ダンピールの妹

「へー……これがエリザのお母さんか」

「ええ。母です」


 不死城には女の人の絵が飾られていた。肖像画という奴だった。美人な女性だったが顔のパーツが色々と似ていたので後は状況証拠からエリザの母であるという事が理解できた。


「母は私を産んで間もなく亡くなったそうです」

「……そうか」


 あまり深くは言及しないどこう。地雷な気がする。


「お父さんはどうしてるんだ?」

「父は生きていると思います。父は荒唐無稽で自由奔放な人ですから。何より王族という不自由な身を嫌い、この城を出たそうです」

「へぇ……無責任な人だな。娘と国民(アンデッド)もこの不死国にはいるだろうに」

「…………」


 やべぇ、地雷だったか。確かに血の通った肉親を侮辱されるのは本当の事でも面白い事ではないよな。エリザは表情を曇らせた。


「す、すまない。言い過ぎた。何も知らない俺がそこまで言っちゃダメだよな。本当悪かった、すまない」

「ジル様のおっしゃっている事ももっともです。そう謝らないでください。悪いのは父ですから」

「そうなのか……。けど何も知らない奴がそこまで言っちゃならないよな。お父さんだって何か理由があるのかもしれないし。それでエリザの家族は両親だけで、一人っ子だったのか?」

「厳密には違います。昔父が私の事を訪れてきた事があるんです。その時、父は子供を連れてきました。何でも人間の女との間に作った子供だと言っていました。私の異母姉妹。混血児(ダンピール)の妹がいます」

「へぇ……妹がねぇ。それでその妹さんは今何しているの?」

「わかりません。頻繁に連絡を取るような間柄ではないので。一体今どこで何をしているのやら」


 そんな時だった。使用人をしているスケルトン達がざわめき始める。


「エリザ様! ジル様! 大変です!」

「なんだ?」

「ヴァンパイアハンターです! ヴァンパイアハンターがこの不死国に攻め入ってきました!」

「なんだと……どこにいる?」

「城門のすぐ近くです! 今、傭兵をやっているアンデッド達が徒党を組んで迎撃しているんですが、特に一人の女の子がえらい強くて手間取ってるです! このままじゃ皆消えちまいますよ!」


 アンデッドには死がない。それは一般的な死である。やはりアンデッドと言えども、粉微塵になれば再生もできない。消失してしまえば実質的な存在の死を迎えなければならなくなる。そういった意味でアンデッドも死から完璧に逃れる事のできない存在であった。


「すぐに行く! それまで時間を稼いでろ!」

  

 俺とエリザは不死城の外へ出た。そして説明を受けた場所へと向かう。

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