ダンピールの少女が仲間になる
聞こえてきたのは銃弾の音だ。幾多もの銃弾の中、一人の少女が舞う。
彼女は流れるような動きで銃弾を放っていた。
多くのアンデッド達が呻く。恐らくは銀性の弾丸だろう。銀は神聖な素材であり、アンデッドに対して有効なダメージを与える事ができた。アンデッドの王であるヴァンパイアにも有効である。
「へっ。来やがったぜ。あれが国王暗殺の嫌疑をかけられているジルって男だ」
恐らくはヴァンパイアハンターだろう。男達は話始める。
「横にいるのはヴァンパイアか」
「俺に何の用だ?」
「聖女アリシアからの命令だ。お前には何の恨みもねぇ。けどよ、俺達も金を貰ってるからよ。お前を殺して死体を持って行けばさらに金が貰える。だからよ。てめぇをぶっ殺すんだよ。きっけっけっけ!」
「隣にいるヴァンパイアもついでに連れてこうぜ。生け捕りだ。あれは高く売れる」
「ジル様……」
エリザは俺の後ろに隠れる。
「心配するなエリザ。お前は俺が守る」
それより、あの超人的な動きをしている女の子だ。
「……何? 見つかったの? 標的」
「ああ。アルカ、あいつだ。あの吸血鬼の隣にいる」
「アルカ?」
「え?」
二人は目を合わせその場で固まる。
「なんだ? アルカ、知り合いか?」
「知り合いっていうか。姉」
「え?」
「腹違いの姉。私と違って姉は純粋な吸血鬼」
「……アルカ! どうしてあなたが、あなたがヴァンパイアハンターなんてやっているの?」
「決まってる! 金の為! 生きていく為! その為に私はヴァンパイアハンターになった」
「アルカ……何を。あなたに何が」
「吸血鬼と人間との混血(ダンピール)に生まれたがどうなったかなんて想像がつくでしょう? まともな社会からは人間の母と同じく追放されて、まともな生活を送っていく事は困難だった。行き着く先は限られていた。身体を売るか、危険な仕事をするか。私は後者を取ったの。その危険な仕事がヴァンパイアハンターってわけ。幸いに私には吸血鬼の血が流れている。その人間離れをした能力はヴァンパイアハンターにはうってつけだったって事よ」
「そんな事がアルカの身に……」
「同情なんてしなくていい。これも私の運命なんだから」
「姉妹の再会を喜んでいる場合でもなさそうだな。やるのか?」
「当然」
「そうか。なら容赦はしない」
俺は死霊術を発動させる。アルカは飛んだ。二丁拳銃だ。その拳銃から弾丸を放つ。正確な弾丸は俺に襲いかかってくる。
デッド・ナイトを召喚した俺はそれを壁にして、弾丸をやり過ごす。
アルカは聖属性の剣を引き抜いた。アルカの狙いは最初から接近戦にあったのだ。
「はあああああああああああああああああああああ!」
アルカは斬り掛かってくる。その速度は凄まじい。人間の数倍は速い。
ネクロマンサーは肉弾戦に弱い。何せアンデッドを召喚して盾にするのがネクロマンサーの闘い方だ。それは通常の魔術師とかと同じ。距離を取りたがるのは、つまりは接近戦では雑魚だと言っているに他ならない。
「けどよ」
「え?」
「本体が使役するアンデッドより弱いなんて、恰好がつかねぇだろうが!」
「なっ!?」
俺はアルカの腹部を蹴り飛ばす。
「がはっ! ぐはっ!」
アルカは吐血した。人間のように赤い血を吐き出した。
「終わりだ」
「くっ……」
アルカは目を閉じた。死を覚悟したのだろう。しかし、俺は彼女にアンデッド・ヒールをかける。やっぱりだ。ダンピールの彼女にはアンデッド・ヒールの効果がある。
「ど、どうして! どうして私を殺さないの!?」
「お前には吸血鬼の血が流れている。半分はアンデッドの血っていう事だ。アンデッドは言わば俺の子供だ。殺せるわけもない」
俺はアルカを抱きしめる。
「今まで辛かったんだろう。ダンピールに生まれて。だけど俺が作ってやる。お前が生きやすい楽園を。必ず」
「……本当? 信じてもいいの?」
「ああ。俺を信じろ」
「じゃあ、一回だけ信じてあげる。私が誰からも迫害されない、そんな私にとっての楽園を必ず作って」
アルカは笑みを浮かべた。俺は立ち上がる。
「どうするんだ!? アルカがやられちまったぞ!」
「お前達を殺すつもりはない。だが、これ以上俺の国、この不死国を汚すというのならば容赦はしない」
「くっ! 撤退だ! 半分の金は仕方ねぇ! 命あっての物種だからな」
ヴァンパイアハンター達は撤退していった。
「アルカ、ジル様はとっても素晴らしいお方なのよ。きっと私達アンデッドをより良く導いてくれる。そう、きっとダンピールのあなたにとっても住みよい素晴らしい国を創ってくれるわ」
エリザはアルカに告げる。
「お姉ちゃん、ジル様……不束者ですがよろしくお願いします」
こうして元ヴァンパイアハンター。エリザにとっては腹違いの妹。ダンピール(混血児)のアルカが俺達の仲間になった。
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