第13話
翌日、親父と美夜ママに見送られて家を出た俺達。
寧々子は、最初に会った時の制服姿とは微妙に違うな、制服の下は黒タイツとインナーの上下か。
「寧々子は、始業式には出ないんだな」
「ん、先生に呼ばれてる。手続き?」
編入の手続きか?仕方ない。
校長の長い話をスルー出来るのは羨ましい。
まあ、そのせいで早めに行かないといけない訳だが。
俺は特に用事はないけど、心配なので一緒についてる、兄なので。
学校までは歩きだ、のんびり登校しながら、簡単にこれから通う学校について話してると、もう着いてしまった。
校門を抜けると、寧々子はそのまま職員室へ。俺は教室に入るが…流石に誰も居ないな。
仕方ない、寝てるか。
◇
仮眠を取ったお陰か、始業式恒例の校長の話も寝ずに頑張れた。
暇なのはどうにもならなかったが。
こんなの、校内放送で十分だと思うんだけどな。いやそれだと全員が居眠りするか。
教室に戻り、立ちっぱなしで固くなった身体をほぐしていると、何人かの友人が話しかけてくる。
「なあ、今日転校生が来るらしいぜ」
「そうそう、しかも女子だってよ!」
「あー、知ってる」
俺の妹だし。
女子が増えるってだけでテンションが上がってるな。
だが、寧々子に変な虫がつかないよう、俺がしっかりしなければ。
「なになに、圭人君の知り合い?もしかしたら親戚とか?」
「いや、親戚っていうかな~…」
今話しかけてきた琴理は、クラスによくいるコミュ力高い系女子だ。
疲れてる時に絡まれると面倒だけど、基本的にいいやつ。
お、そんな事話してたら先生が来たか。
「よーしみんな、席に着けー。
今日から新しく入った転校生を紹介す――」
ガラガラガラ――バン!
と、勢いよく教室のドアが開き、最近毎日みる中学生っぽい女の子が入って来た。
いや、お前先生が呼んでから中に入る感じだったんじゃないの?
まあ、あのマイペースな寧々子に、段取りを期待するのが間違いか。
「ん、黒井寧々子。よろしく」
「いや、先生が話してたのに、お前は…。
まあいいか…それで、この黒井は――」
「あ、はーい。俺の新しい妹です」
「だからな、お前たちは段取りを無視するな…そう言う訳だから、みんな――」
「みんな寧々子と仲良くしてやってくれよな!」
「お前ら…先生泣くぞチクショウ…」
「ん、よしよし」
落ち込む先生を宥めてる…寧々子は良い子だなぁ。
「い、いもうと!?!?」「おいおい聞いてないぜ?!」「小さいわ!かわいいわ!!」「うおぉぉ!ジト目ロリっ娘ォォォ!!!」
教室が騒がしくなったなぁ…最後に叫んだヤツは、念のため後でシメておくか。
◇
一時間目はHRだ、というか席替えだな。
ちなみに、寧々子はクジに参加できなかった。
一番前じゃないと、黒板が見えないので。
教壇ですら視線を遮るので、最前列の一番右、窓際の席が寧々子の席になった。
ちなみに俺は、最後尾の真ん中あたりだ。
「んで、琴理が隣かー」
「えへへ、よろしくねお兄ちゃん!」
「やめろ、俺を兄呼ばわりしていいのは寧々子だけだ」
「ち、ちょっと冗談よ…今ちょいガチで怒らなかった?」
「そんなことはない」
気のせいだろ、俺だって冗談と本気の区別は付く。
「なになに?出来たばっかりの義妹と離れ離れになって、寂しいの?くすくすっ」
「いや、この位置なら授業中でも、寧々子に悪さする奴が居ないか見張れるからな」
「…圭人君、どうしちゃったの?シスコンになっちゃったの…?ことりさん心配だよ…?」
「失礼だな、俺はシスコンじゃない」
だからな、心配そうな目で俺を見るな。
「大体、仮にシスコンだとしても、何も問題ないだろ?」
「いや、キモいし…」
「あぁ?!お前寧々子がキモイって言うのか!!」
「違うわよあんたの事よ!!」
「なんだ紛らわしい、なら良いか」
「ねえ圭人くん、ほんとに春休み中に何があったの…?」
「父親が再婚して、義理の母親と妹が出来たんだけど?」
おかしいなぁ、春休みに入る前とくらべて、同級生たちが俺に向ける目が違うな?
まあ、いいか。
◇
「ねえねえ、寧々子ちゃんどこからきたの?」
「むー、あっち?」
「本当に高校生?」
「ん、おそらく」
「バナナはオヤツに入れる派?」
「おやつはたい焼き」
「髪の毛さわっていい?」
「ん、やさしくね?」
「きゃ~!なんか小さいしかわいい~!」
休み時間になると、寧々子の席の周りに人垣が出来上がった。
転校生っていう物珍しさか。いや当然だな、寧々子は可愛いし。
だが、この中に寧々子を妬んで意地悪をしてくる奴が、居ないとも限らない。
兄として見守らなくては、可愛い妹のためだ。
「おい、お前ら。質問は一人一回までだぞ」
「なあ、なんで圭人が隣に立って仕切ってんだ?」
「兄だからな」
同級生とそんな話をしながら、寧々子に次の授業の準備をしてやる。
始業式当日なんだから、もうちょっとソフトなスケジュールでも良いんじゃないだろうかと思うんだが、今日はしっかり5時限まで授業がある。
「ほら、次の授業はこのページからだ」
「うん、ありがとう、お兄ちゃん」
「ははは気にするな」
家に居る時のように頭を撫でてやると、ん-っと気持ちよさそうに喉を鳴らす寧々子。機嫌が良さそうだな、今の所クラスでは上手くやっていけそうか?
そういや今まで、あにじゃ・あにき・兄さまとか色々呼ばれてきたけど、お兄ちゃんと呼ばれるのは初めてだな。なんかいつもより呼び方があざといと言うか…。
ん?まわりの同級生たちの、俺を見る目が少し変だな??
「…シスコン」「おい、シスコンだぜ」「まって、ロリコンかもしれないわ」「うそでしょ、圭人君ちょっと狙ってたのに…」「ハァハァ、ねねちゃん…」
ははは、全くこいつらは。
「おい、俺はロリコンじゃないからな」
「シスコンは否定しないんだ…」
「痛いいだい!け、圭人氏アイアンクローは止めっ!!」
とりあえず、危なそうなヤツのこめかみを片手で締め上げながら答える。
「ねえねえ、圭人君と寧々子ちゃんって、いつから兄妹になったの?」
「先週だけど?」
「たった一週間で、こんな…」
「こんなとは何だよ」
やれやれ、
うんうん。
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