第13話

翌日、親父と美夜ママに見送られて家を出た俺達。

寧々子は、最初に会った時の制服姿とは微妙に違うな、制服の下は黒タイツとインナーの上下か。


「寧々子は、始業式には出ないんだな」

「ん、先生に呼ばれてる。手続き?」


編入の手続きか?仕方ない。

校長の長い話をスルー出来るのは羨ましい。

まあ、そのせいで早めに行かないといけない訳だが。

俺は特に用事はないけど、心配なので一緒についてる、兄なので。

学校までは歩きだ、のんびり登校しながら、簡単にこれから通う学校について話してると、もう着いてしまった。

校門を抜けると、寧々子はそのまま職員室へ。俺は教室に入るが…流石に誰も居ないな。

仕方ない、寝てるか。



仮眠を取ったお陰か、始業式恒例の校長の話も寝ずに頑張れた。

暇なのはどうにもならなかったが。

こんなの、校内放送で十分だと思うんだけどな。いやそれだと全員が居眠りするか。


教室に戻り、立ちっぱなしで固くなった身体をほぐしていると、何人かの友人が話しかけてくる。


「なあ、今日転校生が来るらしいぜ」

「そうそう、しかも女子だってよ!」

「あー、知ってる」


俺の妹だし。

女子が増えるってだけでテンションが上がってるな。

だが、寧々子に変な虫がつかないよう、俺がしっかりしなければ。


「なになに、圭人君の知り合い?もしかしたら親戚とか?」

「いや、親戚っていうかな~…」


今話しかけてきた琴理は、クラスによくいるコミュ力高い系女子だ。

疲れてる時に絡まれると面倒だけど、基本的にいいやつ。

お、そんな事話してたら先生が来たか。


「よーしみんな、席に着けー。

今日から新しく入った転校生を紹介す――」


ガラガラガラ――バン!

と、勢いよく教室のドアが開き、最近毎日みる中学生っぽい女の子が入って来た。

いや、お前先生が呼んでから中に入る感じだったんじゃないの?

まあ、あのマイペースな寧々子に、段取りを期待するのが間違いか。


「ん、黒井寧々子。よろしく」

「いや、先生が話してたのに、お前は…。

まあいいか…それで、この黒井は――」

「あ、はーい。俺の新しい妹です」

「だからな、お前たちは段取りを無視するな…そう言う訳だから、みんな――」

「みんな寧々子と仲良くしてやってくれよな!」

「お前ら…先生泣くぞチクショウ…」

「ん、よしよし」


落ち込む先生を宥めてる…寧々子は良い子だなぁ。


「い、いもうと!?!?」「おいおい聞いてないぜ?!」「小さいわ!かわいいわ!!」「うおぉぉ!ジト目ロリっ娘ォォォ!!!」


教室が騒がしくなったなぁ…最後に叫んだヤツは、念のため後でシメておくか。



一時間目はHRだ、というか席替えだな。

ちなみに、寧々子はクジに参加できなかった。

一番前じゃないと、黒板が見えないので。


教壇ですら視線を遮るので、最前列の一番右、窓際の席が寧々子の席になった。

ちなみに俺は、最後尾の真ん中あたりだ。


「んで、琴理が隣かー」

「えへへ、よろしくねお兄ちゃん!」

「やめろ、俺を兄呼ばわりしていいのは寧々子だけだ」

「ち、ちょっと冗談よ…今ちょいガチで怒らなかった?」

「そんなことはない」


気のせいだろ、俺だって冗談と本気の区別は付く。


「なになに?出来たばっかりの義妹と離れ離れになって、寂しいの?くすくすっ」

「いや、この位置なら授業中でも、寧々子に悪さする奴が居ないか見張れるからな」

「…圭人君、どうしちゃったの?シスコンになっちゃったの…?ことりさん心配だよ…?」

「失礼だな、俺はシスコンじゃない」


だからな、心配そうな目で俺を見るな。


「大体、仮にシスコンだとしても、何も問題ないだろ?」

「いや、キモいし…」

「あぁ?!お前寧々子がキモイって言うのか!!」

「違うわよあんたの事よ!!」

「なんだ紛らわしい、なら良いか」

「ねえ圭人くん、ほんとに春休み中に何があったの…?」

「父親が再婚して、義理の母親と妹が出来たんだけど?」


おかしいなぁ、春休みに入る前とくらべて、同級生たちが俺に向ける目が違うな?

まあ、いいか。



「ねえねえ、寧々子ちゃんどこからきたの?」

「むー、あっち?」

「本当に高校生?」

「ん、おそらく」

「バナナはオヤツに入れる派?」

「おやつはたい焼き」

「髪の毛さわっていい?」

「ん、やさしくね?」

「きゃ~!なんか小さいしかわいい~!」


休み時間になると、寧々子の席の周りに人垣が出来上がった。

転校生っていう物珍しさか。いや当然だな、寧々子は可愛いし。


だが、この中に寧々子を妬んで意地悪をしてくる奴が、居ないとも限らない。

兄として見守らなくては、可愛い妹のためだ。


「おい、お前ら。質問は一人一回までだぞ」

「なあ、なんで圭人が隣に立って仕切ってんだ?」

「兄だからな」


同級生とそんな話をしながら、寧々子に次の授業の準備をしてやる。

始業式当日なんだから、もうちょっとソフトなスケジュールでも良いんじゃないだろうかと思うんだが、今日はしっかり5時限まで授業がある。


「ほら、次の授業はこのページからだ」

「うん、ありがとう、お兄ちゃん」

「ははは気にするな」


家に居る時のように頭を撫でてやると、ん-っと気持ちよさそうに喉を鳴らす寧々子。機嫌が良さそうだな、今の所クラスでは上手くやっていけそうか?

そういや今まで、あにじゃ・あにき・兄さまとか色々呼ばれてきたけど、お兄ちゃんと呼ばれるのは初めてだな。なんかいつもより呼び方があざといと言うか…。

ん?まわりの同級生たちの、俺を見る目が少し変だな??


「…シスコン」「おい、シスコンだぜ」「まって、ロリコンかもしれないわ」「うそでしょ、圭人君ちょっと狙ってたのに…」「ハァハァ、ねねちゃん…」


ははは、全くこいつらは。


「おい、俺はロリコンじゃないからな」

「シスコンは否定しないんだ…」

「痛いいだい!け、圭人氏アイアンクローは止めっ!!」


とりあえず、危なそうなヤツのこめかみを片手で締め上げながら答える。


「ねえねえ、圭人君と寧々子ちゃんって、いつから兄妹になったの?」

「先週だけど?」

「たった一週間で、こんな…」

「こんなとは何だよ」


やれやれ、危ないヤツロリコンも居るし、これはやはりきっちりと俺が見ててやらないと駄目だな。


うんうん。

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