第3話『三つ子の魂……』
連載戯曲
ダウンロード(改訂版③) 『三つ子の魂……』
ノラ: あのね……病人さんの相手する時は、最低の医療知識ぐらいロードしといてよね。
サヤカ婆ちゃん、死んでしまったわよ。
わたし、アイシーユーも、心臓のモニターもわからなかったわよ……
え? 先方さんは喜んでた!?
……そう……あの……ノラって名前、なんとかならない?
わたしの名前。ノライヌ、ノラネコ、ノラロボット……なんか落ち込んじゃうよ……
え? いずれはイプセンのノラみたいにたくましく独立してもらいたいから?
よく言うよね……ずいぶん健康的に笑ってくれるわね……白い歯してんだ、あなたって……
ううん、なんでも……ね、どうして、この部屋のこと、ハンガーっていうの?
なんだか洋服ダンスの中の洋服か、航空母艦の中の飛行機になったみたいで……せめて、ルームとか、ネストとか……聞いてる?
次? もう次の仕事……はいはい。
(マシンが、はきだしたプリントを見る)……あのね、わたしの能力は、二十五歳プラスマイナス十歳だって言ったでしょ!
なにーーーーーこれ!? 五歳の女の子、それも三つ子!?
わたし、体ひとつっきゃないのよ!
……え……現場には行かない? モニターで……でもね……わかったわよ。
秋園くずは……若手の女優さんね……
えーーー! 三つ子の隠し子がいたの!?……火星ツアーに出る前に娘たちに会っておきたい……マネージャーの気配り。
……でも、この三つ子、日本とドイツとアメリカに里子に出されてるんでしょ。
わたしの言語サーキット、パンクしちゃいそう……(柱のボタンを押す)
ね、どうして本物よばないの? モニターに出るんだったら、簡単じゃない……会いたくないって?……三人とも……ふーん……
柱から衣装を出し、着替える。三人を演じ分けるため、ベースの服は同じ(サヤカの衣装から、リボンをとって、スモックを着ただけ)だが、帽子、めがね、マフラーなどがついている。
ノラ: よいしょっと。これって、三人分のギャラ出るの?……内緒?……働くのはわたしよ。
もうかったら、キッチンつくってよキッチン……さて、ダウンロード……
スパーク、振動。上から、モニターの四角い枠がおりてきて(黒子が運んできてもいい)ノラの上半身をおさめる。モーツアルト、カットアウト。最初は黄色の帽子をかぶっている。
ノラ: お母さん、元気? ミミだよ。
なつかしいね、ちょっとまってね……(くるりとまわって、帽子なし、めがねをかけている)
ハーイ、マミー。アイム、モモ。
アーユーファイン?……オー、アイム、ファイン、トゥー。
アイム、ハッピィー、トゥー、スィー、ユー。
ジャスト、モメント……(くるりとまわって、めがねなし、マフラーとクマのぬいぐるみつき)
グーテンターク、ムーテイー。
イッヒ、ビン、メメ。ダスイスト、マイネン、クマチャン。
ヤー、ダスイスト、マイネン、オタカラ。クマチャンプッペ。マイネン、オタカラ。
ヴァルテン、ズィー、ビッテ……(ミミになる)
うん、こっちのお母さんも優しいよ。でも、ないしょだけど、ちょっと甘やかしすぎ。
わたし、今も、お母さんの子だと……(モモになる)
ジャスト、ナウ。アイム、ゴーイング、トウー、ヨウチエン、ウイズ、ソー、メニーフレンズ。
……トム……メアリー……シンデイー……キャンディー……ブッシュ……オバマ……トランプ(ミミになる)
ないしょだけど、お母さんの写真、ロケットにいれてんの。
ロケットっていうと、お母さん、今日乗るんだよね、火星行きのロケット?……(モモになる)
アー、ユーゴーイング、トウー、マース? フォー、イベントツアー? オー、エキサイティング!……(メメになる)
ムーテイー、フェアガイスト、ホイテ?……(ミミになる)
えー! とうぶん帰ってこないの!? ミミ淋しいよ……(モモになる)
オー、アイム、ソーロンリー! マミー……ホワット?……
(メメ)エス、イスト、ツアイト!?……ムーテイー、アウフビーダゼーエン……
(モモ)アイ、ラブ、ユー、グッドバイ……
(ミミ)さよなら、さよなら、さよなら……
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