第64話 親として乗り越えるべき壁は高いことを知る
キララの部屋の前に来ると、ドアをそっとノックする。
ドアを開けようとしたが、何か物でつっかえ棒がしてあるのか、ドアは開かないでいた。
「キ、キララ……パパだけど、ドアを開けてもらえるかい?」
「キララ、ママもいるけど……ドアを開けてくれない?」
「……………」
中から返事は何も帰ってこない。
普段のキララなら、絶対に俺たちからの声かけに無言を貫くことはしないはずだ。
よほど、メイドたちに言われたことがショックだったのだと思われる。
キララ……お前が傷つくことはないんだ……。
無理矢理にでも扉は開けられるが、そんなことをすれば、キララの信頼を損ないかねないので、俺たちは声をかけるしかできないでいた。
「キララ、カインとアベルから大体の話は聞いた。キララ、お前は何も悪くないし、悪く言うやつのことなんて気にする必要はない」
「そうよ。キララが世界で一番努力して頑張ってる子だっていうのはママが一番知ってるもの」
「…………」
ドア越しにキララの気配は感じられるが、やはり声は返ってこなかった。
キララの様子がおかしいのを察したのか、部屋の中を徘徊していたミーちゃんもドアの前にきて爪でドアをカリカリと引っ掻き鳴き声を上げた。
「みー、みー」
「ミーちゃんもキララを心配してくれているのか。ありがとうな」
俺はドアを引っ掻いていたミーちゃんを抱くと、もう一度キララに声をかけた。
「キララ、聞いてくれてると思って、もう一度言うけどパパたちは誰が何といってもキララの味方だからな……それだけは間違いない」
「…………」
やはりドアの中からは返事はなかった。
ミュースも不安そうな顔を見せつつも、それ以上キララに声をかけるのは逆効果だと思い、俺の袖を引っ張って耳打ちしてきた。
『パパ、あまりキララを追い詰めても、可哀想ですし、ここは一旦様子を見ましょう』
キララはきっとメイドたちの心ない中傷で、心に大きな傷を負ったと思われる。
一人にさせる時間が伸びるのは少し怖いが、かといって無理にこの扉を開けていくのも憚られた。
「キララ、また来るから……気分が変わったら出てきてくれよな」
俺はそう言い残すと、カインとアベルたちが待つ、玄関に戻ることにした。
「ドーラス師、キララ様の様子は……」
「キララは……」
カインとアベルが心配そうな顔をして、戻ってきた俺たちを見ていた。
俺はそんな二人に対し、首を振ることしかできなかった。
「そうですか……」
「ドーラス師、オレはキララにどんな謝罪をすればいいだろう。教えてください」
落胆した表情をしたアベルと、床に頭を擦り付けてカインが謝っていた。
話を聞く限り、二人には責任が無いことは明白となっているため、謝る必要などはなかった。
「アベル、カイン。大丈夫だ。私の娘のキララはそんな弱い子じゃないと信じているからな。心配だろうが、今日のところは孤児院に戻った方がいい」
「ですが……」
「オレはここでキララのこと待っていても……」
玄関で俺たちがやりとりをしていると、庭でスラちゃんに草を食べさせていたエルが戻ってきた。
一緒に買い物に出ていたカインとアベルが居るのに、キララが居ないことが気になったエルが質問してきた。
「パッパ、マッマ。どうしたの? カインとアベルもどうしたの? あれぇ、キララねーたんは?」
「えっと、ちょっと気分が優れないらしくって、お部屋で寝てるのよ。エル、スラちゃんのおやつ終わったみたいね。エルもおやつ食べる?」
ミュースが気を利かせておやつの話をしてくれ、キララのことはエルには伝えずにいてくれた。
エルもキララのことを知ればショックを受けるだろうし……。
でも、このまま籠ったままだとエルも気付くだろうから、事情を話さないといけないだろうな。
「うん、食べりゅ。でも、キララねーたんと一緒にー。マッマ起こしてきていい?」
「エル、キララはちょっと調子が悪いからな。パパと食べるか? カインもアベルもママのおやつを食べていけ。ママ、準備を頼む」
「はい、少しお待ちくださいね」
ミュースはそう言うと、台所の方へ消えていった。
残った俺はエルとカインとアベルを連れてダイニングへ向かった。
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