第6話 散歩とコーヒーは今日も新鮮だ

受け取った花の匂いを嗅いだセレネは 甘い香りに顔をほころばせ、

幸せそうな顔で俺を見つめた。

少しは元気が出たようだ。 早くよくなってほしい。


セレネは 村の人に付き添われてまた病室へと戻っていった。


その後は ヨーゼンたちにお礼を言われた。

「あれだけの小人を何とか出来てしまうなんてすごい」とか「仲間のために命をかけてすごい」

とかいろいろ言われていると思う。

ヨーゼン家族からもお礼の言葉を言われた。

ヨーゼンには 子供が二人いるようなので助かってよかった。



数日たったある日


今日も 日課の散歩に出かけた。

セレネの病室まで行くとセレネはひょっこりと顔をのぞかせる。

でも 手を振ってから、去ろうとしたら呼び止められたぞ

いつもと違うこの展開、一体なのがあったのか?

「待っててほしい」みたいなジェスチャーをされて 入口で待っていた。

少しまったけど、待ったかいがあった。

なんと、セレネが出てきて一緒に散歩に行くことになったのだ。

気分転換なのか?なんなのか?

俺たちは、村の石の壁の外周をグルリと歩いて、新しく立てられている住宅区まで来た。

復興もほとんど終わって ようやく新しいセレネ姉妹の家も完成したようだった。


セレネが新居の長屋の一部屋を指をさした。


「ここが私たちの新居よ」とか言ってくれてたら嬉しいけど、

きっと「ここが私と妹の新居よ」と言っているのだろう。

しかし 小人が進入するたびに家を燃やすのだろうか?

建物の位置的に障害物というか、この建て方にはそういう意図が見え隠れしている。

もしかすると、というかセレネ姉妹は、一番立地条件の悪い場所に住まなければいけない立場の人のようだ。

 


散歩の途中で落ちている鶏の羽を見つけたときに セレネが羽を耳に差して鶏の物まねを始めた。

でも 俺のほうが鶏の物まねはうまいので、手本を見せてあげた。

俺も 羽を一枚拾って耳に差すと「コケコッコー」と鳴いて見せた。


でも 彼女は首をゆっくりと横に数回降って「あなた鶏の事が何もわかっていないわ」って顔をしている。

そうすると それを見ていた村のおばさんが出てきて「コッココーコッココ」と言ってから

ドヤ!って顔をして鶏の羽を耳に刺した。

セレネは両手をバサバサさせるような動作をして「あなたの鳴き方には情熱が足りないわ」

みたいなことを言い始めていると思う。

そして 羽をもう一枚耳に差すと 再び鳴きまねをやって見せた。

それから 子供が出てきて鳴きまねをして、3枚の羽根を耳に刺した。

すると数人の村の人たちも参加してきて鳴きまねをした後に羽を耳に刺した。

でも 最後は鶏本人が 鳴き声を上げて「こいつが一番うまい!!」という話になって決着したのだった。


散歩は 一人でするのと違ってちょっと変化があって楽しかった。

病院の入り口まセレネを送り届けると村長と偶然あった。

セレネは村長と話をしているようだった。

多分 俺の言葉がわかるのか?と聞かれていたのだろう。まあ わからないのだけれど。


セレネとの会話が終わった後に俺は村長の部屋に呼ばれた。

椅子に座るようにうながされて座って待っていると 

村長の娘が俺と村長に飲み物を持ってきた。

夜這い事件があったのに意外と涼しい顔をしているようだ。

済ました顔で カップをテーブルの上に置いた。

しかし 驚いたのはカップの中身だった。


これは! 


この匂いは!


震える手でカップを握って口をつけた。

それは 懐かしい味。俺の大好きなものだった。


「コーヒーじゃないか!!」


コーヒーを飲んだ俺を見た村長は、笑って俺に皮を向いたサトウキビを勧めてきた。

でも要らない。

むしろ コーヒー好きの俺に対して砂糖を進めるなんて!

俺を誰だと思っているのか?

この気持ちが伝えられない事にもどかしさを感じた。

焙煎の加減や豆の事など、自慢げに地球の言葉で語ってやった。

すると 何やら話をしているようだったけど

「コーヒーをご存じでしたか?言葉はわかりませんがお詳しそうですね」

みたいなことを言っていたと思う。



そして話の本題に入って、テーブルの上の地図を見せられた。

この村の位置と隣町が載っており二つの村と街が矢印で結ばれていた。

以前から この周辺を探索していたので隣町の方角はすぐに分かったけど

3日くらい歩かなきゃいけない距離だな。

そして矢印の途中に 村のような記号が描かれているけど、ここでは休めるのだろうか?


村長は村の名簿を広げた。

物資を調達に行くメンバーの名前を読み上げだした。

でも その中にはなんと セレネの妹の名前があった。

それからニヤリ( ̄▽ ̄)と笑った村長は、ジェスチャーを使って俺と妹をチェンジしてもいい。

みたいなことを言ってきた。

セレネの姉妹ってやっぱり、貧しい立場の人たちだったんだな。

でも 妹は病気だし動けないと言うことは 俺が引き受けるしかないわけだ。

俺は ゆっくりと、うなずいた。

別に 妹を交渉に使わなくても隣町へは行ってみたいと思っていたからちょうどよかった。

大体、この村は病院といっても村人が村人を治療する程度で専門的な医者はいない。

だから セレネ達は医者に診てもらったことはないのだろう。

もしかしたら すんなり治ってしまうことだってあり得るかもしれなかった。


「うっうん!」


村長は咳払いをすると ドアが開いて娘が顔をだした。

そして 俺たちは娘の部屋に通された。

何をするのか?

