RGB Fairies
@hoge1e3
失われた「色」を求めて
青い空、白い雲
緑色の雑草に、赤茶けた土。
でも、その日は裏山の様子が違った。
真っ黒なワームホールが彩輝の前に現れたかと思うと、あっという間に吸い込まれてしまった。
気が付くと、やはり裏山にいた。しかし、その裏山はすべての色が失われ、モノクロ、グレースケールであった。空も雲も青みがかった様子が失われた。草も土も、うす暗くなっていた。
戸惑う彩輝の前に、3人の妖精が現れた。
「私はレドル」
「僕はグリン」
「俺はブルス」
周りの世界に似つかわしくない、3人とも鮮やかな原色の赤、緑、青であった。
「あ、あなたたちは?」
「驚いたようね。ごめんなさいね、こんなところにいきなり連れてきて」
「僕たちの森を、救ってほしいんだ」
「この森は、悪魔によって色が失われた。それを取り戻せるのは、お前だけだ」
「私が、ですか?」
そう言う彩輝であったが、彼女自身、何か心当たりがあるようだ。
「まず、あなたが召喚者としてふさわしいかを試してみましょう」目の前の木を指してレドルが言った。
「さ、この木の幹の色、色を失う前は何色だったか言ってみてください」
そう聞かれたら、普通は「茶色」などと言うのだろうが、彩輝の答えは違った。
「#9D927Fです」
「さすが、君の共感覚は本物だったね」とグリンが言う。そう、彼女の能力とは、
共感覚——普通は、文字や音などに色がついて感じ取れる能力だが、彼女の共感覚は、モノクロの画像から色を感じ取る、しかもカラーコードで感じ取る能力であった。ちなみに、カラーコードが実際にどんな色になるのかは、次のサイトで確認してほしい。
https://codepen.io/hoge1e3/full/jOrdXby
すると、3人の妖精は木の幹に向かって力を込めた。レドルは9Dの力で、グリンは92の力で、ブルスは7Fの力で。すると、木の幹に#9D927Fの色が戻った。
「じゃあ、葉っぱの色はどうだった?」
ここでも、彩輝は「緑」などと答えることはなく、
「#A9C94B」
と答えた。(先ほどのサイトに#A9C94Bを入力して確認しよう)
妖精たちが葉っぱに力を込めると、葉っぱも見事な#A9C94B色になった。
そのとき、
「素晴らしい!」
という声がした。振り向くと一人の若者がいた。
「頼む! 俺の服も、魔王に色を奪われてしまった。元通りに色をつけてくれ!」
彼の身に着けていたものがどんな色だったかもちろん見たことはないが、彩輝は
「上着は#FF8009、マフラーは#60E828、ズボンは#BA8F37、帽子は#C2C26Fね」
と答えていく。
それに従い、3人の妖精は次々と色を付けて行った。
「おお、俺の着ていたものそのまんまだ! ありがとう……と言いたいところが、すまない、もう一つ頼みがある」
その若者は、彩輝たちを自分の家へ連れて行った。
彼は、家の外壁を指して言った。
「俺はアーティスト。この家だってカラフルに彩っていたはずなのに、どういうことだ、全部色が無くなってしまった」
外壁は確かに色を失っていたが、よく見ると、微妙に濃淡が違うところがあった。彩輝はその濃淡から、元の色を感じ取り、妖精たちに手際よく指示を出していった。
「みんな、ここの丸い模様は#FFA061、こっちの星型は#85EB39 、あっちの文字っぽいのは #EFE618 ……」
ところが、
「おい、さっきから、なんか赤系とか緑系とか黄色系とか、俺の成分が一番少ないものばっかじゃねぇか」
と言い出したのはブルスだった。
「何言ってるのよ、彩輝がその色だって言うならその通りにしなきゃ」とレドル。
「その配色がこのアーティスト兄さんのセンスなんだろ? お前が口出ししちゃだめだろ」とグリンも言った。
「何だと! こうなったら俺のセンスで塗りなおしてやる!」
と言うと、ブルスはありったけの力で、壁を青くしていった。
「やめなさいよ!」
「こうなったら僕らも全力出すぞ!}
レドルとグリンも力を出し始めた。
「ちょっとみんな、ケンカしないでー!」彩輝が止めようとした。
ところが、
「おおお、これは……いいぞ! もっとケンカしてくれ!」
と言ったのはそのアーティストの若者だった。
外壁は、いたるところ強烈な原色系の青、赤、緑、そしてそれらが交じり合った色になっていた。#FF00FF、#00FF00、#00FFFF、#FF0000、#0000FF、#FFFF00………
