第63話 最悪の事態が起こったことを知る
カインとアベルたちとともに、買い物に出ていたキララが帰宅したが、一言も喋らずに自分の部屋に籠ってしまった。
ま、まさか……二人に何かされたのか……。
そんなことを想像した俺の前に、キララの後を追ってカインとアベルが駆け込んできた。
「カインっ! アベル! 何があったかきちんと説明しろ。説明次第ではお前らの命をもらい受ける!!」
「うぐぅ」
「ぐはっ」
娘の初めて見せた行動に対し、久しぶりに頭に血が昇り、子供と言っていい年齢の二人の首に腕を押し当て、壁に押し付けていた。
「パパ、落ち着いてください。そのようなことをしたら二人が喋りたくても喋れないでしょう。手を緩めてください」
ミュースが俺の手を二人から振りほどこうと、必死になって引っ張っていた。
その姿を見て、沸騰した血が一気に冷えていく。
「す、すまん。私としたことが取り乱した。許せ」
俺は二人の首に押し当てていた腕を離すと非礼を詫びた。
「ケホッ、す、すみません。僕たちが付いていながら、キララ様にご不快な思いをさせてしまったようで……ドーラス師にはなんと詫びればいいのか、皆目見当がつかないです」
「ドーラス師、すまねぇ。オレが考え無しでキララに喋ったから……こんなことに……」
キララの様子が変なのは、やはり二人に何かされたか、言われたことによって引き起こされていたようである。
「詳しく話せ。何があった?」
下を向いて俯いた二人に、事の経緯を話させることにした。
よっぽどのことがない限り、あのキララが帰宅の挨拶もせずに部屋に駆け込むなんてことはしないはずだ。
「は、はい。実は……買い物を終えて、王城に帰る途中に城のメイドたちが庭で雑談をされていたのですが……」
アベルが落ち着いた表情で事の経緯を話し始めた。
その様子をカインは黙って頷いて聞いている。
こういう場合、アベルの方が何を起きたのかを理路整然と話せるため、役割分担を徹底している二人であった。
「メイドたちの雑談だと? それで、なんでキララがあんな風になるのだ?」
「はい。そのメイドたちの話していた内容が、その……キララ様の持つスキルの力の話でして……」
アベルが若干、物が挟まったような喋り方を始めた。
彼が言い出しにくいことがある時に、よく使う喋り方だった。
何かを忖度し隠そうとしているのだと直感した。
「メイドたちがキララのスキルの力について話していたと? アベル、構わないから全て話すように」
「はい。では、包み隠さず全てお話しします。そのメイドたちが喋っていたのは、キララ様のスキル能力についてで、『人を無理矢理に魅了して自分に好意を向けさせる』という阻止不能な悪魔的な力を持っていると話していたのです」
アベルは自らが感じた悔しさを我慢するようにズボンをギュッと両手で握っていた。
同じようにカインも自分のズボンをギュッと握っている。
「本当にメイドたちが、そのような話をしていたのか?」
キララのスキル能力に関しては、神官たちに箝口令を敷いているため、外に漏れ出ていないはずだが。
メイドが知っていたとなると、誰かが外に漏らしたのかもしれない。
「その話を帰り道にオレたちが聞いちまって……キララがすっげえショックな顔してて……オレがそのメイドたちに『キララの悪口言うな』って突っかかっていっちまってさ……」
いつもは元気な声のカインが、か細い声でその後の顛末を話していく。
「カイン、お前メイドたちにそんなこと言ったのか……」
カインが、バツが悪そうに俺から目を逸らしていた。
そんなカインを庇うようにアベルが前に進み出る。
「ドーラス師! すみません、僕が付いていながらカインを止められなかった……。キララ様も最初は一緒に止めてくれてたんですけど……。メイドたちが放った『どうせ今の地位もスキルの力で得た物なのに偉そうに勇者している子』という言葉に完全にキララ様が傷つかれたようで……」
アベルの言葉を聞いて体中の血が怒りで沸き立っていた。
キララがスキルの能力によって、今の地位を手に入れただって?
こっちに死にかけの状態で来たキララが、どれだけ一生懸命に勉強をして、剣術の練習をして、礼儀作法まで習得して頑張ってきたと思ってるんだ!
それを手に入れたのが、スキル能力のおかげという一言で片付けるなんて許せない!
キララの努力は俺が一番知っている。
あの子は絶対に勉強だって練習だって、やりたくないって言わない。
頭のいいキララは、自分がこの生活をできるのが努力の結果だと知っているからだ。
それを……いかにもスキルだけの力で得たと言われたら……キララが可哀想すぎる!
俺はキララを傷つけたメイドたちを許すことができない、さっきの言葉は絶対に取り消させて謝罪させてやると誓った。
「カイン、アベル! そのメイドたちの所属と名前は分るか?」
「え、えっと。あまり見かけない三人組のメイドでしたので、所属も名前も……分らないです。すみません」
「オレも見たことないメイドたちだったと思います。最近採用された人かも」
二人にキララを傷つける発言をしたメイドたちの人相や所属を尋ねたが、情報は得られなかった。
隣で黙って聞いていたミュースに俺は視線を送ると、無言で頷いていた。
「ママの方の伝手で、最近採用されたメイドを洗い出してくれ。この件は大人気ないと言われようがキララの父として黙っている気はない!」
「心得ました。わたくしの大事な娘に対しての暴言。たとえ、王が許してもわたくしは許しませんわ。そちらの件はわたくしがキッチリやりますので、パパはキララの様子を見て来てくれますか? あの子は優しい心を持ちすぎてますから、悪意に心を潰されてしまわないようにしないと」
ミュースはキララの様子が気になってしょうがないようだ。
自分で行って慰めたいのが、目に見えているが、まだちょっと遠慮が見えた。
「いや、メイドの件は後回しにしよう。ママも一緒に来てくれ!」
ここまで来てミュースに遠慮させることはない。
そう俺は思っているので、彼女の手を取るとキララの部屋へ一緒に向かった。
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