らしく、しかも困ったことに、父からの面倒を見てやれとの手紙を持って来ていて……」

 はあ、と、ものすごーく嫌そうなため息を、ルース様は吐き出した。


「お義父様が? えっと、確か今は王都の近郊でのんびり暮らしてらっしゃるのよね? 王都には、優れた治癒術士が多いからとかで」


「そうです。父はけっこうな歳まで最前線に出ずっぱりでしたから、あちこちにガタがきているようで、あちらで色々診てもらってます。ただまあ、私同様見目が悪いので、せっかく王都近くに住んではいても家にひきこもりがちですけど」


 ひきこもりがち。うん、少なくとも社交界では一度も見なかったね。

 一応私が王都で謹慎中に親戚になるからと一度挨拶に来てくれたのだけれど、居心地悪そうにさっと挨拶だけしてすすすと逃げるように帰っていかれたわ。

 グレーヘアなのでこの世界ではあれな扱いだが私にとってはイケオジだしルース様のお父様だし、きちんと交流したかったのだけれど。


「とにかく、父は一応王都近くに住んでいるので、弟のことは知っていて、彼が困っていることにも気づき、こちらに来るよう手配したようです」


「けれど、お義父様はそれこそ血のつながりなんてないじゃない。なのに、わざわざ口添えを?」

 ふと気になって尋ねると、ルース様は実に苦々しい表情で、吐き捨てるように告げる。

「父は、とことん母に甘いんです。まあ、私だってエマの関係者、例えばエマのお兄さんのお子さんなんかがいたら、血のつながり関係なしに甘やかす自信があります。なので、ある程度理解できなくもないのですが……、困った人です」


「ルースもお義父様も愛情深いということね」


 私がうんうんと頷いたところで、ルース様はお義父様の甘さに呆れたような疲れたようなため息を吐いてから、続ける。


「父の手紙によると、今、学園は夏休みらしいんですが、それがあけても、とても通学させられなさそうな状況なんだそうです」


「ああ、ご両親が揃って捕まってしまえば、それはそうよね。かわいそうだとは思うけれど、お義母様が今回の事件を起こした動機が、その子にルースの財産を継がせたかったからと聞いている私としては、複雑な気分だわ……」


「捕まったことが問題、というか、なにせ弟は辺境伯家公爵家王家女神のいとし子を敵に回した家の人間なので、王都にいては命も危ういかと……」


「い、命!? さすがにそこまでは……、ああでも、私、確かに婚家がここで実家があれで王家とディルナちゃんは私に恩を感じてくれているものね。弟さんとしては、そんな気分になってしまうかしら。少なくとも王都では、人目が厳しいでしょうし。……ああ、それでこちらにと?」


「そうです。そこまで気にかけるならば父が自分で面倒を見ろと言いたいところですが、王都近くに返すわけにもいかず……。それで、その……」

 そこで、更に一段言いづらそうに。ルース様は、いかにも嫌だな言いたくないなという表情で口ごもった。


 ……?


 首を傾げた私の顔をじっと見て、じっと見て、なにをそんなにというくらいじーーーっと見て、ようやく決意のついたらしい彼は、ため息を吐く。

「……その、対面したうちの使用人が言うには、弟なる者は、ですね。紺碧の髪と瞳を持つ、私にとてもよく似た顔立ちの少年、なんだそうです」


「へー。お義母様の遺伝子が強いのね」


 ……。

 ……?


 相づちを入れたのに、ルース様はなぜだか、まだ私の顔をじーっと見たままなにも言わない。

 なぜ。

 そんなまじまじと見られても……、ああ、真剣な眼差しのルース様もステキ。


 私がポッとルース様に見惚れた瞬間、ルース様はいやいやいやそれはおかしいだろう! とでも言うかのように手をバタバタさせた。


「いや、『へー』で済ませて良いのですか!? その、弟は、私のような顔で、濃い髪色で、歳も若く、まあ辺境伯家の血こそ継いでいませんが、それを差し引いてもよほど私より魅力的な相手かと思うのですが……っ」


 ああ。なんでそんなに弟さんのことを言いづらそうなのかと思ったら。

 同じ顔で髪色が濃ければ、この世界的には上位互換みたいな存在になるのか。

 まあ確かに私、ルース様の顔が好きなんだけど。とてもとても大好きなんだけど。


「でも、弟さんは、ルースじゃないもの。興味ないわ。私、別に顔だけでルースのことを好きになったわけでもないし」

 きっぱりと言い切った私に、ルース様は困惑を露わにする。

「え、ええ……? そう、なのですか……?」


「そうよ。優しくて、思いやりに溢れていて、責任感が強くて、まじめで、有能で、照れ屋で、ちょっと自分に自信がないところはたまにもどかしくなるけど、でもそんなところもかわいくて、私をとても大切にしてくれるあなただから、好きなのよ」


 ふふ、と微笑みかければ顔を真っ赤にして硬直してしまった純朴な彼にずいと迫って、私は続ける。


「あんな母親の元に生まれて、この髪色ばかりを重要視する歪んだ世界でその色で……。どこかで嫌になってしまったって、なにかを恨んだって、良いはずなのに。そうはせずに、まっすぐに努力を積み重ねてこの地を護っているルースのこと、とても尊敬しているわ」


 泣きそうな目で、涙をこらえるようにぐっと唇を引き結びうつむいた彼の、銀色に輝く髪をそっと撫でる。


「あなただけよ。あなただから好きなの。あなたと似たような顔なだけの人になんて、惹かれるわけがないわ。安心して?」


「あ、の、よく、よくわかりましたので。勘弁してください……」

 そう言ってうう、と顔を真っ赤にしてますますうつむいてしまったルース様が、あまりにも恥ずかしそうだったので、私は彼からぱっと手を離し、距離感も元のそれに戻した。


「うん、そうね。弟さんの話だったわね。まあそういう事情なら、ある程度ほとぼりがさめるまで、ここで面倒を見てあげてもいいんじゃないかしら、って、私は思うわ」


「あ、ありがとうございます。んんっ、そう、弟としては、いつまでもここにいるつもりはないと聞いています。なんでも、彼は非常に面白い魔道具を作る子らしく、これまでの成果プラス多少それ用の勉強をしてから筆記試験に挑めば、隣国の専門学校に特待で行けるのではないか、と」


「ああ、編入試験までの、仮住まいといった感じなのね。じゃあ、更に問題ないじゃない」


「そうですね。唯一の懸念は、私の嫉妬でしたが……。エマが、ああまで言ってくれましたから。次の編入試験までの三ヶ月程度の短い期間らしいですし、うちで受け入れることにしましょうか、弟を」


 そんな風に合意して、わが家に迎え入れることになった、ルース様の弟、ラウル。

 確かにルース様によく似た顔をしているのだけれど、ルース様と違ってなんか覇気がないしオーラもないし憂いを帯びた色気もないし、全然興味はわかないなという第一印象だった彼は。


『なあ、明らかに原作とキャラが違ってるからお前らのどっちかだと思うんだけどさ。暗黒騎士と悪役令嬢の、どっちが転生者なんだ?』


 開口一番でそう宣い、私の興味関心を大いにかっさらうことになったのであった。

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