第7話『ロボットの星』

連載戯曲 

ダウンロード・7『ロボットの星』 



  

ノラ: 見ていたの?

 そう……手を見せてくれる。広げて……ちゃんとあるのね……とっくに食いちぎられていると思ったわ、お父さんの手。

 ……そう、幸子のままよ、わたし。メモリーがどうにかなっちゃって消去できないの。

 ……お話し?……あまりしたくない(去ろうとするが、父の一言で立ち止まる)……!?

 ……うそ、お父さんもロボットだなんて……

 本物は四十五年前に死んだ……

 カリスマだったから、ロボットの影武者で……

 そう……後継者が育つのを待って交代する予定だった……

 四十五年待って……とうとう百二十五歳。

 ……ボデイの能力はプラスマイナス二十歳……そうでしょうね。わたしでもプラスマイナス十歳……

 いつまでも化けていられないわね。お父さん、ギネスブックにものっちゃったものね……

(父が何か小さなものを手渡す)なにこれ?……最高級のルーター!?……お父さんの!?

 ……そりゃ、これがあれば、どんなブロックも解除して接続できるけど。お父さん、ボケちゃうよ……

 いらない?……だってお父さん、松田電器の……会社のむつかしいこと処理したり、決定したりできなくなるわよ……もういい。

 ……そりゃ、百二十五歳の現役なんて不自然だけども。いいじゃない一人ぐらい、そんなスーパー老人がいたって。

 ……人が育たない?

 そんなの人間のせいでしょ。幸子や、お父さんが責任持たなくても、人間がもっと努力すればいいことでしょ!

 ……そのためにも。

 ……どうしたの、ひどく顔色が。

 ……動力サーキットをブレイク!?

 ……死んじゃうわよ、お父さん!

 ……昨日わたしと会って決心がついた。

 ……そんな、そんなの悲しいわよ、悲しすぎるわよ!

 わたしのハンガーに来て、わたしのマシーンにコネクトすれば、わたしの動力サーキットが使えるわ。

 ……お父さん、しっかりしてお父さん!

 ……え、名前を聞いて覚えて欲しい。お父さんのほんとうの名前?

 ……アダムっていうの、お父さん。

 アダム……とってもいい名前よ! 

 ……わたしにだけに覚えていてほしい。

 ……うん、忘れないわよ、忘れはしないわよ。

 死んじゃいや! 死んじゃいや! お父さん! アダム……!


 暗転、なにかを消去するような電子音。明るくなると、ノラのハンガー。三角座りした膝の間に頭を埋めるようにして、グッタリしたノラ。ノラの手には、マシンからのびたケーブルがつながれている。


ノラ : ……だめ。やっぱりわたしは松田幸子。

 ……消去できない。

 ……いいのよもう(ケーブルをはずす)なんならスクラップにして新しいアンドロイド買ったら……

 わたしなら、もういいの……もう疲れちゃったし……

 へん? ロボットがこんなこと言うなんて……

 優しいのね……って言ってあげたいけど。オーナーも余裕ないんでしょ? キッチンひとつつくれないんだものね。

 わたしが、本当にスクラップになったら、どうする気?

 オーナーのことなにもわからないけど、あまり前向きな人じゃない……

 でしょ……中古のアンドロイドの稼ぎで生活してるんですもんね。

 ……いいわよ、今夜はもう休んでちょうだい。わたしは、とりあえず明日はこのままでいけるから、幸子の演ずるオードリーで。

 ……うん、わたしもスリープモードにして、お肌の疲れを癒すわ。

 ……じゃあ(オーナーとの交信を切る)

 ……あ、流れ星……

 あれ、お父さん……アダムだ。

 ……ロボットが星になったって……いいよね。

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