第8話

~前回までのあらすじ~


バイトを終えて帰宅する新米兄の圭人。

疲れからか、不幸にも黒猫系義妹の母親に欲情してしまう。土下座して全ての責任を負った圭人に対し、美夜の娘、寧々子が言い渡した示談の条件とは…。



いや、すまない。目の前の出来事に現実逃避してた…。


今俺はどうしてるのか?義理の妹と風呂に入ってるんだよ。

人生って、分かんねえなぁ…。





「お母さんだけ家族風呂、ズルい。こっちも家族で風呂に入るべき」

「いや、何でそうな――」

「兄さん?」

「い、いえおっしゃるとおりです!!」

「む、分かればいい」


そんなやり取りをして、現在。

丁度、美夜さんがやってたように、身体にバスタオルを巻いて一緒に入っている。俺は腰だけ巻いてる。


「…二人でも思ったより、ゆっくり入れるな」

「かいてき~、んふ」


俺は平均的男子高校生の体格だけど、寧々子はぶっちゃけ小学生か中学生くらいの背丈しかないしな。

そのボディも、置き場所に困らない薄型設計だし。


しかし寧々子は機嫌良さそうだ、よかった…あのままだったらどうしようかと思った。怖かった…。

そういえば風呂嫌いじゃなかったのか?


「きょうは、お風呂のきぶん」

「別に嫌いではないんだな」

「む~、洗うのはめんどう」


なるほどな。

そういえば、11月26日は語呂合わせで【いい風呂の日】だったっけ。

いや、今は4月だから関係ないけどな?言わないといけない気がして。


「じゃあ、頭だけ洗ってやろうか?」


バスタオルの防御力が俺の想定以上だったから、その位の余裕は出来た。


「いいの?」

「頭だけな、流石に身体は無理だけど」

「それはまだいい」

「まだって何だ…」

「成長してから」

「成長かぁ…」


胸の話だろうなぁ。

成長期、来るのか?

まあ、寧々子の場合は、”貧乳”というより”無乳・零乳”だから、減る事はない。

前向きに言い換えれば、成長の可能性しか無いわけだ。

本人には言わない、俺は妹を傷つけたくないからな。


湯船から上がり、後ろから妹の髪をわしゃわしゃ泡立てる。


「あわあわ~」

「かゆい所ある?」

「ん~、うずまきのあたり?」


なるほど、ここが良いのか。

お兄ちゃん、おぼえたぞ。


ぬるめのシャワーで流してやると、頭をぶるぶる振って水気をとばし始めた。


「冷たいつめたい!」

「ぬ、兄さんごめん」


洗い終わった髪を手早く髪を纏めていく寧々子。髪の毛全部上げると、うなじが良く見えるな。

…ちょっと、色っぽいと思ってしまった。


「さっぱさっぱ」

「そうか、よかった」

「ん、兄さんありがと」


色っぽさに、可愛さが上乗せされた。

…ちょっと油断してた、やばいかも。

いや、大丈夫。俺はお兄ちゃんだからな。


「ん、今度はわたしが洗う」

「おお、そうかありがとう」

「ここ、すわって?」

「おお…なんで前から洗うの?」


やりにくくない?


「後ろは顔がみえない、あわが目に入る」

「ああ…そういうもんかな?」


まあいいんだけど。

あとそれ、寧々子のシャンプーとコンディショナーじゃね?


「なあ妹よ、俺のシャンプーは?」

「カラだった、ざんねん」

「そっかー、買ったばっかりだった気がしたけど、明日買いにいくか」

「ぬ、買う必要ない、わたしと同じにすればいい」

「そ、そおか?」

「んむ、経済てき」


…まあいいか、この妹の行動原理を完全に理解するのは無理だ。


「ん~ふふふ~♪」

「あー、そこそこ、うん…」


…真正面だと、色々見えそうで危険だな。

迂闊だった、バスタオルがタイトスカートみたいになってるから、脚の奥とかやばい、かなりヤバイ。

そして、もうひとつ。寧々子が手を動かすとタオルが少しずつ下がる。

多分、引っ掛かる場所が無いからだ。

…まあ、普通に注意するか。


「おい、寧々子。タオルずり落ちるぞ…」

「ぬ、兄さん持ってて」

「…そうきたか」


仕方ない、持つよ。

なんか、そんな気はしてたし。

…なんで俺は、同い年の女の子のタオルを、下がらないように押さえてるんだろうな。

順応してんな、俺。


「流していい?」

「ああ、分かった。目閉じてるから」


やっと、妹のタオルを押さえるバイトから解放されたか…。


んー、ちょっとシャワーの温度が俺には俺には温すぎるな。

あと、なんだ?うまく頭にお湯が掛かってない気が。


「おーい、ちょっと温度上げたいから一回止めて…」

「待って!今こっちみないで!」

「んん?!あ、ああ…??」


なんだ?シャワーベッド放り出して、浴室出てったけど。

なんだか、化粧ガラスごしに肌色が見えるな。

…あいつ、タオル全部脱げたな。

慌てると、あんな悲鳴もあげるのか、寧々子は…。


俺は、お湯が出しっぱなしで暴れるシャワーヘッドを拾うと、自分でさっと泡を流し、そそくさと湯船に入り背中を向けた。


「…ん、お待たせ」

「お、おう…寒いから、早く入れる」


…なんか、ちょっと気まずいな。


「兄さん、もう少し寄る」

「お、おう」


いや、なんでこっちに来る。

そう思ってたら、浴室の縁に何かセットしてるな…あれ、スマホか?

防水なんだな、いやそうじゃなくて。


「寧々子、何してんだ?」

「ん、お母さんにテレビ電話する」


ああ、さっきは話す前に切ったからな。

…いや、何で今??


「ちょっと動かないで」

「え、ああ分かった…?」


俺に背中を預けて、湯船に入り直す寧々子。

丁度、俺が抱き抱えてる形だ。

お、電話が繋がった。

…まて、いやまて。


「いえーい、お母さんみてるー?」

「お前こんな事で母親に対抗してんじゃねえーーー!!はーーなーーれーーろーー!!親父に見られるからーーもーーーう!!」

『あらあら、あなたーーー!子供たちの新しい成長の記録よーーー!!』


やめて!親父を召喚しないで!!


「でんわを消せーーー!!」

「だめ、ふふふ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る