第9話

色々と大変だった風呂から上がり、寧々子と二人で夕食を囲む。

今日は銀むつか、なかなか渋いな。そして相変わらず美味い。

学校が始まるのが明後日。なので会話は自然とその話になる。

寧々子は、学校の場所も把握してる。編入などの手続きで既に行ったらしい。

そう言えば、クラスはどうなるんだ?


「んー、2組。同じクラス?」

「同じクラスだ」


普通は兄弟姉妹はクラス別にされるかと思ったけど、そうでもないのか。


「んふ、一緒のクラス、たのしみ」

「おう、俺も同じだ」


寧々子がクラスに馴染めるよう、俺が頑張らないと。





「む、このへんが固い」

「あー、そこそこ気持ち良い…」


夕食の後、ソファーで休んでいると、寧々子がマッサージしてくれる事になった。

今日はバイトが長引いて疲れてたから有難い。

よく美夜さんにも、こうやってマッサージをしてたらしい。あの握力はこうして鍛えたのか…。

どこか猫っぽい妹だけど、そういえぱ実際の猫もこんな感じで寝床の毛布とかをモミモミしてるのを、SNSの動画で見たな。あれは何してるんだろうな、かわいいけど。

しかし、本当に気持ちいいなこれ…。


「兄さん、今日はごめんなさい」

「ああ…どれの事言ってるのか分からないけど、全部気にしてないからいいよ」


玄関で泣かれた事とか、風呂での事とかな。


「住んでたアパート狭かった、いつもお母さん隣にいた。

家族が増えて嬉しいけど、お母さんはお父さんと旅行でいない」

「それだよなぁ。まあ勝手だけど」

「ん、独り立ちさせようとしてる」

「そりゃあ…なる程とは思うけど、また荒療治だな」


俺はどうなんだろう、都合よくあてがわれた?

違うな、親父の事だから何か考えてるんだろうな。


「…俺の場合は、ずっと独りだったから。逆に慣れさせようとしてるのかもな」

「んー、お父さんいたのに?」

「たまに会うけど、仕事でいつも帰るのが遅かったからな。大体一人でご飯食べて先に寝てたよ。部屋も別だし、親父休みの日は疲れて寝てるから、起こさない様にしてた」

「これからは、わたしがいっしょ」

「うん…そうだな、宜しくな」


しかも女の子だしな。妹だし。

ちゃんと、お兄ちゃんやれるか?いや、絶対にやるんだ。





寝るときに、寧々子が俺の部屋にやってきた。


「兄さん、いっしょにねていい?」

「うーん、確認を取るようになったから進歩してるのかな?」


寝てる間に、黙って入り込まれるよりはな。


「まだ、独りで寝るのは…慣れない」


少し遠慮がちだ、普段からのじと目が下を向いて、余計に寂しそうに見える。


「イヤなら、いい。がまんする」

「…嫌な訳ないだろう」


だから、”がまんする”なんて言うな。


「逆に聞きたいんだけど、俺も一応男だぞ?

ほら、エロい事も普通に考えるしな…嫌じゃないか?」

「イヤだったら、こんなこと言わないよ?」


相変わらず、あまり動かない表情だ。でも少し目が潤んでる。

この義理の妹が俺に向けてる好意が、どういったものなのか…俺もちょっと分からない。

そもそも、俺には恋愛の経験がない。元母親の事が有るから。

逃げて来た、といった方が良いかも知れない。

けど、親父は新しい恋をして、素敵な母さんと可愛い妹を連れて来た。

俺も、恋愛事に以前ほどの拒否感は無くなった気がする。


でも、経験がないんだよ。

ぶっちゃけると、本気でこの可愛い義妹が何考えてるか分からん。

それに、クラスメイトと違って寧々子は同じ家に住む家族になったんだ。

この先毎日ずっと顔を合わせる。下手な事して気まずくなりたくない。

うーん…。


「…取り敢えず、ルールを決めよう」

「るーる?」

「といっても、細かい事じゃない。お互いの信念みたいな感じで」

「む、聞く」


あまりガチガチに決めても仕方がない、家族のルールなんて少し曖昧なくらいで丁度いいと思うから。


「一つだけ守ろう。”両親に迷惑をかけない事”だ」

「ん、納得。わかった」


俺も寧々子も、最初からお互いの親の幸せの為に行動してたんだし、これだけ覚えておけばいい。

そうすれば節度を守るし、やり過ぎないだろう。


「じゃあ、布団をもってくる」

「おお…分かってくれたか」


よかった、取り敢えず今日は同衾は避けられそうだ。

まあ可愛い妹を床に寝かせる事はしない、床に寝るのは俺だ。


「うんしょっ」

「いやいや、何故俺のベッドに掛け布団を二組掛けるの??」

「ん、これで寒くない」


逆に暑いだろこれだと。

ベッドの上で、ちょこんと女の子座りしてる寧々子の隣に座る。

目線を彼女に合わせる、これはもう一度、ルールについて諭さないといけない。


「いいか、俺は床で寝るから…」

「兄さんを床で寝かせて、風邪をひいたら…お母さん、悲しむよ?」


…今決めたルールを逆手に取られた!?

こ、こいつ…案外頭の回転が良いな?


「い、いやな、だから。お互い男と女だし、こう…思春期のあやまちとか、な?」

「兄さんは、両親に顔向け出来なくなる事はしない。

じぶんで決めた、よね?」

「え?ああ、そうだな…?」


あれれ…?

俺が決めたルールが、俺の首を絞めている…?


「ま、まあでもさ。ほら、うっかりって事も…」

「ん、だいじょうぶ、安心して――」


寧々子の口元が吊り上がった。微笑んでるのか、笑ってるのか。

ベッドの上を膝立ちで歩いて、俺の耳元まで顔を寄せて来た。ウェーブ掛かった髪が、俺の肩に触れてる。


「――ちょっとなら、だまっててあげる」


耳元に、息が掛かった。

そっか、親にバレなきゃ問題ないよな。


…そういえば、出会った初日に、美夜さんが何か言ってたなぁ。

ああ、そうだ。思い出した。


”ごめんなさいね、


…まさかな。

この、成長期をどっかに置き忘れた感じの寧々子も?

畳んでる途中の洗濯物の上で、昼寝してた寧々子が?

今だって、俺の服にぐりぐり顔を擦り付けてくる、この義理の妹が?


「ん、眠い。はやく布団に入る」

「うん?お、おお分かった…いや寝にくいな!?掛け布団二組!!」

「文句を言わないで」

「え、はい」


さっさと布団に潜り込み、丸くなる寧々子。


…まあいいや。これ何回言ったかわからないけど、まあいいや。

それに、あんな事を言ったけど、寝るときに誰かが傍に居るっていうのは、安心する。

俺も自分じゃ気が付いてなかったけど、今まで寂しかったのかもな。

この先どうなるかは分からないけど、暫くはこんな感じでいいか。


「おやすみ、寧々子」

「ん、おやすみなさい、兄さん」











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