第2話『あたし……ってゆーか サヤカ』

連載戯曲 

ダウンロード・2『あたし……ってゆーか サヤカ』





 ソケットに指を入れる。スパークと振動。おさまると、ガラッと性格が変わっている。

 ポケットから二十一世紀初頭の携帯電話を取りだしてかける。


ノラ: ……ドモ、うん、あたし……ってゆーか、サヤカ。うん、そそ。八十年前のあんたのお母さん。

 タクマでしょあんた? あたしの息子。うん……今からいくからね。オッケー、待っててね!


 ウォークマンをシャカシャカいわせながら、ハンガーを出る。モーツアルトのBGMカットアウト。

 舞台をルンルンで半周し、現場につく。


ノラ: オッハー! サヤカでーす。よっろっしっく!

 え、声大きい? だって地声だもんあたし、しかたないじゃん。

 え、病院? ここ? おじいちゃんタクマだよね。あたしの息子。

 こっち……嫁さん? ウッス……ヘヘずいぶん若い嫁さんじゃん。

 え……孫の? オバチャン、娘さん。ミナミだよね、むかしBKB47にいた……見る影もないね……よけいなお世話。だよね。

 ま、ヨロシク、エブリバディー!

 こっちね、サヤカ?……ん、アイシーユー。

 ……ってなに? 

 え、気にしなくっていい?

 よっしゃ!(入る)

 ウッス! 元気してる?

 ……んなわけない。ヘヘ、病院だもんね。

 個室でいいけどさ、なんか機械ばっかね……

 どォ……なつかしい?

 昔のサヤカだよ、かわいいだろ。

 え、肌が荒れてる? しかたないよ、昔のサヤカはこうだったんだから。

 ね、このケータイ見てよ。ほら、ここ押すと……

 ヘヘ……サヤカが援交してたオッサンどもの一覧表。

 なっつかしいだろお!?

 こいつこいつ、文科省のチョーエライやつだったんだけど、へんなクセあってさ、割り増しもらってんの。

 ……こいつ、見かけマジメなサラリーマン風なんだけどさ、ナントカって病気うつしたんだよ、あたしに。

 ん……なんかアラーム?

 大丈夫だよね、サヤカ? 

 ね、右のまぶたのキズおぼえてる? ほら、あたしもここに……

 あったりまえだよね、同一人物だもんね。

 ここ、ヨシミとタイマンはったときのキズ。

 あいつのケリがまともに入っちゃて、目のとこにドカッとさ。

 ハハハ、マジきれちゃったよね!

 どうやったかおぼえてないけど……うん、たぶん頭突き……かな?

 ヨシミ、川におっこちゃったんだよね。

 ほっときゃ自分であがってくるとか思って家帰ったら、三日ほどして水死体であがっちゃったんだよね。

 つかまっちゃうかなって、ビビっちゃたけど、けっきょく事故死ってことでェ……

 アハハ、ボケてるよね、あのころのケーサツって。

 ね、聞いてる、サヤカ?

 でもさ、あのおかげで彼氏とりもどしたんだよ。

 ね、コギャルの意地ってか?

 タクマその時できた子だもんね。死んだダンナは自分の子だと思っていたかもしれないけどさ。

 ヘヘ、まさにツナワタリってか!

 ……アラームうるさいね。切っとこうか。

 どう、サヤカ、思い出した?

 ……そう、嬉しいのか……涙流しちゃって。

 横アリでコンサート最前列で見てて気絶しちゃった時みたい!

 コーフンしちゃったよね!

 あたし、嬉しさのあまり、ケーレンして、おしっこちびっちゃって!

 ……サヤカ、聞いてる?

(モニターが、ツーというメリハリのない音をだす)……そう、眠っちゃった?

 ウフフ……サヤカからサヤカへ、おめでとう、百回目のお誕生日!

 バンザーイ!!


「チャンチャン」的音して暗転。モーツアルト、フェードイン。マシンの音、スパークの光して、明るくなる。

 端子に指をいれて振動しているノラ。やがて解除。おわってグッタリへたりこむノラ。

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