第48話 娘たちによる共同作業が大戦果を挙げる

「パッパー、遠いお空からなんか来るー」


 『動画保存ムービングメモリー』で娘たちの雄姿を撮る準備をしていた俺にエルが話しかけてきた。


 その瞬間――展開していた生命感知ライフビジョンがけたたましい警報を伝えてくる。


 むっ!! ブラックワイバーンだとっ!! Aランクの強い魔物がなんで……?


「パパ―、アレは撃ち落としていいのー?」


「キララねーたん、エルもやりたい! やるー!」


「パ、パパ!! アレって!?」


 キララとエルは能天気にブラックワイバーンを指差して笑っているが、ミュースはあの魔物の凶悪さを知っているようだ。


 Aランクのブラックワイバーンなら、小さい村くらい簡単に壊滅させられる強さを持っている。


 ワイバーン種最強の個体で、火炎と鉤爪で人を襲う魔物だ。


 安全な国だと思っていたアレフティナ王国にこんな強い魔物が潜んでいたとは……。


 俺はすぐに物理攻撃と魔法攻撃を99%カットする万能の障壁オールラウンドバリアを展開した。


 これで、障壁内なら即死はしないはずだ。


「キララ、エル、ミュース! この障壁から出るな。アレはパパが狩る!」


「パパの援護する! 魔法は当てるイメージすればいいんだよね?」


 そう言ったキララが、水の魔法を発動させると、球に形成し上空のブラックワイバーンに向かって投げた。


 もう、球状にできるのか!? 成長が早いぞ……。


 俺が数か月かかった球状に形成する魔法を、キララは僅か二日で体得していた。


 ただ、撃ちだされた水の球は遅く、ブラックワイバーンに追いつけないでいる。


「パパ、見てて!!」


 キララが水の球に向けて開いていた手を握ると、球が弾け、複数の矢のような形状に変わりブラックワイバーンの羽根を貫いていく。


 ダメージを負ったブラックワイバーンのスピードがガクンと落ちる。


「キ、キララ!? いったいどこでそんな魔法を……」


「だって、パパが魔法はイメージだって言ったから、小さくした方が早くなるなって思って……。ダ、ダメだった?」


 キララはまるで悪いことでもしたかのようにしょんぼりした顔で、俺を見上げてくる。


「ち、違う!! すごいぞ! すごい!! パパもアレを使えるようになるまで一年くらいかかったんだ……。キララはもう使えるのか」


 う、うちの娘の才能はすごいとは思っていたけど、桁外れの才能だったようだ。


「エルもやるぅーーーー!! パッパ見ててー!!」


 エルもキララの真似がしたいらしく、同じように水の球を作っていた。


 キララのよりはるかにデカイ球であるが。


 無駄に魔力が多いエルであるため、大きさの調整ができないでいるようだ。


「エ、エル―ーー! 待てーー!!」


「たぁーーー!」


「うわぁああ、エルちゃんすごいー!! わたしのよりもおっきいなー!!」


 ぶん投げた。


 俺はエルが作ったデッカイ水球がゴウッと空気を引き裂き、飛んでいったのを見送ることしかできなかった。


「むうううぅうーー。えい」


 エルがキララと同じように飛ばした水の球に向け手を握った。


 巨大な水の球は、数百もの水の矢に変化したことで、キララによって羽根をボロボロにされ、スピードの落ちていたブラックワイバーンの全身を貫いた。


「パッパ、マッマ、キララねーたん、やったよぉおおおっ! 当たった!」


「エルちゃんすごいよぉおおっ! ワイバーン倒しちゃったかも」


「お、落ちる!?」


「あ、あのこっちに向かって来てないですか? キララ、エルこっちにいらっしゃい!! パ、パパ! 何とかしてください」


 全身にエルの魔法を受け、墜落を始めたブラックワイバーンがこちらに向かって落ちてきていた。


 慌てたミュースが、キララとエルを抱えて障壁の端にまで移動する。


 中にいる限り安全であるが、自分の方へ落ちてくるのは落ち着かない。


神の剣ディヴァインソード!!」


 純魔力で作り出した光剣を構えると、俺は一気に飛び上がり、落ちてくるブラックワイバーンに斬撃を喰らわせた。


 数千の斬撃を加えたブラックワイバーンは細切れの肉片となり、光を発して消えていった。


 そして、拳大の巨大な魔結晶がゴトリと地面に落ちる。


「パパぁ!! かっこいい!! その剣、わたしも出せるのかなぁ」


「エルも出したいーーー!」


「キララ、エル、魔法はパパみたいに上手に使わないと他の人を傷つけるわ。そのことを忘れてはダメよ」


 ミュースは娘たちの魔法の才能を知り、使い方に注意するようにと伝えた。


 こういう話はしっかりと最初にしておかないといけない。


 二人とも絶大な魔力を持つ、そのため力の使い方を誤れば、大惨事を引き起こすのだ。


「はぁーい! 人に向けて使わないようにってパパからはきつく言われてるから、大丈夫」


「エルも守れるぅーー!」


「いいお返事ね。ママも安心できるわ。でも、二人ともすごいわ。ママ、ビックリしちゃったかも」


「私も焦ったぞ。ブラックワイバーンなんて強い魔物を二人で倒しちゃうとはな……これは二人で倒した記念の魔結晶だ」


 俺がブラックワイバーンの魔結晶を二人の前に差し出した。


「うわあぁ、おっきいね。これならリーファ王妃も喜んでくれるかなぁ」


「きらきら、綺麗! エル、きらきらしゅきぃー」


 エルがこぶし大の魔結晶を見て、ニコニコと笑っている。


「この大きさではネックレスには大きすぎる気もしますが……カットしてもらえば、見栄えはしそうね」


「王様と王妃様、喜んでくれるかな」


「きっと、喜んでくれますわ。キララとエルからの贈り物ですからね」


 ミュースもエルの持つ、魔結晶を見て国王夫妻に献上するネックレスのデザインを考えているようであった。


 こうして、俺たちは急遽現れたブラックワイバーンを迎撃することに成功し、昼食にありつくことにした。

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