「このカラフルでヴィヴィッドな壁……俺のアーティスト魂を揺さぶるぜ! ありがとう! この壁にしてくれて!」
「……そ、そうなんですか?」元通りにならなかったけど、本人が嬉しそうだったので、彩輝たちは彼の家を後にした。
すると程なく、1人の老人に出くわした。フードを被っていて、真っ暗に見えた。
「お主ら……さきほどの醜態はなんじゃ」
「誰ですか??」
「わしはこの森の長老じゃ。妖精ともあろうものが、ケンカするなど、もっての他じゃ。お互い仲良く、平和にやっていこうではないか」
「何いってんだこのじいさん?」
「わしの指示通りに、さっきの若者の家の壁を塗りなおすんじゃ。さもないと……」
老人が不気味に語尾を濁らせたので、ひとまず指示通りに若者の家に引き返した。
「さあ、3人とも仲良く、同じ力で、壁を塗りなおすんじゃ」
レドル、グリン、ブルスがその通りに均等に力を出すと、壁が#555555 や#999999 や #AAAAAA になっていく。
「待って。これって……」彩輝が言うと同時に、若者が家から飛び出て来た。
「騙されるな! そいつが悪魔だ! 色を失わせた張本人だ!」
「何じゃと! 今なんと言った!」老人が叫んだ。
「何度でも言ってやる。お前が悪魔だ!」
「違う! その後だ!」
「……?」若者が戸惑ったが、その瞬間、
「くたばれ! 悪魔!」
「あんたにも、色つけちゃうわよ!」
「仲良くしろなんて、聞こえのいいこと言いやがって!」
3人の妖精が、『悪魔』に向かってテンデバラバラな力を込めて、色をつけていく。すると、まばゆい光芒が『悪魔』を包んだ。
「ひどいよぉ、みんな、ひどいよぉ……」
光芒が収まると、そこにはカラフルなフードを被った、小さいネズミが泣いていた。
「ぼくは、ネズミの魔法使い。退屈しのぎに、色を変える魔法を使ってさ、木をぼくの色に染めてみたんだ。ネズミ色って、素敵じゃない? みんな喜んでくれるとおもったんだけど……そしたらさ、みんなこう言うんだよ『木の色が無くなった!』って。ひどいよ、僕の色って、色じゃないのかよって。僕は怒ったさ。怒りのあまり、醜いじいさんになっちまって、やけになって森中のものを全部ネズミ色にしてやったさ。そしたら『この森は、悪魔によって色が失われた』だなんて話になって……作者まで『失われた〈色〉を求めて』なんてタイトルつけやがって」
「だからって、勝手に色を消しちゃだめよ」
「そうだぞ、僕らが色をつけるの大変なんだぞ」
「色があったときを思い出せるヤツを、わざわざ異世界から連れてくるほうがもっと大変だ」
妖精たちがそういうと、ネズミはまた泣き出した。
「あなたたち! そんな言い方しないで!」
彩輝が妖精たちを一喝した。
「ネズミさん、私は、#555555だって#999999だって#AAAAAAだってちゃんと色として見えているから、もう泣かないで……そうだ、お兄さん」
彩輝は若者のほうを向いて言った。
「あなたも、カラフルな色が好きなら、お家の壁に#888888だの#CCCCCCだの#444444だのも塗ってあげてよ」
「そ、そうだな……妖精たち、頼む」
こうして、若者の家の壁には#FF00FF、#00FF00、#00FFFF、#FF0000、#0000FF、#FFFF00………#000000、#FFFFFF、#888888、#CCCCCC、#444444などなど、さらに色々な色が塗られたのだった。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
ネズミは彩輝にお礼を言ったが、
「お礼はいいから、この森をもとの色にしてあげて!」
「それが……」
ネズミはもとの色など覚えていなかった。
結局、まあまあな時間をかけて、彩輝と妖精たちは、森の中に色をつけ、じゃなくて、もとの色に戻して廻ったのだった。その間、ネズミは#FFFFFFい目でずっと睨まれながら。
再び、彩輝の前に真っ#000000いワームホールが現れ、
#3167ADい空、#EDEEF0い雲、#619B27の雑草に、#D0734Dけた土を見ることができたのは、1ヶ月後だった。
RGB Fairies @hoge1e3
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