第55話 王様と王妃様に許可をもらう

 俺はミーちゃんを抱えて、王の居室を警備する衛兵の前に居た。


「おはようございます。これは珍しい時間の訪問。王に用事ですかな?」


 衛兵の騎士が来訪の目的を聞いてきた。


 まだ政務を行う時間の前であり、国王の私的な時間であるため、この時間に俺が来訪することはあまりなかったのだ。


「ちょっと、ご報告したい案件が急遽できまして。王に取り次いでもらえますかな?」


「承知しました。王より、ドーラス師からの面会は何時であっても取り次げと言われております。しばらくお待ちくださいませ」


「みー、みー」


 うたた寝から起きたミーちゃんが王の居室に消えていく衛兵の背に鳴き声を上げた。


 そんなミーちゃんに視線を落とすと、不思議そうに小首を傾げて俺を見てくる。


 こんなかわいい生物が危険な魔物なわけ……ないよな。


 しばらくして、衛兵が戻ると奥の居室に通された。


「ドーラス師、このように朝早くからの面会の申し込み……さてはついに決闘か。よかろう、相手にとって不足なし」


「アドリー違うわよ。ドーラス君はミーちゃんを抱えてるでしょうが」


 帯剣に手をかけたアドリー王に、リーファ王妃が冷静なツッコミを入れていた。


「リーファ王妃、ありがとうございます。本日は早急にご連絡申し上げることができました」


「な、な、なんだ。ミュ、ミュースとの日取りが決まったのか?」


 アドリー王が動揺した顔を晒す。


 そっちの話も進んではいるが、まだ色々と調整中なのでご報告はできないのだ。


「違います。うちのミーちゃんが実は二尾猫ツインテールキャットじゃなくて、九尾猫ナインテールキャットの可能性が出てきましたことご報告に上がりました」


 俺は抱えていたミーちゃんのお尻が王夫妻に見えるよう抱く向きをかえた。


 二人の視線がミーちゃんのお尻に注がれる。


「みー、みー」


「三本目があるな……」


「確かにあるわね……」


「ご確認ありがとうございます。ミーちゃんがこのまま成長すると九尾猫ナインテールキャットになる感じです。ですが、人に懐いておりますのでこのまま私のもとで飼育許可を頂きたく、面会に来ました」


 ミーちゃんのお尻をしげしげと見ていた二人に飼育の許可を求めた。


 人に懐いているとはいえ、魔物であることには変わりなく、問題発生時には色々と突っ込まれる可能性もあった。


 もちろん、飼育の責任は俺が全て負う。


 問題行動を起こさないように育てるつもりだ。


「伝説の九尾猫ナインテールキャットか……キララといい、エルといい、ミーちゃんといい、ドーラス師は何か呼び集める才能に溢れておるな」


 アドリー王が若干呆れ気味な顔で俺を見ていた。


 俺としても引き当てたくて引き当てたわけじゃないし、なんだかそういうことになってただけで……。


「ミーちゃんは、キララちゃんとエルちゃんの守り神になりそうねー。アドリー別に飼ってもいいじゃない? 特に人に害意をもっているわけでもないし。ほら、これだけ人懐っこい子だからね」


 リーファ王妃に頭を撫でられたミーちゃんは喉を鳴らして目を細めていた。


 家猫として室内飼いしていたが、最近ではエルとキララに付いて孤児院に行ったり、王城内を自由に闊歩して色々なところで人を癒しているらしい。


 ただ、キチンとご飯の時間には部屋に戻ってくる賢さはあった。


「まぁ、仕方あるまい。それに城内の二尾猫ツインテールキャットたちも王たる九尾猫ナインテールキャットが誕生したことを喜ぶであろうな」


 アドリーもミーちゃんの喉を撫でて顔を緩めていた。


「みー、みー」


 ミーちゃんも二人に撫でられてご満悦のようだ。


「アドリー王、リーファ王妃、ミーちゃんの飼育許可の件、ありがとうございます。問題がありましたら私が全て責任は取りますので遠慮なく申してください」


「ドーラス師であれば伝説の九尾猫ナインテールキャットも飼い慣らしてくれるものと期待しておるぞ」


「そうね。王国最高の素質の勇者と魔王クラスの魔力を持つ子の父親ですからね。猫ちゃんくらいどうとでもなるわね」


 リーファ王妃が笑いながら俺の肩を叩いていた。


 まぁ、何とかしてみますけどね。


 ミーちゃんはいい子だからそんな悪さはしないとは思う。


 俺は二人に礼を言うと、孤児院に行ってミーちゃんをエルに預け、その足で自分の仕事場に向かった。

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