第8話『アダムのルーター』


連載戯曲


ダウンロード・8『アダムのルーター』





ノラ:……アダムのルーター(しばらく見つめているが、そっと自分の耳に装着する)

 ……さすがに最高級品……振動もショックもない。

 ……あ、アダムのメモリーに繋がった!?(一度抜いて、再びためらいながら、耳に入れる)

 ……このバーチャルファミリー、本物の孝之助さんがつくったんだ。最初は半分ジョークのつもり……

 事業に成功して……ずっと独身だったから、人からいろいろ縁談をもちこまれて……

 まあ、お金持ちのお嬢さんやら、タレントさんやら……

 ハハハ、それを断るためにバーチャルファミリーをこさえて……

 そして、あの地震で死んだことにしたんだ。

 ……すごい、一日ごとに家族三人の生活を書き込んでる……習慣とか、細かい体の特徴とか……八歳で盲腸。

 ……うん癒着して大変だったんだよね。

 ……え、わたし出ベソ!?(自分のおヘソをさわる)

 ……ほんとだ。出ベソのオードリー……フフフ。

 ……このケーブルつないでリセット押したら、ブロックが解けて、わたしの本来の記憶がよみがえる(つなぐ、電気の流れる音がする)

 ……すべてのサーバーが起動した……血の流れる音に似ている。

 ……この状態で全てオフにしたら動力サーキットを切ることもできる。

 ……自殺回路だ。

 お父さん、これにタイマーをかけたんだ(いったん、ケーブルを抜く。電流音とまる)

 どうしよう……ようし、星が一つ流れたら、ブロックを解除する。二つ流れたら、このまま何もしない。

 三つ流れたら……自殺回路……


 間、じっと夜空をにらむノラ。やがてキョロキョロと夜空を探す。


ノラ: そんなに都合よく星は流れてくれないよね……

 それにハンパよね「このまま」という選択肢をいれるのは……

 よし、コインの裏表で決めよう!

 表が出たらブロック解除。裏が出たら自殺回路……

 背水の陣、ケーブルでつないでおこう(電流音)

 いち、にの、さん!……(勢いが強すぎ、天井につきささる)

 天井にささちゃった……

 もう一度、別のコインで。いち、にの、さん!……

 ハッ! ハッ! ハッ!(無意識のうちに、曲芸のように空中でコインをさばきつずける)

 ……わたしって、やる気あるのかしら……

 あ!(コインに気をとられ、よろめいて、マシンのリセットボタンを押してしまう)押しちゃった!

 ……リセットボタン……すべてのブロックが解除される!


 唸りをあげてフル稼働するマシン。ランプが赤や黄色に点滅する。いつもに倍するスパークと振動音……ゆっくり顔をあげ、目を開くノラ。その顔に幸子の面影はない。不思議な笑みをうかべつつ、ブラウスを脱ぎ、スカートを落とし、ノラ本来の姿になる。いたずら好きな少女のようなイデタチ。同時に、ハンガーのあらゆる開口部に、防護シャッターの降りる音。モニターが起動し、慌てふためいたオーナーが現れた様子。



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