第45話 魔法修行の水遊びが大惨事になった
「魔法は意識を集中してイメージをしていくんだぞー。炎の形をよく思い出してイメージしてくれ」
「うー、炎が落ち着かないよー」
キララはずっと続けている基礎体力の練習が功を奏し、剣の方は一通り使えるようになり、体力に余裕ができたので魔法の習得も始めることにしていた。
そして、今は魔力を集中させ、魔法を発動させるためのイメージ特訓を中庭でさせている。
「パッパ、火出た―!」
そんな魔法の基礎練習をしていたキララの隣で、同じように真似していたエルが盛大な火柱を上げていた。
「おわっ! エル! 火、火!」
俺は即座に水魔法を発動させて、中庭に上がった火柱を消していった。
「エルちゃん、すごーい。わたしももう一回挑戦する」
エルの出した火柱を見たキララがもう一度魔法の発動をさせる準備をしていた。
そして……エルと同じような火柱が再び中庭に上がっていた。
「あっ!? できた~! エルちゃん、パパ! できたー!」
「キララねーたん、しゅごいー!」
『できたー』じゃなくて、キララさん、これ炎じゃなくて火柱ですから……。
エルもキララも子供とは思えないほどの魔力を持っており、俺がこの世界で初めて作り出した火の玉とは桁違いであった。
「こ、こら! 制御、制御! これ炎じゃなくて火柱だぞ!」
「パパっ!! なんでキララたちに火遊びさせているんですかっ!! 早く消して!!」
タイミングの悪いことに、ちょうどミュースが中庭を通りかかっていたようで、慌てて二人に駆け寄った彼女に大声で叱責されてしまう。
「お、おぅ。すぐに消す」
俺は慌てて水魔法で火柱を消す。
二人とも魔力が高すぎるのは、制御の面から問題だな……。
魔法の素質溢れる二人を前にして、基礎となる制御の方をしっかりと教えないと大惨事が起きそうな気がしていた。
「パパ! 火魔法は危ないですから、まずは水魔法から教えてあげてください!」
「でもなぁ、水は難しいんだよ。イメージするのが……。炎が一番イメージしやすいんだよなぁ」
「それでも、火はダメです。キララとエルが火傷したらどうするんですか!」
「ママ、わたしちゃんと魔法を出せたよー」
「エルも出せた」
いや、ふたりとも発動したけど、制御できてませんからっ! 炎じゃなくて火柱が出てるからね!
魔法が初めて発動させられたことを喜んでいた二人ではあるが、制御はまったくできてないのだ。
「二人とも、魔法は発動させるより制御が難しんですよ。ママも魔法の心得はあります。パパに任せておくと大変なことになりそうだから、キララ、エル。まずは水魔法からやりましょう」
「エルは火がいいー」
「ママー、わたしも火から覚えたーい」
「ママー、私も火からいいと思うぞー。発動させられているから、後は制御のイメージを習得するだけさー」
「ダメです。水魔法が発動させられてからの方が、絶対にいいです。パパ、これはママからのお願いです」
ミュースがお願いするように目を潤ませて、まず水魔法から覚えるようにと訴えかけていた。
そういったお願いをされると、ベタ惚れの俺としては無下にするわけにもいかなくなる。
確かに火は火事を引き起こすこともあるから、気を付けないとな。
ミュースはキララやエルが怪我をしないようにと気を使ってくれていることだし、やはり水魔法から教えるか。
「分かった。ミュースの言う通り、まずは水から教えることにしよう。エル、キララ、火は中止で水のイメージをしていくぞーー」
「わあったー! エルはお水のイメージ!」
「ママとパパがそういうなら、わたしもお水からー!」
二人ともミュースが心配してくれたことが嬉しいようで、聞き分けよく、水魔法の習得への変更を了承してくれていた。
本当に二人ともいい子だな……。
よし、今日はママに頼んで夕食は奮発してもらうとするか……。
そんなことを考えていると、エルがさっきと同じように魔法を発動させようとう~っと唸り始め――。
次の瞬間、王城の中庭には大きな水柱が噴き上がっていた。
「パッパー! お水出たー!」
「キララもやるー!!」
隣で同じように唸り始めたキララも、エルよりも大きな水柱を噴き上げていた。
「みーーー!!」
近くて二人の様子を見ていたミーちゃんが、降り注いだ滴に驚き、猛ダッシュで建物の中に避難していた。
そして、水の魔法を練習させろと言っていたミュースの元にも大量の滴が降り注いでいた。
「きゃああああ! お水が、お水が噴き出してますよ! パパっ! エ、エルとキララを止めてー!」
噴き上がった水柱から大量の滴が地面に降り注ぐ。
その場にいた俺たちは全員、服がずぶ濡れになっていた。
「パパ、ママ! あたし、魔法使えてるよねー! いっぱいお水出てるよ!」
「パッパ、マッマー。エルもできりゅー」
「ああ、ビチャビチャ……!?」
ずぶ濡れになった俺は、怒られるかなと思い、チラリとミュースを見た。
あ、やべ。
水でずぶ濡れになって肌が透けてるじゃん!!
エルもキララも!?
そんな時、突如噴き上がった水柱から溢れた水に驚いた、衛兵たちがおっとり刀で駆け付けてくるのが見えた。
「ドーラス殿ーー!! これは一体いかがなされたー」
はっ!? マズい! 今来たら、嫁と娘のあられもない姿を他人様に見られてしまう!!
今の三人を見られる訳にはいかないー!
「な、なんでもない!! すぐにおさまる!! それ以上近づくんじゃない!!」
「で、ですが、王に原因を報告せねばなりませぬので!!」
衛兵たちが中庭の入り口まで近づいてきていた。
あと一歩踏み込むと、三人の姿を見られてしまう。
こうなったら仕方ない、許してくれ!
「
「ド、ドーラス殿ーーーーーっ! なにをーーー!!」
「す、すまんっ! だが、うちの家族を守るためにはこうするしかないんだ! 許せ!!」
俺は近づこうとする衛兵たちを風の魔法によって吹き飛ばしていた。
「パ、パパ!? 何をして?」
ミュースが衛兵を吹き飛ばした俺の姿を見て、目を点にしている。
「そ、その! ママとみんなの服が」
俺の言葉でミュースが自分とキララたちの服を見る。
「きゃ! きゃあああああああああっ!! 見てはいけません!! パパ! あっち向いてて!! キララ、エル! 魔法は終わりよ! お部屋に戻ります」
俺はミュースに言われた通り、明後日の方向に視線を向けた。
「なんでー?」
「なんでーママ?」
「いいから、すぐに行くわよ」
ミュースが二人を抱えて、建物の中に走っていった。
その後、俺は衛兵を吹き飛ばしたことで、王様に呼ばれたが、理由を話し該当の衛兵たちに謝罪をして反省文の提出をさせられることになった。
だが、嫁と娘のあられもない姿を見られることは阻止できたことで俺は満足感を覚えていた。
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