第6話
起きると、義妹は俺とソファーの背もたれに挟まる形で寝てた。
おかげで、俺が落ちそうだったけど…。
しかし、よくこんな狭い場所に挟まれるな。
「ん…いまなんじ?」
「起こしちゃったか、ごめんな。2時過ぎたところ」
変な体制で寝てたから、背中が痛い…。
しかし、もう午後2時か。バイトも学校も無いから、ちょっとだらけ過ぎてしまったか。
「夕飯は少し遅めでもいいかな」
「ん、時間はあにきにあわせる」
また呼び方が兄貴になってるな。
「豚バラがあるから、それで何か作るか」
「豚肉…にするの?」
「ん、なんだ豚は苦手か?」
「おさかなは好き、苦手はない」
まあ魚が好きなんだろうなってのは分ったよ、初対面で。
そういや、今日は別にマグロの臭いさせて無い筈だけど、変わらず噛みついたりしてきたな。その辺はあんまり関係ないのかな?
「わたし、さかな以外料理できない」
「…え、冗談だろ?」
「ぬ、無理」
いやいや、あれだけ出来るならいくら何でも。
「味噌汁は?」
「あら汁なら」
「カレーは?」
「サバカレーなら」
「チャーハン…」
「サケチャーハン」
「なんでだよ」
「お魚以外の、火加減分からない。
焦げたり、生だったりする」
…さっきまでの俺の劣等感を返せ。
「ぬ、下ごしらえは手伝える」
「…まあ、もともと俺が作るつもりだったし大丈夫だ。
昼飯は任せたんだし、夕飯は俺が作るよ」
「ん、助かる」
まあ、おかげで俺は、多少お兄ちゃんとしての威厳を保てるから良いけど。
お互いの出来る事と出来ない事、これから知っていかないとな。
◇
俺が作った無難な夕食を終える。
いつもは大体ひとりで夕食を済ませて、部屋に戻って気ままに過ごしてたけど、今日は寧々子が居る。
彼女を残して、一人そそくさと部屋に引っ込むのは気が引けたので、そのままリビングで一緒にテレビを見たりしてる。
普段テレビなんて見ないから、ドラマだと内容が分からない。適当なバラエティー番組を見てる。でも、あんまり面白くはないな…。
時間的に、そろそろ風呂に入ってもいいかもしれない。
少し早いけど、女の子は風呂長そうだし。
とか思っていたらまた問題が。
「むー、お風呂入りたくない」
「…本気か?」
牛乳を飲みながら、そんな我が儘を言い出す義妹。
入れよ…お前小学生じゃないんだから。
「めんどう、三日に一回でいい」
「駄目だって、頼むから毎日入ってくれ…」
なぜ俺は、同い年の女子高生を風呂に入るよう説得してるんだ。
「別にくさくない、嗅いでみて」
「いや、そういう問題じゃなくてだな…」
「いいから嗅ぐ」
「あ、はい」
…なんで俺は、義妹の臭いを嗅いでるんだろう。
恐る恐る寧々子の頭を嗅いでみるが…うーん。
なんだろうな、汗臭くはないけど、この甘ったるい匂い。
「なんか、女子の体臭と牛乳がまざったような匂いがする」
「…やっぱり入る」
よかった、一応恥じらいも持ち合わせてたか。
でも、ちょっとしょんぼりしてるな…。
「別に不快な匂いではなかったけどな」
「じゃあもっと嗅ぐ?」
「いや妹の臭い嗅ぎまくる兄って変態だろ、やらないよ」
「わたしは大丈夫、あにきが変態になるだけ」
「それが問題だって言ってるだろ!?」
まあ、取り敢えず風呂には入ってくれ、頼むから。
◇
とりあえず女の子から、という事で寧々子から先に風呂に入らせた。
リビング、一人だとやっぱり静かだよな…。
ちょっと気まぐれ過ぎる義妹だけど、居ないと寂しいな。
正直にいえば…まだ家族という実感はないと思う。昨日の今日で気持ちの整理はついてない。
でも、美夜さんと一緒の親父は、本当に楽しそうだ。あんなのは何年ぶりだろう。
だから、俺に出来る事で協力していこうと思ってる。
兄というのが何なのか、実際の所分からないけど、精一杯お兄ちゃんしないといけないな。
間違えても、あの義妹に嫌われる事はしないように。
そう、例えばえっちなのはダメ、ぜったい。
だから、もうちょっと手加減してくれと思うんだけど…。
俺が巨乳派じゃなければ、何度ピンチを迎えていたことか。
そんな事を考えて居たら、ドタドタ騒がしい足音が。
もう上がったのか、早いな。
「あにき、シャンプーがない」
「言ーーーってるそばからぁ!!お前だから服を着てこいよぉ!!!!」
「ん、タオルで隠してる」
「隠すならもっとでかいバスタオル使え!!それ手ぬぐいサイズのやつ!!」
前だけはバッチリ隠れてるけどな!!
うん?あのサイズで隠せるのか?…そっか。
いやいや、うしろが危ない!
