第78話 娘たちの才能が溢れ出すのを見て負けていられない
「アドリー王! 今後、あの巨木に向かって逃げ出す魔物は追わないでください! 今からエルが魔物たちを支配します!」
騎馬に乗って剣を振るっていたアドリー王に向かって、逃げ出す魔物の攻撃を控えるように依頼した。
「エルが魔物たちの支配をするだと? 支配できるとは聞いていたが、こんな数をできるのか?」
「ええ、きっと多数の魔物がこの戦闘から離脱すると思われます。目の前の魔物はエルの父ユーグリッドの軍勢で、それをライラスが使役しているようなので。エルが健在だと分かれば手を引くはず」
「ユーグリッドはこの地の魔王の名として聞いたことがあるが……ライラスとは何者だ?」
「私の倒したフォボスの四天王筆頭です。彼女がこの地の魔王を滅ぼし、その軍勢を率いて攻め寄せているのです」
俺は魔王軍の現状をアドリーに詳しく話をした。
目の前の大量の魔物からユーグリッドの配下だけでも離脱すれば、勝機はこちらに転がり込むはずだった。
「うむ、分かった。皆の者! これよりは逃げる魔物を追うな! 向かってくる者のみ討ち取れ!!」
アドリー王のよく通る声が響くと同時に、エルの支配を受けたであろう魔物たちが、巨木に向かって逃げ出し始めた。
巨木へは一〇〇〇を越える数の魔物が逃げ出しており、攻め寄せてきていた魔王軍の大半がユーグリッドの配下であったようだ。
前線で戦っていた者たちが逃げ出したことで、後方にいた魔物たちが逃げ出す魔物を攻撃し始め、戦場は混沌化している。
エルのおかげでかなりの圧力が減ったぞ……これなら、魔王軍を倒すこともできるはずだ。
ポーションを飲み、しばらく休息したことで魔力と体力が戻り始めていた。
「パパー。エルちゃんがお話聞いてくれた子を全部、巨木の方に逃がしたよー」
「パッパ、あの子たちみんなエルのこと『魔王様』って呼ぶ」
護衛の近衛騎士たちに囲まれたエルとキララが、前線まで出てきていた。
危ないとは思ったが、今更後方に送るための時間もない。
「エル、よくやってくれた。キララも護衛ありがとな。でも、ここは危ない場所だから絶対に油断するなよ。なるべくパパの後ろにいなさい」
「キララはちゃんと戦えるよ!」
「エルもー。スラたんが守ってくれるからたたかえりゅー」
キララは剣を構え、エルはスラちゃんが全身を覆いつくしていた。
キララはまぁ、ほどほどに戦えるし、剣も使えるからなんとかなるが……。
エル、スラちゃんと合体はいかんぞ……娘としてそういうことはまだ早いとパパは思うんだ……いや、でも背に腹は代えられないか。
エルが巨大化したスラちゃんに覆われて、魔法も物理攻撃も吸収されるようになっていた。
「……スラちゃん、エルを溶かしちゃダメだからな……頼むぞ」
スラちゃんが表皮を赤くして応えてくれた。
ほんとに頼むぞ、スラちゃん。
「おし、このまま魔王軍を退治するとしよう!!」
「はーい! エルちゃん、合体魔法行くよー」
「あーい!」
二人が詠唱を始めたら、次第に周りに炎の柱が立ち上り始める。
合体魔法って何さ? 俺は教えた覚えないけども……。
立ち上った炎の柱が次々に一つに纏まっていく。
やがて、一つの大きな火柱となっていた。
「「いっけーファイアーストーム」」
巨大な火柱が魔王軍に向かって動き始めると、魔物だけを選別して火柱の中に吸い込み始めていた。
ちょ!? 敵味方の識別付きの範囲魔法とかって……どんな魔法だよ!?
火柱がジリジリと進んでいく間も、魔物たちは選別されて吸い込まれていく。
火柱が通った後には魔王軍の姿は残されていなかった。
「ふぅ、成功したー。エルちゃんが魔物の選別してくれたから火柱のコントロールに専念できたよ。ありがとー」
「キララねーたんに褒められた。パッパ、見てたー?」
キララが火柱のコントロール、エルが敵味方の識別を担当して発動させていたのか。
うちの娘たちはやっぱ天才だ! そんな魔法の使い方思いつかなかったぜ!
「キララ、エル! すごいぞ! さすが私の娘たちだ!」
「えへへ、パパに褒めてもらえたよ。エルちゃん」
「頑張ったもん」
キララたちの魔法のおかげで敵の魔王軍は総崩れとなり、近衛騎士たちはより一層の攻勢をかけていた。
ユーグリッドの配下の離脱も相次ぎ、目に見えて敵の魔物たちの数も減り始めていた。
これで、勝てると思った瞬間――
最前線で戦っていた近衛騎士と魔物たちが突如発生した黒い霧に覆われ、骨だけとなって崩れ去っていた。
「不甲斐ない奴らめ。フォボス様への生贄にもならん雑魚であったか……どうやら、わたくしが直々にヤマト・ミヤマを討たねばならぬようだ」
黒い霧を掻き分けて現れたのは、フォボス四天王の筆頭であるサキュバスのライラスだと思われた。
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