ダウンロード

武者走走九郎or大橋むつお

第1話『帰ってきたノラ』


連載戯曲

ダウンロード・1『帰ってきたノラ』





 時  二十一世紀末

 所  日本のある都市

 人物 ノラ(中古アンドロイド)他に黒子二人ほど。




 モーツアルトのBGMが流れている。中央上手寄りに、人の背丈ほどの高さと座卓ほどの高さの柱。大きい柱にはいくつかの大きさの違う端子やランプがついている。今は緑のランプが鼓動のように点滅している。ややあって、派手な動作音をたてながらノラが帰ってくる。SFの宇宙服のような姿で、いかにもロボットめかしく動いている。ドアを開ける動作をして(実際のドアはない)入室し、柱の端子に手の人差し指を入れる。スパークと同時に体がコミカルに振動する。振動が停まると、とっても長いため息とともにロボットらしさが消え、長い残業を終えてワンルームマンションにもどってきたOLのようになる。ジロっと半眼の目を上げ、客席側にある(という設定)モニターに話しかける。




ノラ: ……買い換えたほうがいいよ。ロードする時ショックが大きすぎる。イカレかけてる証拠だよ。

 ……言ってみただけ。その気もないよね(ロボットの衣装を脱ぎ始める)

 でもさ、オーナー。

 ひとつだけ、今日みたいな仕事はもうよしてくれない。

 ギッコンギッコンして、おとぎ話のロボットみたいな動きは疲れんのよ。

 これでもアンドロイドなんだからさ。

 今日みたいな、レトロロボット博の客寄せなんて……

 うん、プライドあんのよこれでも。 

「美少女アンドロイドでーす」ってポーズつくって、MCのヨシモトに頭をはられて。

「ロボット博のオモロイドでーす!」

 ……百年前のギャグでしょ、わたしってお笑い系じゃないのよ。

 それと、このモーツアルトのBGM……これも百年前の癒し系でしょ。もう耳にタコ。

 わたしには嫌系なの。

 ……通じないのよね、あなたにはこういうギャグ。

 ま、いっか。


 鼻歌交じりに柱の後ろにまわって、トレーの食事を取りだし、小さい柱をテーブルにして食事をはじめる。


ノラ: 食事もね、悪かないんだけど……昔のレトルトと違って、よくできてるけどさ。

 作る手間がね、多少はあった方がね。

 たしか、お料理……動詞「料理」するっていうのよね。

 ……したほうが、よりおいしく……

 おかしい? 人間くさい?

 ハハハ、人間がそう作っちゃったのよ、わたしたちのこと。

 中身はチタン合金の骨とマシンだけど、皮とか肉はバイオだからね。

 ちゃんと気持ちよく食事しないと、すぐ肌荒れとかになっちゃうの。

 ターミネーターの映画監督恨むわ。絶対あれがヒントになってんのよ。

 へへ、個人的にはシュワちゃん好きだけどね。

 ……ああ、やっぱ食欲な~い。

 キッチンつくってよ、キッチン。大昔はワンルームマンションだったんだからさ、ここ。

 ……消防署の許可?……だろうね……登録は、ここ倉庫だもんね。

 本火はつかえないってか……そこをなんとか。

 ……その分稼いだら考えてやる。

 ……あ、そ。

 ……で、もう次の仕事。

 ……はいはい……


 柱のところへ行き、出てきたクエスト(任務情報)をとる。


ノラ: これだけは気にいってるのよ。モニターじゃなく、プリントアウトしてくれるの。

 わたし、全部残してんのよ。時々読み返しては……

 なによ、笑うことないでしょ。そういうことを懐かしめるほどよくできたアンドロイドなのよ、わたしは。

 もっとも、あなたに拾われる前のメモリーはブロックされててわかんないけどね。

 いっそ消去しときゃよかったのにね。なまじブロックされてるだけだから気になるのよ。

 元々のわたしはなんだったんだろうって……

 わかってる。わたし、なにか特別なロボットのプロトタイプ(実用原型)だったのよね。

 ヘヘ、それくらいわかる。とても具合のいいとこと、なんでー!? ってとこがあるもん。

 きっとメモリー消しちゃったら、わたしのアビリティーに関する情報も消えちゃうんでしょうね。

 ……どのアビリティーかって?……そりゃあ、もちろん魅力に関する……あ、また笑った!

 ……はいはい読ませてもらいますよ……


 クエストを読む。


ノラ: え!? うっそー……百歳のおばあちゃんになるの!? 

 無理だよ。わたしのナイスバデイーは二十五歳、プラスマイナス十歳だよ。

 ……え、よく読め?……あ、なーる……婆ちゃんの誕生日に、若いときの婆ちゃんの姿を見せてあげる……。

 よしよし……八十年前の高校生ね。

 オッケー……チョイチョイ、チョイっと(柱のボタンをいくつか押してから、中から衣装などをとりだす)

 ええ!? なに、このチョッキ。スカートの丈も。

 ……やっぱ、このマシン壊れてるよ。サイズおっかしいよ!

 そっちでもチェック……してんの? フフフ、慌ててるあなたって、かわいいわよ。心臓の音モニターしてみよっかな……うそうそ。

 ……え、壊れてない。本当にこれ着るの? 

 いいけどね……なんか違和感……(器用に着替える)よいしょっと……こうやって……うんこらしょっと……靴下はいいけど……サイズ大きい……スカート短すぎ!

 パンツ見える……見えてもいいの?「見せパン」……変なの。

 ……でもさ、この婆ちゃん、どうして十九歳で高校生やってたの?

 ……あ、落第……よし、じゃあ、ダウンロード……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る