第56話 郊外で修行していたら次女の能力が発動した・・・かも?

 ミーちゃんが、尻尾が多数生える九尾猫ナインテールキャットだと発覚したが、王城の人たちも孤児院の子供たちにも変わらず人気者だった。


 これがゼペルギアなら強力な魔物はすぐに始末しろと言われただろうが、アレフティナの人たちは万事おっとりとしているのか、特に問題とならず当たり前のようにミーちゃんに接している。


 おかけで俺たちの生活は特に問題もなく、充実した日々を過ごしていた。


 そして、ここ最近週末は家族とともにカイン、アベルを引き連れて、王都から出て郊外の森で魔物退治の実戦練習をしている。


「カイン、気を抜くんじゃない! 相手は毒蛙ポイズントードだ!」


「わ、分かってますよ」


「カイン、僕が槍で突くから怯んだところを頼みます」


 アベルが槍を構えると、カインに狙いを付けていた毒蛙ポイズントードに向かい槍を突き出していく。


 武芸に自身のないアベルは、自分の知恵から槍の方が戦いやすいと導き出していた。


「へへっ、アベル助かった。もらったぜ――」


 カインが毒蛙ポイズントードに向け、剣を振りかぶったところ――


 横からキララが颯爽と剣を引き抜いて駆け抜ける。


 すると、キララの剣先は毒蛙ポイズントードを真っ二つにしていた。


「ああっ! キララ! それはオレの獲物!」


「へへん。油断大敵だよー」


「きゃ、きゃ、キララねーたん、かっこいいのー」


「みー、みー」


「キララー、カイン君のを横取りしちゃダメよー」


 見通しの良い場所の切り株に腰を下ろし、エルとミーちゃんを抱えていたミュースがキララに注意をしていた。


 注意を受けたキララが舌を出して笑う。


「はーい、ママ。気を付けまーす」


「カインー! キララにしてやられてどうするー! お前が盾役だろ!」


「は、はい。すいません! 次は絶対横取りされません!」


 カインが申し訳なさそうに頭を下げて謝っていた。


 娘に手を出そうとするやつには、厳しく当たらねばならないと心に誓っているので、おのずと言葉も厳しい物になる。


「パッパ、次の魔物くるー」


 エルはミュースに抱かれながら、危機感知クライシスセンスを発動させていた。


 エルはまだ幼いため、ミュースから攻撃系の魔法はまだ危ないと言われている。


 だから支援魔法である危機感知クライシスセンスを教えのだ。


 魔法の筋がいいエルはすぐに危機感知クライシスセンスを覚え、遊び道具としている。


 ちなみに現時点で最大出力の感知範囲を設定しており、二〇〇キロ圏内にいる魔物をすべて感知していた。


 明らかに感知範囲が広すぎるが、本人は大して魔力を消費してないようなので自由にさせている。


「キララ、カイン、アベル。次が来るぞ! 構えて!」


「キララねーたん、左奥から一匹くるよー」


「オッケー、カイン君、今度はお任せー」


「分かった。前に出る。アベルも援護よろしく」


「了解」


 エルからの指示でキララたちが魔物と対峙する。


 飛び出してきたのはイノシシの魔物である狂暴猪バーサクボアであった。


 アベルが槍を突き出し、狂暴猪バーサクボアの意識を逸らすと、カインが一気に間合いを詰める。


「今度こそ!」


 剣を構えたカインが狂暴猪バーサクボアの目を貫いた。


 だが、まだ致命傷ではない――


「カイン君、そのまま我慢!」


 すかさず、キララが一気に首を飛ばしていた。


 普段の生活は甘えん坊のキララなのだが、こと勇者の仕事である魔物退治に関しては冷静な判断を下し、即座に危険を刈り取る嗅覚に優れていた。


 魔法の才能はエルの方が若干上の感じするが、剣や戦闘センスに関して、キララはすさまじい才能を見せている。


「ナイスアシストだ。キララ」


 キララは魔物の血を払って剣を鞘に納めていた。


「カインっ! お前またキララに助けられたな。帰ったらアベルと一緒に素振り二〇〇回追加だからな」


「うひー、ドーラス師。今のはオレがやれましたよ」


「ぼ、僕もですか!?」


 またもキララに横取りされたカインと、とばっちりで素振り二〇〇回を言われたアベルも半泣きであった。


 二人が泣きごとを言うのも、キララと練習を一緒にするようになってから、俺のしごきが一段と増しているからだ。


「カイン君、アベル君、わたしも一緒にやるから大丈夫。頑張ろう!」


 キララががっくりと肩を落としている二人を励ましていた。


 だが、パパとしてはその程度で音を上げる男に嫁に出すつもりはないのだ。


「パパもあんまり二人を苛めちゃダメよー。アドリー王の側近としてアレフティナ王国を支える予定の二人だからね」


 見かねたミュースが、俺をたしなめてきた。


 ここでやつらを甘やかすとつけあがるので、心を鬼にして厳しくいくことにしている。


 最低でも王国を支えられる男くらいにはなってもらわないと、最強勇者になる予定の娘との釣り合いというものが取れないのだ。


「だからこそ、厳しくしないといかんのだよ」


「パッパー、赤い点が青くなったー」


 ミュースとカインとアベルのことで話していた俺の袖を、エルが引っ張ってきた。


 エルが展開しているウィンドウを見ると、危機感知クライシスセンスの感知内にいた魔物のうち一つが味方を示す青い輝点に変化しているのが見える。


「ん? 味方表示? エル、何かしたのか?」


「ん? わかんない。赤い点、触ってたら青くなったよー」


 気になったので青い輝点を発する魔物の情報を開示させた。


 どうやら、味方表示になったのは、この前戦ったスライムのようであった。

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