第54話 九尾猫ってやばくない?

「パパ、あまり慌てて食べてはいけませんよ。ほら、ご飯粒が口に……」


 月一の和食に喜び勇み、がっついていたら、ミュースの手が俺の口元に伸ばされていた。


 俺の口元についていたと思われるご飯粒をひょいと取ると、自分の口に運んでいる。


「マ、ママ!? わ、私は子供じゃないんだから、そ、それくらい自分で……」


「え!? ああ!! ごめんなさい! キララたちにやるいつもの癖で、わたくしとしたことが……」


 ミュースが無意識にしたことを理解したらしく、顔が真っ赤になっていた。


 朝から幸せ過ぎる朝食のひと時である。


「パパ、キララのとってー」


 キララが口元についたパンくずを取って欲しそうに俺に見せてきた。


 ひょいと指でつまんでパンくずを取ると、ミュースと同じようにパクリと食べた。


「パパ、お行儀が悪いですよ。って、わたくしも人のことは言えませんでしたね」


「マッマ、エルのもとってー」


 エルもキララと同じく、口にパンくずを付け、取って欲しそうにしていた。


「お行儀が悪いから、みんなには内緒にしておきましょう。お家だけの秘密ですからね」


 そう言ったミュースがエルの口元のパンくずを取り、口に運んでいた。


 ミュースのおかけで、俺たちの家族だけが知る秘密がまた一個できた。


 他愛ない秘密だけど、ここで一緒に飯を食べる者たちだけが知る秘密なのだ。


 それだけで、ちょっとこそばゆいが心がほっこりとしてくる。


「ママのお達しだから、みんなきちんと守るようになぁー」


「はーい。みんなには秘密だねー。りょーかい」


「エルもりょーかいなのー」


「みー、みー」


「ふふ、みんな理解が早く助かるわ……」


 こうして、俺たちの朝食は終わりを迎えようとしていたのだが――


 食事を終えたミーちゃんが、俺の膝の上に乗ってきた。


 どうやら、お腹がいっぱいになって俺の膝を寝床代わりに決めたようだった。


 気分がいいのか、二本の尻尾がパタパタと左右に揺れている。


 が、しかし、俺はそこにあってはならない物があるのを見つけてしまった。


「マ、ママ。ちょっと聞くけど、二尾猫ツインテールキャットの尻尾って二つだよね?」


「え? ええ、その名前の通り尻尾は二本ですよ……」


「じゃあ、俺の目はちょっとおかしくなったのかも。実は三本目が見えるんだ……」


「え!? えええぇ!! サードテイル!?」


「あー、ほんとだぁ! ママ、ミーちゃんの尻尾三つ目が生えてきてるよ」


「エルもみたいーー!! マッマだっこー」


 俺の膝の上で丸まっているミーちゃんのお尻にみんなの視線が集中していた。


 ミーちゃんの二本の尻尾の付け根から、新たに短い尻尾が生えているのだ。


「え、えーっと三本目が生えたということは……ミーちゃんは二尾猫ツインテールキャットじゃなくて……もしかして伝説の魔物とされている九尾猫ナインテールキャットなのかしら……いや、そんなわけ……」


九尾猫ナインテールキャット? なんだそれ? 私は聞いたことない魔物だが……」


「ええっと、このアレフティナ王国ができる前、初代の召喚勇者が討伐したという魔王の飼い猫であらゆる属性魔法を使いこなす魔物だったと伝え聞いております」


 ミュースが満腹になり俺の膝でうたた寝を始めたミーちゃんを見ながら、九尾猫ナインテールキャットの説明をしてくれていた。


「うぁあああ! ミーちゃんってすごい魔物なんだねー! もしかして九本の尻尾生えるのかなぁ」


「ミーたん、しゅごい、しゅごい」


 キララとエルが三本目の尻尾に触れても、ミーちゃんは起きずにうたた寝をしていた。


九尾猫ナインテールキャットってもしかして結構強い魔物?」


「強いかどうかは定かではないですが、文献には火・水・風・地・雷・氷・木・光・闇という属性ごとの尻尾を持つ魔物とか書かれてます。三本目が生えたとなると、このまま成長すれば九尾猫ナインテールキャットになるかと……」


「これはアドリー王に報告した方がいいかな?」


 城内にて強力な魔物を飼うとなると王の許可をもらっておいた方が、何か起きた時に問題が複雑化しないですむ。


 現状、ミーちゃんは人に懐いており危害を加える様子もないのだ。


 キララとエルにもとても懐いているため、危険だからという理由で引き離すのは忍びない。


「そ、そうですね。そのようにした方がいいかと。ミーちゃんはやんちゃですけど、利口なので人に悪さはしないと思いますが一応アドリー王の耳には入れておいた方が……」


「だよな。分かった。出勤前にアドリー王に面会して事情を伝えておくよ。キララ、エル、そろそろ用意の時間じゃないか?」


「あー! そうだった! エルちゃん、準備しないとー。ママー、今日は午前も剣術練習だから着替えがいるよー」


「キララねーたん、エルのカバンとってー」


「キララ、今日は着替えがいるの? ママ、まだ準備してなかったわ。ちょ、ちょっと待っててね」


 騒がしくなった食卓から立ち上がると、俺はミーちゃんを抱き抱え、自室に戻り仕事用の服に着替えると先にアドリー王の居室を尋ねることにした。

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