第6話『ロケ』


連載戯曲 

ダウンロード・6『ロケ』 





  

 マシンから、仕事のメモをとり、ドアを開けて飛び出して撮影現場に着く。


ノラ: お早うございます。

 オードリーをやらせていただきます、松田幸子と申します。

 ええ、アンドロイドです。

 オードリーのパーソナリテイーはダウンロードしてませんので、そっくりというわけにはいきませんが……

 え、そのほうが……はい、ありがとうございます……

 これが台本(ぱらぱらとめくる)わかりました。

 ハハハ、ロボットですもの理解は早いです。相手役の方は……

 ああ、CGのハメコミ……いっそ、わたしのもモーションキャプチャーにしたら……

 ああ、アナログの新鮮さで勝負。それにわたしのイメージが……

 苦悩を内にひめた無邪気さが。ハハハ、ありがとうございます。おほめいただいて。

 ……いきなり本番!? リハーサルなし?……ドライもカメリハも。……その方が新鮮……

 はい。でも、だめなら撮り直してくださいね(いきなり、後ろからアイスクリームをさしだされ、驚く)

 わ……アイスクリーム!(無対象) ありがとうございます。差し入れですか?……え、小道具。ほんとシリコンゴムだ…… 

 ああ、スペイン広場のシーンですね……はい、本番。



 BGM入る。ノラは、階段の手すりを示す柱に腰掛けて、アイスクリームを舐める。後ろから階段を下りてきたグレゴリー・ペックが声をかける


 あら!……また、お会いしましたわね……

 え、ええ、今日は、もう学校お休みしようと……抜けだしてきちゃったから。

 だって、こんなに空は青いし、雲は白いし……とってもすてきな朝でしょ。

 あなたにはわからないでしょうけど、自分の思うように、いろんなことがしたいの。

 だれにも束縛されないで。アイスクリーム舐めたり、カフェに座ったり、ウィンドショッピングしたり、雨の中を歩いてみたり。

 ……親が心配?……一日だけのことだから。それに、父も母も忙しくしているから……気が付きませんわ。

 親の仕事?……んー……一種の広報係です。父も母も……その……人を接待したり、あいさつしたり。

 ……愛情は……ええ、もっていてくれていると思います……でも、とても古風で、厳格な家庭だから……

 あなたは……もう、お仕事の時間……

 え、あなたも時間が空いていらっしゃるの!? ほんとうに!?

 ええ、ぜひ!……ああ、ちょっと待って……(アイスクリームのコーンのヘタを、ゴミ箱の投げ入れる)やったー! ストライク!

 ……OK?

 ちょっとメーク直しますね。

 次は祈りの壁、続いて真実の口……

 はい、本番……(長い壁を見あげつつ歩く)……これが……祈りの壁。

 お花がいっぱい……そう……空襲で火に追われて、ここまで 逃げた母子が、神様に祈り続けて命がたすかった……

 それが、この壁の下。

 ここね……それで聖地のようになって、お祈りする人が絶えない……いいお話しね……(なにごとか祈る)……内緒です。

 ……ここは……古いお堂のよう(鉄の柵を開ける音)……かびのにおい……「真実の口」?

 ……嘘つきが、この口に手を入れると食いちぎられる?……え、わたし?

 ……大丈夫、わたし嘘つきじゃないから……(一二度ためらって手を差し入れるが、すぐにもどす)

 エへ、エヘヘ……次は、あなたの番よ……そう、嘘つきじゃないんでしょ、あなも……



 グレゴリー・ペックの動きをドキドキしながら見守る。突然手を噛まれるグレゴリー・ペックの悲鳴! オードリーは悲鳴をあげ、渾身の力で彼の腕を引き抜く


 キャー! 手、手が……え!?(上着の袖からニョッキリ手が 出てくる)袖の中に手を隠していたのね。

 バカバカバカ……本気で心配したじゃないの!……OK?

 ……んー……でしょうね。ここはやっぱり相手役がいないと。モーションキャプチャーでも……そう、明日撮り直します? 

 はい、わたしはかまいません。同じ時間にここで……はい、おつかれさまでした。


 くるりと振り返り、ギョッと驚く。 

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