娘は 自分のテーブルに本を一冊置いて俺に椅子に座るようにとうながした。

本は 子供が読む絵本のようで少しだけ文字が書き込まれているものだ。

つまり 街へ行くためにも、俺に言葉を少し覚えろということか。


「ドン!」

村長が部屋から出て行って村長の娘と二人きりになった。

どうやら 彼女が俺に言葉を教えてくれる先生になるようだ。

彼女は 本を閉じると自分の体を指さして「目・口・鼻」と自分の体の部位を教え始めた。

説明が終わると再び指をさしてクイズを出してきた。

何度か繰り返していると徐々に 指をさす、体の部位の位置が下がっていく。

初日から複雑な言葉は教えてこないと思うけど 

胸じゃなくて胸の谷間、服の襟首を指で下げて「ここは?」

と顔に胸を近づけて聞いてくる一幕もあった。

この世界にはブラジャーって、ないのかもしれない。


30分ほど言葉を教わってから帰りに呪文みたいな言葉を言わされた。

村長の娘はそれを聞いて、目をうっとりとさせて、何かの返事を返した。

初日の授業が終わって 村長に異世界の言葉で

お礼と別れの挨拶をすると「さすが 私の娘だ!」みたいに娘を絶賛していた。

まあ ここで暮らしてしばらく経つからね。

挨拶くらいだったら 習わなくても何とかなるのだが、

地球の言葉でも意思疎通ができてしまうので、使ったり使わなかったりしていた。



その日からセレネと散歩をして、仕事をこなし、そして時々村の外へ行って、

ルートの確認などを念入りに準備した。

以前見た地図に載っていた村と街の中間にあった場所は、廃墟の村だった。

物資の補給はできないけど 野宿するにはいい場所になるだろう。

それから 夕方になるとお待ちかねのコーヒーを・・イヤ 村長の娘に言葉を習った。


そして・・街を目指す日がついに来た。


出発する前にいつもの散歩でセレネに会いに行くとひょっこり顔を出して

こちらに来るようにと手招きされた。

窓のところに行ってみると 腕を出すように言われて彼女は俺にミサンガのような

バンドを縛ってくれた。

カラフルなバンドで 色と意味の説明をしていたけど 

赤い糸の説明の時は、セレネも赤面症で顔が真っ赤になっていた。

まだ 物の単語しかわからないので意味のある言葉は理解できなかったけど

「私とあなたの運命の赤い糸よ」みたいな話だったりしてね。それはないか・・。


セレネと別れて村の入り口に行くと 街へ行くメンバーが集まっていた。

あまり顔を見たことがないメンバーで 村長の部下の人たちのようだった。

しばらくしても 出発しないのでどうしたのかと尋ねてみようと思ったら

村長が村長の娘を連れて出てきた。


そして 今回の物資の補給には村長の娘も行くと発表したのだった。


普通だったら足手まといになるから みんなからまずい顔をされるだろうけど

村長の娘は 村で一番の美人というかアイドルのような存在のようで、

街へ行くメンバーからは歓声と口笛が上がった。

異世界人はみんな美人だから、俺には、その差がわからないのだけど。

でも 出発には二人の先鋭の護衛が付けられているので心強い。

ヨーゼンたちよりも 体格がよく筋肉質な人たちだった。


「おもい!」

村の外に出ると 世界樹の力がなくなってリュックが重たくなった。

村で作られた工芸品やチーズなんかがいっぱいに入っている。

これを街で欲しい物資に交換しているようだ。

ヤギも数頭連れているので ヤギが逃げないように管理もしなければいけなかった。


だけど 大丈夫。

村の廃墟のところまでは 事前に小人は排除しておいた。

そしてみんなは警戒してピリピリしながら進んでいるけど

世界樹の苗も植えておいたので 俺だけが気楽に進むことが出来た。 

まあ 流れてくる小人は排除できないから襲われるかもしれないけど

斥候(せっこう)の人たちがいるので 小人の群れを発見できないことはないだろう。


そして 本来なら1日以上かかる廃墟の村にその日のうちにたどり着くことが出来たのだった。

斥候(せっこう)の人たちが廃墟を調べて戻ってきた。

小声で数体の小人がいると言ってきた。

でも 斥候の人たちが火種の入ったツボに矢を入れて火の矢を数本作ると再び廃墟に戻って

障害物の影から上手に小人をやっつけてしまった。

この人たちは村人になる前は兵士か冒険者でもやっていたのだろう。

その夜。

水汲みに行くように言われて 何個か井戸を見たのだけど

廃墟だからなのか?

枯れている井戸ばかりだった。

そして 偶然にだけど井戸の側で村長の娘が着替えている場面に出くわした。

俺は物陰に隠れて村長の娘が行ってしまってから 水を汲んでみんなのところへ戻った。

「遅かったな」みたいなことを言われたけど 仕方がない。

先に戻った村長の娘も ニタニタと笑っていた。


次の日


廃墟の村からしばらく進んだところで 斥候(せっこう)の人たちが戻ってきた。

小人がいたのかと思ったけど、そうじゃなかった。

血相をかいた顔で 「こっちに来てほしい」と言われてついていくと

地面が踏み固められている跡を指さして「наводнение、小人だ!」といった。


無数の足跡。


地面が踏み固められて道路のようになっていた。


それは 大量の小人が洪水のように通り抜けた後だった。

まさか この先は・・

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世界樹の実と種で無敵【凶悪小人襲われても俺だけ大丈夫、かも?】 もるっさん @morusan

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