幕間
「キュアノスプリュネル、下のお嬢様宛の手紙が一通届いていますが」
秘書官の一人が黒龍師団本拠地中央塔内のキュアの執務室にやって来て、一通の手紙を
渡した。
「下のお嬢様? リュウナの事か。そのような類いの物はまずはリュウガに渡せと申し伝えてある筈だが」
「この手紙の差出人は自動人形であると伝え聞いておりますが、いかがいたしましょう」
それを聞いてキュアの動きが一瞬止まった。自動人形関連の事は先ずは私の方にと言い付けてはあった。
「⋯⋯そうか分かった、私が受け取ろう」
秘書官はキュアに手紙を渡すと「失礼します」と言い残して退室した。
今現在、リュウナの所在は全く掴めていない。彼女の方から送られてくる定時連絡がまだ届かないので何処にいるのか分からない。
そのような理由なので、リュウナ宛の郵便物が届けられた場合、送り先の代替として家族の下、リュウガかキュアの下へと届けられる。基本的には実の姉であるリュウガの下へ最初に行くが、自動人形が何等かに絡んでいる場合(例えば配達人が自動人形である等)先ずはキュアの下へ届くようにと下令されていた。
「⋯⋯何処に所在する誰だ?」
差出人を見てみると「スズ」と簡素に書いてあるだけ。差出人住所などは書かれていない。
「スズ⋯⋯確かその名は」
所在不明の機械神の中でも特殊な扱いの物が一機ある。機械神八号機。方舟艦隊の周囲にこの機体は突如出現し、目視した人間も数多い。
十年前に師団長がその所在を明らかにしようと出向いたことがあったが、師団長自身がとある一件に巻き込まれ封印状態にされ立ち消えとなっていた。
それが数ヵ月前に八号機が現れた時、一体の自動人形が機体から落水し、方舟艦隊内に存在する有数の重工業、疾風弾重工に接収され、そこで「スズ」と名付けられて様々な実験に従事している――との情報までが、第弐海堡経由で来ていた。
このように機械神本体よりはぐれて放浪している個体の回収も黒龍師団の仕事なのだが、保護されている状態の自動人形にそれを行ってしまえば、それは誘拐になってしまうので、手出しできないでいたのだ。
「只の自動人形が手紙を書くとはおかしな話だが」
リュウナが第弐海堡を訪れたのは知っている。方舟艦隊内の様子が見たいと水上保安庁の臨時隊員となって水陸両用の戦車隊に臨時配属となったのだ。その時にスズと呼ばれる自動人形と接触したのだろう。
「⋯⋯」
キュアは薄刃のペーパーナイフを取り出すと、蓋の接着面を綺麗に切り、開封した。
中身は便箋が一枚。
「これは⋯⋯」
内容を読んだキュアの動きが再度止まる。
「これはもう一度姉と一緒に読んだ方が良さそうな内容だな」
キュアは便箋を封筒の中に戻すと糊付けし直して、元の送られてきた直後の状態に戻した。人間には出来ないだろう、機械仕掛けの人形ならではの技。
キュアは元に戻した封書を持つと自室を出た。
――◇ ◇ ◇――
「リュウガ、リュウナ宛に手紙が届いているぞ」
黒龍師団本拠地中央塔内の自室で内勤をしていたリュウガの下にキュアがやって来て一通の手紙を差し出した。
「はい?」
リュウガはとりあえずそれを受け取る。
「リュウナの居場所が今分からないから
「そういうことだ」
「開けてみます?」
「開けてみなさい」
「キュアが一度開けて中身読んだんじゃないんですか?」
「⋯⋯その疑問も含めて開けてみなさいということだ。早急の事が書いてあるかも知れん」
リュウガはペーパーナイフを取り出すと蓋の上部を切り開いた。中身を取り出す。便箋が一枚。
それはスズと名乗る自動人形からの手紙だった。
「これ、スズという名の自動人形がリュウナに助けてって言っている⋯⋯」
リュウガが便箋をキュアへと渡す。
「このスズという自動人形は、意思を持ちし自動人形なのだろう」
便箋を受け取ったキュアが言う。
「キュアと同じような存在?」
「ああ、そうだろう。意思を持ったから機械神本体から抜け出たか、それとも堕ちた後に意思を持ったか分からんが」
「
「ヨーコ達は既にスズと接触済みであるとも考えた方が良いな」
黒龍師団師団長直々に機械神八号機追跡の任を帯びて、ヨーコは相棒とも言える赤鬼のミユキと共に方舟艦隊へと向かった。
「幻影ではないかと思われていた八号機だったが、そのスズが堕ちてきてくれたお陰で実機であるのは分かった」
八号機は目視は出来てもその直後に消えてしまうので、精巧に作られた幻影なのではないかとも思われていたのだが、中から自動人形が落下してきたことにより、本物が稼動しているのが証明された。
「リュウナがもしこの手紙をもらっていたらどうすると思いますか」
「
「じゃあ、わたしたちにできることは」
「リュウナがやりそうなことを私達が代わりにやってやるしかあるまい?」
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