第3話 デート
「ヤッホー! 待たせちゃった?」
次の日、僕は駅の目の前にいた。
そして、改札口から小鳥遊さんが見えた。
「いや、僕も今来たとこだよ」
改札口をくぐった小鳥遊さんを改めて見てみる。
今日はさすがに昨日のような病衣ではなく、淡い青色のワンピースだ。
そのワンピースは小鳥遊さんの綺麗な長い黒髪とすごくマッチしていて、小鳥遊さんをより魅力的にしていた。
「そっか! よかったぁ。じゃあ行こっか!」
そう言って小鳥遊さんは僕の手を引っ張ってテーマパークへと向かう。
僕は昨日の約束どおり、小鳥遊さんを楽しませるためにちゃんとプランを考えてきた。
今日はちゃんと僕がエスコートしよう。そう思いながら向かった。
「まずどこ行く?」
テーマパークに着くなり小鳥遊さんはそう聞いてきた。
このテーマパークは一日ではとても周りいることができないほどの広さを誇っている。
「小鳥遊さんはどこ行ってみたい? やっぱりジェットコースター?」
ちらりと遠くに見えるこのテーマパークに無数にあるジェットコースターを指差す。
「いやいや! ジェットコースターとかここの楽しみの一つじゃん!」
「じゃあ最初は軽めのアトラクションにでも行ってみようか!」
「そうだね、それじゃあ今日のエスコートは祐也くんに任せよっかなー」
「うん、いいよ」
そう言って、今度は僕が小鳥遊さんの手を引きエスコートする。
向かう先はホラー系のアトラクションだ。
別に怖くはない。ただ雰囲気が怖いだけだ。そんなアトラクションに僕たちは向かった。
「最初はここにしよっか!」
目的地に着くと、僕は笑顔でそう言う。
だが、小鳥遊さんはなんだか怖そうだ。
「え、えぇ……私ホラー系得意じゃないんだけど……」
アトラクションの入り口から目をそらす小鳥遊さん。
「これ怖くないよ! 全然大丈夫!」
「そ、‘そうかなぁ……て言うか、祐也くんここきたことあるの?」
「え? あるよ? 高校の時にね」
それにここはそれほど遠い訳ではない。この近辺に住んでいる人ならば一度は来たことがあるんじゃないだろうか?
「そうなんだね。私はここ初めてきたかな」
悲しそうな目をして小鳥遊さんは言う、
多分、よほどの理由でこれまで来れなかったんだろう。
「それじゃあ今日は今まで来れなかった分まで楽しまないとね!」
そう言いながら、僕は小鳥遊さんの手を引きアトラクションの入り口へと入っていった。
中にはいると、あまり並んでいなくすんなりアトラクションを体験できた。
係員に誘導されながら乗り物に乗って不気味な雰囲気の館を進む。
「く、暗すぎない?」
そう言いながら小鳥遊さんが少しくっつき気味になってくる。
「そうかな? そ、それよりも近くない?」
そんなことを言いながらも乗り物は前へ進んでいく。
そして、突然ん不気味な笑い声やガラスの割れた音などが聞こえてくる。
「ひ、ヒィィィ⁉︎」
小鳥遊さんはそれを聞くと、肩をわずかに跳ね上げて驚いた。
「あーもうホラー系は嫌だよぉ」
アトラクションを乗り終えると、僕たちは園内にある食べ物を売っている屋台を食べ歩きしていた。
今食べているのはチュロスだ。
小鳥遊さんと僕はそれを別々な味を買って交換をした。
「うん、こっち美味しいね!」
小鳥遊さんが買った方を食べるとこっちも美味しくて満足する。
「もー私の話聞いてる? もうホラー系嫌だからね!」
小鳥遊さんはそう言うと、チュロスを食べ終わり鞄から薬を取り出した。
「あれ? 小鳥遊さんその薬どうしたの?」
「え? あーこれ病院から処方された風邪薬だよ。ちょっと種類多いけど気にしないで。あはは……」
小鳥遊さんはさっき買ったお茶で薬を飲む。
それを見て、僕は少し不安な気持ちになった。
「あ、見てみて! あの可愛い子連れた家族!」
そう言って僕の肩を叩くと、少し先にいる親子を小鳥遊さんは見つめていた。
「ん? あの親子がどうかしたの?」
「ほら、親子でみんなしてお揃いの服着てるからさ……私も、将来あんな感じで仲のいい家族を作りたいなーって」
「うん、そうだね」
その親子を見て、僕は小鳥遊さんともし夫婦になれたらと言うことを想像しながら呟いた。
そして、こんな日常がずっと続くことを心から願った。
その後僕たちはジェットコースターやメリーゴーランドなど、いろんなものに乗った。
小鳥遊さんは様々なアトラクションで楽しそうなリアクションをしてくれたので、今日はエスコート成功だ
ったと思う。
そして、これが最後のアトラクション──花火。
「もうそろそろ花火だね」
小鳥遊さんはそう言いながら暗くなった空を見上げる。
このテーマパークはほぼ毎日夜になると五分間の花火が上がる。
それを、僕はテーマパーク中央の広場で小鳥遊さんと見る予定だ。
「そうだね、場所移動しようか」
僕たちはそうして少し早いが広場の前へとやってきた。
早くこないと見る場所がなくなっちゃうからね。
「楽しみだね……」
「うん」
花火までの間、僕たちは今日のことについて話した。
アトラクションのことやお土産のこと。いろんなことだ。
そして話していると──時間になった。
時間が変わると同時に雲ひとつない空に小さな灯りが空へと打ち上げられ、爆散する。
その火花は色とりどりで大きくて見ている人を虜にする。
「ねぇ、小鳥遊さん」
そんな中、花火から目を離し、僕は隣の花火に見惚れている小鳥遊さんへと話しかける。
「ん? どうしたの?」
小鳥遊さんは花火から目を離し僕を見る。
そして、僕と小鳥遊さんは目が合った。
「小鳥遊さん……僕と、付き合ってくれませんか?」
直前までいろいろ考えていた告白の言葉。しかし、そんな言葉たちはこの綺麗な花火たちとともに記憶の中から消え去ってしまった。
小鳥遊さんの目を見つめる。僕の心はこれだけの言葉でよかったのかと言う感情と恥ずかしさでいっぱいだった。
「えっと……あの……」
小鳥遊さんの顔がどんどん赤くなる。
その顔を見て、僕の顔もどんどん熱くなる。
「き、気持ちは嬉しいの……だけど……」
小鳥遊さんはそこからの言葉に詰まった。
だけど、もう僕は悟ってしまった。これは振られてしまうのだと。
それを悟ったからこそ思った。
どうか……この時間が長く続きますように、と。
しかし、残念なことに僕の願いは届かなかったらしい。
「ごめんね? 私、祐也くんと……付き合えないの」
その言葉と、一緒に咲いた花火が小鳥遊さんの表情を明るく照らす。
一瞬照らされた小鳥遊さんの顔は今にも泣きそうな表情をしていて、なんでそんな表情をするのだろうと、僕は振られながらにそう思った。
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