「お、お前…いいか、そのままだぞ。絶対に後ろ向くなよ…?」
「ん、うしろ?」
「だからダメなんだよ!!もおおお!!!」
フリじゃねえんだよ!!そういう前フリじゃないの!!
ああー俺はお兄ちゃん!!お兄ちゃんだ!!
そして巨乳派、貧乳には屈しない、屈しないぞ…。
「なぜ、目を閉じてるの?」
「瞑想中だ。ていうかシャンプー風呂場に無かったか?」
「ちがう、わたしの」
「そんなのは知らないぞ…」
なぜ俺に聞く。
「わたしの部屋にある」
「入る時に持って行けよ…」
「忘れてた」
はあ…まあ仕方が無い。
「持ってくるから、お風呂で待っててくれ」
「ん、わかった、ありがと」
「よし、じゃあ俺に背を向けず、ゆっくりと刺激しない様に後ずさるように風呂に…」
「むー、さむい」
「ひとのはなしを聞けよお!!って、あれ??」
なんか背中とか尻の部分に、白いモコモコが。
泡か、ボディーソープの泡だな。
あぶない部分はギリ見えなくなってる。
はぁ~…。
「…廊下、泡だらけだなぁ」
…後で拭かなきゃ。
ちなみに、寧々子の部屋は綺麗に片付いてて、パステルカラーな女の子の場所になってた。
◇
翌日。
義妹が来て、今日で三日目だ。
寝るときは居なかった寧々子が、朝起きたら俺の布団の中で丸くなってたという、多少のハプニングはあった。
起きたら寝汗が出てたが…暑い、体温高いんだな。
冬場はいいかもしれない。
それで、今日は俺のバイトの日。帰ったらまた噛みつかれるかもしれないが…今更だな。
手袋して作業してるんだけどな?匂いわかるの?
もっとしっかり手を洗ってから帰ろう。
「3時くらいに帰るから、その辺で買い物とか、適当に過ごしててくれるか?」
「…わかった、3時」
「鍵はちゃんと掛けろよ。ああ、家に居る時もだぞ」
「むう、わかってる、子供じゃない」
…今日は少し機嫌が悪いかな?
おっと、バイトに遅れる。
「じゃあ、いってきます」
「…いってらっしゃい」
うーん、やっぱり機嫌が悪そうだ。
帰ったら何かで、ご機嫌とらないとな。
◇
まいったな、今日は早く上がりたかったのに…もう六時か、夕飯が遅くなってしまう。
先に食べててもいいって連絡したかったけど、寧々子の携帯電話番号、聞くの忘れてたからな。
いや、あれだけ色々やられればタイミング逃すだろ。
玄関の鍵はちゃんと掛かってるみたいだな、家に居るか分からないけど。
「ただいまー!…って?」
玄関の廊下に、初めて会った日と同じように寧々子が座り込んでいた。
違うのは、服装が私服なのと、泣きはらした真っ赤な瞳…?!
「う…うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「え?な、なにかあったのか!?」
玄関を上がる間もなく、寧々子は勢いよく俺の胸に跳びついてきた…?!
なんだ?何か不味い事が起きたのか?!
「三時に、帰るって言ったのに!いったのに!!」
「ああ…ごめん遅くなって…」
俺の帰りが遅くて、心配してたのか。
もしかして、俺が帰るまでずっと…ここで待ってたのか?
玄関先で、一昨日と同じ様に…。
「うう、ひっく…もう、帰って来ないと思って…」
「い、いや…俺の家は此処だぞ?帰らないわけないだろ…」
駄目だ、しがみ付いたまま…泣いて、離れない。
なんでだ?そんなに寂しかったのか?
そりゃ、今は親父と美夜さんは居ないけど…。
「でも…お父さんは、帰らなかった。家族なのに…帰ってこなかった…」
「…それは、寧々子の父親の事か?」
寧々子は、一瞬動きが固まったけど…俺にしがみ付いたまま、ゆっくり一回だけ頷いた。
「…お母さん、再婚して、本当に幸せそうだった。あんなに笑ってるの、すごくひさしぶりに見た。
でも、前のお父さん、わたしが駄目だったから…出て行っちゃった、から。
もう、家族に捨てられるのは、嫌です。
もう、わたしのせいで、お母さんを悲しませたく、ないです。
悪いところ、直します。ちゃんと、妹やります。
だから、キライにならないで、ください。
…わたしも、お母さんも、捨て猫じゃない…そんなこと、もう言われたくない、です…」
…自然と、俺が寧々子を抱きしめる手に力が入った。
「…兄さん、少し痛い」
「…あ、ごめんな。手、離したほういいか?」
「んん、やっぱり…もう少し強く
、して」
「…ごめんな、不安にさせて」
うん…そっか、俺も寧々子も、お互いに連れ子だったよな。
寧々子も…俺と同じか、似たような境遇なんだ。
お互いに避けてたからか、前の親の話はしてない。
そうやって、触れてこなかったのは失敗だ。俺は寧々子の、お兄ちゃんになったのに。
でも…。
捨て猫だって?昔、誰かに言われたのか?
何処の誰だ、そんな酷い事を言ったのは。
俺の妹に、言ったのか?
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