第57話 我が娘、魔王としての能力覚醒し、スライムが配下として加わる

 ミュースの膝に座ってうんうんと唸ってたエルが目を開いた。


「パッパー、スラたんがエルをまおーさまって呼んでるよー。こっちおいでって言っていいの?」


「ん? エル、スライムの呼びかけがわかるのか? まおーさま? 魔王様ってエルを呼んでるのか!?」


「うん、なんかそんな感じで呼んでるー。こっちにおいでって呼んじゃったー」


 え? ちょっと、エルさん勝手に呼んだら……。


 しばらくすると、森の奥の茂みが揺れ、小さなスライムが一匹飛び出してきた。


 危機感知クライシスセンスの表示は青色の味方表示になっている。


「パパ、この子ってエルちゃんが呼んだの?」


「あ、ああ。多分な……」


 スライムは俺たちの前で敵意を見せずにプルプルと揺れている。


 エルがミュースの膝から降りるとミーちゃんを抱き抱えたまま、スライムの前に立った。


「スラたん、初めまして。エルだよー。こっちはミーたん」


「みー、みー」


 エルが声をかけるとスライムはプルプルと大きく揺れて、喜んでいるようにも見えた。


「エルの力で支配されちゃったのかしら? 魔王って魔物を使役する力があると聞いたことがあるし」


 ミュースがスライムの様子を見ながら俺に話しかけてきた。


 ミュースの言葉とエルの姿を見て、俺が倒した魔王フォボスも強力な魔物を何千も従えて軍を作っていたことを思い出した。


 エルもやはり魔王の素質を持つ者か……。


 この地の魔王に関してはあまり姿を見せないと聞いているが、エルがその魔王なのだろうか……。


 とはいえ、エルは人に対し害意を持っていないしな。


「うーん、魔王が魔物を使役できるとはいえ、エルがその魔王なのかって言うと判断はつけにくいな……。ただ、魔物が使役できるだけかもしれないし」


「パッパー。スラたんに乗っていいー?」


 エルが下僕化させたスライムに乗りたそうにしていた。


 害意を持っていないため、特に危険はないと判断する。


「いいけど、転ばないようにな」


「うわぁーい!」


 エルが座るとスライムが周囲をうにょうにょと動きまわり始めていた。


 どうやら、スライムもエルに乗ってもらえて喜んでいるようだ。


「いいなーエルちゃん。わたしもあとで乗りたいよー」


「スラたんに聞いたら、キララねーたんはいいって。カインとアベルはメーよ」


「ちぇ、ケチ」


「スライムに騎乗する感覚は気になるところですが……仕方ありませんね」


 キララたちも、エルが下僕化させたスライムに興味津々であった。


 ただ、ちょっと気になるのがエルを乗っけているスライムがさっきよりも一回り大きくなったような気がする。


 気になったので、隣にいたミュースにスライムの大きさの件を聞いてみた。


「ママ、あのスライムさっきより大きくなってないか?」


「え? えーっと、ちょっと大きくなった気もしますが……」


 やっぱりミュースにもスライムが大きくなったように見えたか……。


 すると、エルが乗っていたスライムの身体が急に倍以上に膨らんだ。


「おわっ!! 何が起きた!! エル、大丈夫か!?」


「パッパー、スラたんが魔力欲しいって言うからあげたら大きくなったー」


 エルの声に応じるように、スライムがウニョウニョと揺れていた。


 もしかして、エルは魔力で魔物を成長させられるのか。


 はっ!? まさか、ミーちゃんに三本目の尻尾が生えたのって……エルの力か……。


 エルはミーちゃんを抱いていることが多かったし、二尾猫ツインテールキャットも魔物である以上、エルの力の影響が出てもおかしくなかった。


「エ、エル。もしかして、ミーちゃんとも意思の疎通ができるのか?」


「えっと、できるよ。ミーたんとエルは友達だからー」


「みー、みー」


 は、初耳ですけどーー!?


 となると、やっぱりエルは魔物を進化させる力を持った魔王である可能性が強くなった。


 まさかとは思ったが、実際娘が魔王だったとは…………。


 さすがうちの次女じゃん!! スゲエ才能の持ち主だよ!! 姉が勇者で妹が魔王とかってもう完全に平和フラグじゃないか!! いやー良かった、良かった。


 俺は娘たちが世界の命運をかけて戦う必要が無くなったことに安堵した。


 人を襲う魔物をエルが支配して従え、人の生存領域から遠ざければ、お互いに争うことなく繁栄ができるはずだからだ。


「エルちゃん、キララも乗っていいー?」


「キララねーたん、いいよー。スラたん、乗っけてあげてー」


 うにょりとへこんだスライムにキララが跨っていく。


 大きくなったスライムにエルとキララが同時に騎乗していた。


「うわぁ、すごい、すごい!」


「キララねーたん、たのしいねー」


 スライムは上機嫌なようで、林の中をウニョウニョと走り回っていた。


「……パパ、うちの娘たちはすごいわね……わたくしがママで大丈夫かしら……」


「大丈夫さ。ママは完璧なママだしね。私もパパとして頑張らないとな」


 我が家の姉妹は勇者と魔王だったらしい。


 父親として、二人には末永く仲良しでいられるように色々と頑張らなければならないと決意を新たにする。


「パパ―、この子すごい楽しいよー。この子もお家に連れてっていいー?」


「パッパー、スラたんいい子ー。エルの友達にしていい?」


 スライムに乗って楽しんでいる二人が、家に連れ帰りたいと言い始めた。


 ミーちゃんの件もあるし、アドリー王からまた呆れられそうな気もするが、娘からのお願いを無下に断ることは俺にはできなかった。


「え、えーっと。まぁ、連れ帰ってもいいぞ」


 隣のミュースから肘で突かれた。


『パ、パパ。そうやって甘やかすとエルがいっぱい魔物を連れてきてしまうと思いますけど……』


『でも、二人がどうしてもって言うし。ママから二人に説明してくれるか? 私からはどうも言い出しにくい』


『ペットの飼育許可は、パパの権限の範疇ですから、わたくしからは申し上げませんわ』


 むむ、ミュース上手く逃げたな……。


 とはいえ、あまり魔物を増やされても困ることも発生するだろうしな。


 ルールの取り決めしておいた方がいいか……。


 俺はエルに対して、魔物使役に関しての取り決めをすることにした。


「エル、連れ帰ってもいいけど。今後は勝手に増やしちゃダメだぞ。先にパパとママにキチンと相談するようにな。約束できるか?」


「うんっ!! できりゅーーー!! スラたん、今日からエルと一緒だよー」


 スライムが表皮を赤くしてウニョウニョと形を変えていた。


 どうやらスライムも嬉しいらしい。


「うわーい、今日からはスラちゃんも一緒なんだね。よろしく、スラちゃん」


 キララもぷにょぷにょしたスライムの表面を撫でて喜んでいた。


 こうして、我が家にスライム(騎乗用)のスラちゃんが仲間入りすることになったのだが。


 帰り道、身体が大きくなったスラちゃんは荷物とエルを抱えたミュースを背中(?)に積んで結構なスピードで移動したことが、うちの奥さんの高評価を得た。


 ミュース曰く、お買い物の時、荷物持ちのお手伝いを頼みたい存在に昇格したらしい。


 一方、スラちゃんもミュースのことが気に入ったようで、エルとキララの次にミュースの言うことを聞くようになったそうだ。


 ちなみに俺には怯えているようで背中には乗せてくれないし、近寄ってこない。


 これでも優しい男なんだぜ。


 ちょっぴり、そのもちもちの表面を触れさせてくれたっていいじゃないか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る