人狼に捧ぐ小夜曲⑨
『ガァッ!』
「おらぁ!」
振るわれる爪に合わせるように、
硬い音が響き、火花が散る。
鍔迫り合いの状態に持ち込まれても、スキル補正で
振り下ろす力を強める
『ギィ――!』
0と1でできた肉が切り裂かれ、エフェクトという名の血が迸る。
痛みの
伏せてかわすのは退路が減る。後ろに飛び退き、鼻と前脚のサンドイッチから逃れた。
『ウォォォォォンッ!』
逃がすとばかりに【
「ハッハー! きかねえんだよなあ!」
【
スキル使用直後のわずかな
『グ、ァ……!』
綺麗に一撃をもらった白い獣が、苦悶の声を零す。
黒い方も【
そのおかげで、【
「跳び蹴りからのぉ――かかと落としィ!」
ステータスに任せた、
アクロバティックな体勢のまま、跳び蹴りによって上向きになった鼻に今度はかかとを思いきり振り下ろし、吠え声を放ったばかりの顎を無理やり閉じさせる。くぐもった声とともに、面長の顔が深く沈んだ。
踵落としの勢いを利用して、そのまま空中バク転。からの着地。10点、10点、10点。
惚れ惚れするような着地を決めた後、即座に地面を蹴る。そして、白い獣の脇を駆け抜けるとともに、
ケツめがけて斬りかかろうとしたが、大きな尻尾が牽制のように叩きつけられた。
毛のせいで柔らかそうだと錯覚しかけるが、あれは巨大な鞭だ。当たったらひとたまりもない。ギリギリで踏みとどまり、白狼がこっちを向くのを待った。
『ガルァ!』
【
相手が次の攻撃に移りやすい分、何気に回避に頭を使う攻めだ。
あえて逃げずに迎え撃つ? いや、全体重がかかった攻撃を迎撃するのはさすがに無謀が過ぎる。というか
「ちっ!」
舌打ちをしつつ、一気に距離を引き離せる跳躍じゃなく対応がしやすい走りを選択。朔VS黒狼にかち合わない位置取りは意識しつつ、横方向にステップを刻む。
『ガァッ!』
案の定、奴は着地と同時にもう一度跳躍し、今度は低めの高さで跳びかかってきた。
根本的にリーチが絶望的に違う。白い獣の牙が、瞬く間に眼前へと迫る。
だが今、反射神経を司るDEXのステータスはプレイヤーの限界を突破している。
捉えられるなら、合わせることは難しくない!
「牙ぁ!」
『グゥ……ッ』
言葉とともに、ばかでかい犬歯に
反動で体が浮き、後ろに飛ばされる。代わりに白狼の攻撃は勢いを殺され、生物としてデリケートな場所に衝撃を食らった巨体は俺に追撃を仕掛けることができなかった。
迎撃が成功したことに、痺れる手を無視しつつ内心ガッツポーズをとる。
【
問題はやっぱり、とどめのタイミングだ。
(ビジョンはある。後はどこに挟みこむかだけど……ん?)
スキルのカウントダウンを意識から外さずに考えを走らせていると、お互い攻撃が届かない状態だというのに白狼が顎を開いた。
【
これがただのエネミーならAIの判断ミスと思うところだ。しかし、
思考数秒。
ここだ。
『ウォォォォォンッ!』
「――きかねえって言ってんだろうが!」
狙うのは、さっきと同じくでかい鼻。足裏は、寸分違わず鼻先に向かっていき――――
本来なら動かない狼の顎がさらに大きく開き、自分から飛びこんできた
その口の中で、
【
「――――っ、がぁ!?」
直後。
体が鞭のようなものに強打された。
「っ、な」
視界の端にちらつくのは、毛に覆われた尻尾。
それに殴られたのだと理解すると同時に、忌々しい夜、二人がかりのレアスキル
(一回引っかかったのは驚いただけかよ!)
そんなのありか、と。
ふざけたAIに毒づく俺の目が、白狼の顔を捉える。
にやり、と。
あの夜と同じ笑みを浮かべながら、白い獣の咢が今度こそ俺の体に食らいついた。
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