forever 向日葵の約束
「はぁ…はぁ…」
見つけた…。
予想通り斐音はあの日結婚を誓った公園のブランコに座っていた。
そっと近づいて顔を覗くと、斐音の目は真っ赤に腫れていた。
そして今も涙目になっている斐音になるべく優しく声を掛ける。
「斐音…?」
するとゆっくり俺の方を向き、口を開いた。
「私は…お兄ちゃんのなに…?ずっと…従姉妹のまま…?」
どこか不安げな瞳で僕を見つめてきた。手は震えている。
「ねぇ斐音、向日葵の花言葉分かる?」
そう聞くと斐音はキョトンと不思議そうな顔になった。
「正解は『あなただけを見つめる』だよ」
その言葉を聞くと斐音は目を丸くした。驚いているようだ。
「それと」
僕は深く深呼吸する。
「待たせてごめんな?」
僕がそう言うと斐音の瞳から大粒の涙がポロポロと落ちた。
まるで今から僕が何を伝えようとしているか分かったかのように。
僕はブランコに座っている斐音に跪き、斐音の右手を取る。
「伊藤斐音さん、僕と付き合って下さい」
やっと伝えられた…。
小学校低学年から好きだったから十年以上言えずにひたすら耐えた。
勉強も死ぬ気で頑張ったし、運動だって頑張った。
することは全部した…。
あとは斐音がオッケーしてくれれば…
チラッと見上げると斐音はまた震えていた。しかし、さっきのような悲しい感じではない。
頬は桃色に染まり、目を丸くし…。まるで…喜んでくれているようだ。
「も、もちろんですっ…!」
そして大粒の涙を更に流した斐音が僕に抱きついてきた。抱きしめると腕の中で更に泣いていた。
「あはは…焦ったよ…」
「ぐすんっ…なに、が…?」
抱きしめられている斐音が腕の中から涙目の上目遣いで聞いてきた。
「ん?斐音にいつ彼氏ができるか」
こんなに可愛いのだ。他の男に告白されてもおかしくない。
「それもこれも全部この向日葵のピン留めのおかげかな」
小学生の時にあげた向日葵のピン留め。意味はもちろん分かっていてあげた。
幸いにも斐音は向日葵のピン留めをつけ続けてくれたから斐音は僕のものと周りに警告することが出来たのかもしれない。
「わからないよ…お兄ちゃん、鈍感で難聴だから…私こと…好きだったなんて…」
「まぁ勉強とか、斐音のお父さんから出された条件をキープするのに必死だったからね…」
目の前のことに必死すぎてまさか斐音が僕のことを好きでいてくれたのにびっくりである。
「お父さん…?」
ちなみに斐音のお父さんとの約束は本人には秘密である。
「その話はまた後でするよ。それより…」
今、この時の幸せを噛み締めたい。
「斐音、好きだよ」
「わたしも…好き…」
目から流れる涙を指で拭き取り、優しくキスをした。
◇◆◇◆◇◆
今日から僕が高校三年で斐音が高校一年生だ。
そして…
「お兄ちゃんが彼氏…お兄ちゃんが彼氏…」
斐音の呟きは今日も絶好調である。
今日は斐音の入学式なのだがそれどころではない。
斐音とは従姉妹ではなく彼氏、彼女の恋人関係だ。
言うまでもなく浮かれている。
「ねぇ斐音」
「ん〜?なにー?お兄ちゃん?」
幸せそうな斐音の笑顔も可愛いが、恋人関係になったからには変化が欲しい。
具体的には僕のことをお兄ちゃんから颯と呼び捨てにして欲しい。
「は・や・て、って呼んでよ」
そうお願いすると一瞬固まった斐音だったが、すぐに口を開いた。
「…………はやて」
「んー?なんて言ったのかな〜?」
本当はバッチリ聞こえていたが恥ずかしながら言う斐音が可愛いのでもう一度要求する。
「こう言う時に難聴を使うの、ずるい…」
ジーと睨んでいるが、顔を真っ赤にしていて涙目なので全然怖くない。
むしろ可愛い。僕の彼女、可愛い!
すると深く深呼吸をし、意を決したように再び口を開いた。
「は、はやて、大好き…!」
顔を赤らめハッキリそう言ったと思えば、勢いよく僕に抱きついてきた。
おそらく照れ隠しだろう。おまけに耳が真っ赤だ。
「斐音、斐音」
僕にぎゅと抱きついている斐音の耳元で囁く。
「悪いけど僕の方がもっと好きだから」
「っ……!?!?」
斐音はバッ顔を上げたと思えば、口をパクパクさせ、更に顔を赤くしていた。
季節は春、桜が舞う季節。
桜の桃色より赤く染まる顔を見つめ、僕の可愛い彼女にそっとキスをした。
〜Fin
【完結】鈍感難聴系な僕にもわかるように、よく聞こえなかった言葉の意味を恥ずかしがりながらも丁寧に解説してくれる従姉妹の斐音ちゃん 悠/陽波ゆうい @yuberu123
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